206話 モノヅクリ
206話目投稿します。
町を造るという事。
今までにない経験は、遠い未来に刻まれた歴史としての一歩か?
以前は王都がある中央部と南方領地を一応の形式上、隔て互いの行き来する者の管理を行っていた南の関所。
時が過ぎれば王国側が南方に対しての警戒を行う為の建造物となってしまったわけだが、私、マリー、ヘルト、少しでもと人手を買って出た私の両親を始めとする一団の到着を以て、建物としての任を一時的に止める事となった。
関所といっても今までの利用からして対した機能はなく、兵が駐在するため、または訪れた旅人などが一時的に休める場所としての生活環境がある程度だ。
これより先、ここを起点として城塞都市という名に見合う一大拠点を造る。
その為に先んじて到着した私たちがまず始めに手を付けるのは、後続の人員を受け入れる為の環境造りだ。
『何から始めるべきかな…』
正直なところ、あまり悩んでいる時間もない。
先んじて到着、などと言ったものの、町作りなんてそうそう経験ある事でもない。
「こういう時はまず積み荷の保管場所だ。」
悩んでいたところに声を掛けてきたのは、私の父、ジョン=スタットだ。
その横に立つ母親、アイナ=スタットが父の言葉に付け加える。
「次に来る人達のための準備も必要なのだけれど、もっと重要なのは作業が途中で止まるような事になってはダメよ。」
積み荷の置き場所を作った後は、十分に休息を取らせた上で、馬車を戻らせる。
追加の資材を用意するために王都へ往復させ、潤沢な資材を動かせる環境を作る事が大事なのだ、と。
『成程…』
「まぁ、とりあえず資材置き場に取り掛かるぜ。」
こちらの返事を待たず、父は資材が積み込まれた馬車へと向かう。
「あっちはあの人に任せて大丈夫でしょう。私たちは同じくらい大事な事をやりましょう。」
母が言う大事な事というのは、元から駐在している兵士や、私たちが休める場所の確保。
「フィル様のご両親は凄いですね。同行頂けて良かった。」
マリーは私の両親に向けて、かなり感激しているようだ。
「軍務に就いて、参謀などと言われたところで所詮は戦うためだけの知識…やはりこうした際では経験が物を言いますね。」
少し遠いところでは、父が作業員と一緒に早くも簡易的でありながらもしっかりとした建物の骨組みを組み上げている。
母は母で、ヘルトと共に簡易的な調理場を拵て、今のうちから食事の準備。
私とマリーは、寝泊りするためのテントの組み立てに勤しんでいる。
これはこれでそこまで機会があったわけではないが、旅の中で何度も野営を行ったのが功を奏している。マリーの言うところの”経験”というのも理解できるというものだ。
『それにしても、うちの親にこんな特技?…いや知識か?があろうとは。』
「えっ?」
と驚きの声を上げるマリーは私にとって驚くべき事を語る。
「もしや、ご存知ではないのですか?」
改めて聞かれる物の、そもそも何に対してなのか、話が読めない私。
「お二人はキュリオシティの町作りの第一人者の一角ですよ?」
『え…嘘でしょ、それ。』
と聞き返すが、ふと何か頭に引っかかるモノを感じた。
「いえ、間違いありませんよ。今でこそあの町は随分と発展していますが、町としての歴史はそれ程長くはないんです。」
冒険都市キュリオシティと呼ばれる所以。
それは冒険者によって町の基盤が作られ、国の内外に於ける冒険者の足が絶えず発展を続けた結果、今の形を成しているという。
『もしかして、叔父様も?』
「ええ、お察しの通り、アイン様も携わってます。」
あの町の賑わいを見ればあまり目立つモノではないが、町の創設に於ける歴史や経緯をしっかりと保管している施設もあるのだ、という事だ。
「アイン様はそういった事務的な点で尽力されていたようですね。」
マリーの口から聞いた話で、引っかかっていた事に合点がいった。
以前、こことは違う時代で訪れた同名の町。
あの町で出会った親切な司書。
彼が語った”町の始祖”というのはもしかしたら、私の両親や叔父の事を指していたのかもしれない。
恐らく、あの時代で町の建設を率いた者が居たとして、その人の言葉であれば”始祖”なんて呼び方はしない。
『…もしそうだったら、ちょっと嬉しいかも。』
あの時代に再び訪れるのは難しいと思うし、もし行けたとして、歴史の修正を望んだ男の願いが叶っているとしたらまったく同じ世界ではないのかもしれない。
けれど、私が見たあの世界、あの時代において、私の予想が間違ってないのなら、少なくとも叔父や両親の想いは長い時間を経ても尚、形として残っていた、という事になる。
それが少し嬉しくて、作業の手を動かしながら、私は微笑むのだった。
一心に作業を行っていると、時間の経過はあっという間。
「フィル様、そろそろ今日の作業は終わりにしましょう。」
『ふぅ…そうだね。マリーさんはここらの皆に声かけてあげて。私は父の方に行ってくるよ。』
了解しました!と敬礼するマリーに、そんなに畏まらなくても、と苦笑しつつ父たちが資材置き場の建設を行っていた場所へと向かう。
『…お…おぉ…』
こちらの作業の合間も、建設作業の音は聞こえてはいたが、こうしっかりと組みあがった資材置き場を目にしてしまうと、感嘆の息が漏れる。
『父、すげぇ…』
この場所で作業にあたっていた者たちは大体の作業を終え、片付けに勤しんでいた。
当の父は、一日で組み上げた資材置き場の屋根の上で出来栄えを確認している。
「おう、フィル。そっちは終わったか?」
高いところから私の姿を目にした父が、相変わらずの大きな声を掛ける。
『父、凄いね。流石に予想外すぎた。』
「がはは、もっと褒めていいのだよ?我が愛娘よ。」
『調子に乗ると落ちるよ、父。』
「少し見てもらっていいか?」
と言われ、一瞬、何を?と頭を過るが、あぁ…そうか随分と久しぶりだな。
父の言わんとする事を理解した私は、わずか半日程で一先ずの完成となった資材置き場、その建物を支える柱に触れる。
掌から柱を介し、建物の形、その輪郭が、私の意識下へと映し出される、そんな感覚。
特に気になるところは…あ、あった。
「どうだ?」
屋根の上から下りてきた父が私に声をかける。
『うーん、そこまで深刻ってわけでもないんだけど、あそこ。少し材質が弱いというか劣化してる気がする。』
指さした屋根の辺りを確認し、再び父は屋根の上へと戻り、示した辺りを確認する。
「あー…確かにここだけ少し軋むな。」
確認だけ済ませて再び下りてきた父。
「明日にでも補強しとく。」
『お疲れ様。』
そうして建設開始の作業一日目は終わりを迎える。
早い時間から食事の準備に取り掛かっていた母やヘルトの元へと父と連立って向かう。
夕陽に照らされる新しい町の一時。
今日の作業中にあった他愛のない会話をしながら歩くまだ”町並み”とは言えない道だが、きっと数日の後にそれに見合う物になるのだろうな、と不安だった都市建設にも少し希望が見えた気がした。
『父。母もだけどさ、一緒に来てくれてありがとうね。』
と呟く私の頭に手を乗せて、ニカッっと父は笑った。
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出る杭を討つ。
ここはそう言う場所だ。
次回もお楽しみに!