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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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200話 傍観の記憶

200話目投稿します。


エルメリートが語るあの日の出来事。

己に宿る力の片鱗を知る。

覚えている事。

朱い瞳の男。

その腕を切り落とし、叔父を一旦は助けたエル姉。

怒りを買ったようでいて、どこか下らないといった顔ははっきりと覚えている。

難なく切り落とされた腕を治療し、その動きを確かめた後に放った一撃。

エル姉を狙ったはずのその一撃は、あろうことかあの場に居た中でも一番、戦いなどに向いてないはずの叔父によって狙いを外される事になった。


そして外れた狙いの矛先は、叔父の胸の真ん中を貫いた。


叔父とセルストが何か話している光景を見た。

視界が朱く染まり、ブルブルと言う事を聞かない体の中でも目に映るその光景だけが鮮明で、剣を引き抜かれた叔父が力無く倒れるその光景を見た。


そこで私の記憶は途切れている。




「…成程な。」

まさに叔父が死んだその光景を見た直後からの記憶が無い。

「その後の出来事、私が見た範囲でなら教えられる…どうする?」

今、互いに辛い記憶を口に出す事。

それは恐らく、先程の私の体の異変に関する事に繋がるという事。

だからこそ今、その話題を出した。だとすれば聞く必要がある。

『私の体について、エル姉は関係があると思ったんだよね?。だったら聞かせてほしい。』




「はっきり言って、夢物語と言われてもおかしくない。」

前置きをして語り始めたエル姉の話。

結論から言えば、確かにエル姉の言う通り、物語にでもありそうな信じがたい話。


叔父に突き飛ばされ、不幸にも命を救われたエル姉は、すぐさま叔父の元へ駆け付け、その体を抱きかかえた。

「アイン様が私に遺した最期の言葉は一言。」

逃げろ、と。

息を引き取った叔父の体を抱え、この場から、セルストの追撃から逃れるために、私が膝をついて伏していた場所に目を向けた。

が、そこに私の姿は無かった。

一刻も早く、セルストから逃げなければと辺りを見回したが私の姿が見つからない。

焦りを感じながら、まさに見失ったその姿に呼びかけようと口を開いた直後。


ドンっ!という衝撃音がセルストを襲った。


何事かと、そちらを見れば、セルストを襲った姿を視界に捉えた。

全身が浅黒くそまった襲撃者。

その体躯は姿が見えない私と同じ。

腹に一撃を受けたセルストは先程までと打って変わり、苦し気な呻き声を上げた。

瞬間、エル姉は叔父の最期の言葉を理解した。

叔父が言いたかった本当の意味は、セルストからの逃亡ではない。

この場に居続ければ、2人の戦いに巻き込まれるという事だったのだ。


急ぎ、叔父の亡骸を抱えて場を後にするが、あの駐屯地にはまだ生きている者が数名。

しかも、私と一緒に駆け付けた者もいる。

少し離れた建物の影に叔父の遺体を横たえた後、エル姉は急ぎ、壊滅した駐屯地を駆け巡る。


幸運にもすぐにマリー、グリオスの姿を発見したエル姉は、自分の身分と状況を報せ、助力を得る事となる。


エル姉が駐屯地を駆け巡る間も、セルストと、私と思しき姿のぶつかりあう衝撃音が響き渡り、音だけでなく衝撃そのものが大気を揺るがすかのようにも感じられた。


叔父の遺体を確認した先の両名は絶句しながらも、何とか一旦オスタングへと戻る手はずを整え、急ぎ駐屯地を後にした。

ただ、マリーは出る直前まで私の心配をしていた。

自分にもその気持ちがあったエル姉は、一人遠巻きながらもあの場に残る事を決め、マリーに必ず連れて戻ると約束をした。


武器を携えながらも己の肉体、体術を使っての戦闘。

武道家といった類いの戦いは、フウキを始め何度も目にしたことはあるが、あの時の光景はそれらとはまったく違う。

ただ、本能のままにぶつかりあっているかのような印象だった。


どれだけの時間、衝突を続けたのか、一撃毎に巻き上がる衝撃は、互いの肉体に明らかな有効打として通ってはいるはずなのに、一向に治まる気配はない。

先に「化け物め」とセルストに発した言葉は、結果として彼だけを対象とした言葉ではなかったという事だ。

打撃によって骨が砕けても、胴体の一部を捩じ切ってもすぐに生える、中でも一番恐怖を感じたのは、強打を受けたセルストの首が一回転した事だ。

あれで死なないというのはもう、明らかに常人といえる範疇を超えている。

あんな力が行き場を無くして、目に付いた者に振るわれでもすれば、恐怖どころの話ではない。

エル姉自身も、ある程度の恐怖に耐性があると言えど、あの場に踏み留まるのに随分と精神力を消耗したという。




いつまで続くのか、緊張と集中が切れそうになりながらもただ待ち続けた戦闘にも終わりは来る。

互いに消耗しているのは明確だが、勢いを弱めたのは私と思しき赤黒い姿の方。

対してセルストの表情は、とても楽し気に嗤っていたのを覚えている。

宝物を見つけたような、懐かしい知人に再会するような、冷静でありつつも狂気を感じさせるような笑みだった。

遠目でも見えるように高らかに笑い声を上げたかと思いきや、何等かの魔力を使ったのか、セルストは一瞬にして姿を消した。


残された赤黒い影は、肩で息を吸うようにしばらくその場に留まっていたが、僅かな間を開けた後、膝から崩れ落ちるように地に伏した。

全身を包み込んでいたその影が霧散し、下から現れたのが、全身傷だらけで打ち捨てられたかのような私の姿だったという。




『…』

叔父を目の前で亡くした喪失感が、私の中の何かを揺り動かした。

そして恐らく、その正体をセルストは知っている。

何より、エル姉だけじゃない。

私も気付いてしまった。

『…エル姉、この体の違和感…その時の…』

「あぁ、間違いないぜ?。謎は分からなくても、その治癒力はあの時に近い。」

『そして、その治癒力ってのはセルスト卿に同じか僅かに劣る…?』

「治癒力が、というわけではないだろうが、少なくともセルストにはまだ余力があったように見えた。」


この先、あの人と戦い、打倒すためには、少なくとも、私の中にある謎の力を知る事と使いこなす必要がある。

理性のタガが切れ肉体を顧みずに暴れた反動が、数日間の治療を要した程の重傷。

耐えるための体を作る事、力の正体を調べる事…いずれにせよ行かなくてはならない。

『南方地方…』

「…フィル様、キョウカイの力をお使いください。前当主が望んだ事ゆえに…」

随分と長い時間、話をしたエル姉に変わり、リアンが組織の力を使うように促す。


『…いずれは私も行く必要はあるだろうけど、ね。』

感想、要望、質問なんでも感謝します!


人ではないモノ。その力の行き着く先は…


次回もお楽しみに!

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