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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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199話 違和感

199話目投稿します。


美味しいお茶は心を和ませる。

心の癒しを経て余裕が生まれた時間は現状を顧みるには申し分ない。

「気分はどうですか?」

『ありがとう。大分落ち着いた…と思う。』

下層の家に到着してすぐにお茶の準備をしてくれたリアン。

少しの間を置いて出されたお茶は丁度いい塩梅で、それなりに熱いものの、何となく落ち着く感じがする。

「フィル…その気分はまぁ回復したとして、体、最近自分の体に何か違和感はないか?」

私の体のそこかしこに触れ、確かめながらエル姉が問う。

『んー…別に?…あぁでも最近ちょっと自分でも不思議に感じる事なら一つ。』

腰にぶら下げた刃を取り出し、一振り。

左手、肘より少し先に向かって腕を斬る。

「ちょ!、フィル!」

「フィル様!?」

当然ながら、一気に流れ出す血は私の服を少し、テーブルは少々汚れてしまった。

『見て。』

ほんの数秒。

勢いよく溢れた血は止まり、一応は綺麗に斬ったものの、傷口そのものも一筋薄い線だけ遺して塞がり、言われなければ気付かない程度の痕を残すのみとなる。

「お、おま、それ!」

「魔法…を使ったわけではない。ですね?エル。」

「そもそもフィルは癒しの魔法は使えねぇだろ?」

『そうだね。』

慌てふためく様子から一転、今の2人の顔は驚愕に変わっている。

「それに、リアンもある程度は知ってるだろ?アタシの癒しの魔法ってどんなのかって。」

「ええ。人並みに、ですが。」

目の前で起こった事に対して、当然ながら癒しの魔法と呼ばれる世の理についての話に変わる。




癒しの魔法、力、治療術、回復魔法などと一般的に呼ばれているソレ。

言葉だけ聞けば、あらゆる傷を治療し命を救う、などと思われがちで、事実、あまり知らない、魔法に縁のない者からすれば”どんな傷や病気でも治す”なんて考えてる者も多い。


実際の本質は、術師、使い手より与えられる側にある。

癒しの魔法と呼ばれるモノはあくまで元来誰にでもある傷や病気に対する抵抗力を高め治癒能力を活性化させるという代物だ。


確かに先程の私の行動。

立ちどころに消えた傷自体も、使い手の能力次第で差はあれど、癒しの力、自己治癒能力を高めるという意味ではソレに見えなくはない。

けれど、エル姉の語る癒しの魔法についての話は完全に私のソレを否定する形となる。

「癒しの力ってのは精々治りを早くする程度のもんだ、はっきり言って今のお前のはソレじゃねぇ。どれだけ徳を積んだ治療師でもその早さはあり得ねぇよ。」

更に付け加える。

「それに、あくまで治療する対象に、体の治癒力が残っている事が前提だ…生死の境目に立ってるような相手には意味がねぇんだ…」

少し悔しがるような表情を見せる理由は、先の叔父の事、そして恐らくは目の前で救えなかった者が他にも居たのだろうな、という私の予想はそれほど間違いではないだろう。

「ソレに気付いたのはいつだ?」

『確信というか、ここまで早いって分かったのは今かな。』


意識を失って目覚めたのは故郷のノザンリィ。

私の治療に当たってくれた村の医師の話では、常人に比べて恐ろしく早い回復速度。

その話を聞いて、今日に至るまで日常の中で小さな手傷を負う事も何度かあったのだが、痛みを感じてそこを見ても何も無い。

本当に小さな傷など無かったかのように消してしまう。

それが今の私の体にある違和感の全てと言っても過言ではない。

「…」

押し黙って考え込むエル姉には何か思うところがあるのだろうか?

『やっぱり…何か変だよね。私の体。』

「それと関係しているかは解りかねますが…」

ブツブツと何かを呟くエル姉を余所に、リアンが口を挟む。

「先程フィル様が倒れかけた症状。私には一種の”魔力酔い”のように見えました。」


魔力酔い。

魔法の力に慣れない者。良くある話としては、初めて魔力を使った際に大体の者の体に起こる一種の洗礼のようなモノで、症状が酷い者だと十日程の意識不明になる者も居るという。

「それほど見る機会がある事、でもありませんが、チキとフウキとの戦いで私たちが見たフィル様の魔力。無論初めて魔力を使ったという事で無い事は知っていますが、キョウカイという未知の組織との出会い。その緊張感を考えれば、それに近い疲労感があったのかもしれない、と。」

『成程…言われてみれば、あの時はまぁ…正直、加減する余裕はなかったなぁ…。』

私が思っていた以上に、あの2人との戦闘は疲れた。

チキに放った一撃に込めた魔力もそうだが、それよりフウキの一撃を防いだ方法。

彼の一撃の重さは勿論だが、ノザンリィを出る前にガルドに手渡された追加の刃。

今まで3本を使っての行使は、練習も含めて何度もあったが、5本の操作は初めてだった。

更に攻撃に使用するのとは違い、その攻撃が止むまで防ぎ続けるというのは思っていたよりしんどかった。

『単純に気が抜けたのかな、と思ってたけど、魔力酔いか…成程…。』

言われてふと思う。

最近、魔力を使う際の感覚が、以前とは少し違う気がする。

『エル姉。エル姉は魔法の使い方、誰に教わったの?』

と聞いたものの、恐らくは…。

「ん?…あぁ、アタシはマグゼ婆に教わった。あとは細かいとこだとレオネシア様とか…あー、それ以上に良く知ってる人って言うなら、アイナ様もだぞ。」

まぁ予想通り。ただ母にも教わっていたのは予想外。

そうすると、私が新しく教えを乞うとすれば、マグゼさん…マグゼ婆といったところか。

『マグゼば…マグゼさんって普段どこに居るの?』

「老は普段から教会に居ますよ。」

教会に不在だとしても、隣接する孤児院に居るはずだ、とリアンが教えてくれた。

時間のある間に話ができるといいのだが、普段の…表向きの生活をしている中で訪れるのは大丈夫だろうか?

「普段から、癒しの魔力についての講義をしたりもやってますから、魔法に関しての教えであれば然して問題はないですよ。何なら私からお話しておきますが?」

『うーん…ちょっとしばらくは忙しそうだしねぇ…。』


その忙しさの一番は明後日、王国を挙げての叔父の葬儀なのだが、その前にラグリアにも会っておきたいのも事実。

とはいえ、あちらも忙しい立場だ。

”いつものこと”とは言え、突然、明日会いに行ったとして会えるかどうかは怪しいところだ。


『まぁ、そのうち、かな?。』

「本気で教わるなら覚悟した方がいいですよ?」

と笑うリアンだが、今まで聞いたマグゼ婆の話からすると、どんな目に会うのか恐ろしい気もして、どうするか本当に悩ましいところだ。


「ともかく、今日はもうお休みになった方がいいでしょう。エル?もういいかな?」

相変わらずブツブツと呟いているエル姉だが、リアンに声を掛けられて我に返る。


「あ…うーん…最後に一つだけ…長くなっちまうかもだが…」

少し口に出すのを躊躇うような様子のエル姉。

『…エル、何かあるなら、隠さず言ってほしい。私は多分、まだまだ知らなきゃいけない事、沢山あるから。』

私の言葉を聞いたエル姉は、意を決して口を開いた。




「あの時、アイン様が…死んだ直後の事…お前、覚えてるか?」

感想、要望、質問なんでも感謝します!


大切な人の死を見た。次に気付いた時は遠い地だった。

あの時、私が見れなかったモノ、起こった事は…


次回もお楽しみに!

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