20話 白い少女
ついに20話目の投稿になりました。
日々のPV数が励みになります。つたない物語を読んで頂いて感謝です!
再びフィルの前に現れた影、そしてローブの子供。謎が謎を重ね物語は進みます。
(影…何でこんなところに…)
震えながら涙を流す少女を前に、私は動けずに居る。
下手に動いて少女が襲われるのは駄目だ。
そっと腰に手を回し石剣の柄の感触を確かめる。
(念の為にとは思ったけど、アレに通用するのかは解らないな…)
あの夜の影は私に問いかけ、貫き、消えた。
「フィルおねえちゃん…」
『え?…』
見知らぬはずの少女の口から漏れた私の名前、聞き間違いではない。
(何で私の名前を!?…)
ただでさえ少女の背後の存在に対していっぱいの私の思考はその言葉で停止しかける。
(…落ち着け、でも…)
幼子が抱擁を求めるように少女の両手が私に差し出される。
背後の影を視界に捉えたままゆっくりと近づく。
今のところ動く気配はない、と思うが普段の感覚が通用しないのは解っているから油断は出来ない。
「おねえちゃん…やっとあえた。」
少女に手が届く距離に近づいたところで私も手を伸ばす。
そして、少し冷たい少女の手を握り、引き寄せる。
力の限りに抱きしめられた私はひとまず少女の頭を撫で落ち着かせようと試みるが…
ゴウッと耳に聞こえた音に、しまった!と考えるもすでに手遅れ。
大人しかった影は突然膨張し、私も少女と共に飲み込まれてしまった。
影に包み込まれ、周囲は何も見えない中、私の胸の中で少女が呟く。
「あったかい。」
私に抱き着いたままの少女はゆっくりとした動作で私の背に腕を回す。
『…ごめんね、安心させてあげたいのだけれど。』
少女を抱きしめたまま、周囲を伺うが、辺り一面影に包まれまったくの暗闇で何も見えない。
『ひとまず動きはなさそうだけど…どうしたものか…』
と考える私に、少しばかり安心したのか、少女が口を開く。
「くらいのきらい?」
『うーん…嫌いとかじゃないけど、このままじゃあなたをおうちに返してあげることもできないしね…』
困り顔の私に少女が私の胸元からひょいっと離れ。
「わかった!」と元気に発し、目を閉じる。
瞬間、周囲の影が音もなく消えた。
『えっ?!』
突然起こった現象に驚く私とは対称に、笑みを浮かべる少女は再び私の胸に抱きついて来た。
「くらいのなくしたよ!えらい?」
『え…うん。えらい。』
何が何やら判らない…ただでさえ影の存在自体が謎な上、それを一瞬で消し去る少女の存在。
「えへへ。」
と嬉しそうな幼子の様子を見て、ついつい頭を撫でてしまう。
さらに嬉しそうな少女の姿に、私は『…ふぅ…』と安堵を漏らすのだった。
『そういえば、アナタの名前は何て言うの?』
「イヴはね、イヴっていうの!」
『イヴちゃんかぁ…とりあえず、よろしくね。』
名前を呼ばれて嬉しいのだろうか、噴水の淵に座る私の膝枕にすりすりと頭をこすり付けている。
(何というかまぁ…可愛いのだけど…)
恐らくこの子は普通の子ではない。
余程察しの悪い…例えばだが、カイルであったとしても先程の出来事を見れば解る。
無邪気に戯れてくるイヴをあやしつつ、例え話に出てきたカイルを待つことにした。
噴水広場に到着したカイルは一度辺りを見回し私の姿を捉えると小走りに掛けてきた。
「わりぃ。ちょっと遅くなっちまった…ってその子、誰だ?」
『まぁ…色々とあるんだけど、ソレ貰ってもいい?』
カイルが腰に下げている水筒を指差す。
一口含み、イヴにも飲ませてからカイルに返す。
『イヴちゃん、こいつは…』
「カイルおにいちゃん!、だよね?」
(…やっぱり。)
そう、この子、イヴは私達…いや、私の事を知っている。
私は知らないのに、この子は知っている。
「カイルおにいちゃんはずっとおねえちゃんといっしょにいたんだよね…んで、カイルおにいちゃんはおねえちゃんのこと…」
「!!、わぁあああ!」
突然カイルが大声を上げ、イヴの口を抑える。
イヴは目をパチクリさせ、モゴモゴと何かを言ってるが、カイルは人差し指を口の前に当て「しー!」とか…
まあ…わかり易いヤツなのは知ってるよ。
『まあ、というわけでカイル。その子はイヴって言うんだけど…迷子の子ってとこかな?。時間も遅いからとりあえず宿に連れてくつもり。』
「ふーん。」と言いながらイヴの頭を撫でつつカイルはコソコソとイヴに耳打ちする。
「うん!わかった!」
と言うイヴの様子を見る限りカイルのお願いは通じたようだ。
「カイルおにいちゃんがおねえちゃんのことスキなのはないしょだね!」
私達を置き去りにしてカイルが走って行ったのはまあ…解らなくもない。
『気づかれてないと思ってるのはアンタだけだよ…バカ。』
仕方ない、と愚痴りながらイヴに手を差し出す。
『私達も帰ろう。』
満面の笑顔で手を握り返し「うん!」とイヴは元気に返事をする。
夜空に浮かぶ満月の光は街灯のオレンジ色と交わって街を紫色に染め上げ、二人の影を長く伸ばしていた。
(影、か。)
感想、要望、質問なんでも感謝します!
我ながらカイル君みたいな男の子はいじめたくなるんですよね(ぁ
次回もお楽しみに!