198話 外套の群れ
198話目投稿します。
新たに出会う、その顔全てが知らないわけではない。
思いも寄らぬ人との再会もまた、新たな出会いと言える事もある
「い、言っとくがな!オレはお前を認めたわけじゃねぇからな!いいな!?」
結局フウキに場を取られてしまった形になったチキ。
こういうのが所謂捨て台詞っていうやつなのだろうか。
言いたい事だけ言って、上の方の段へと走って行ってしまった。
オーレンと年端も近かろうに、彼に比べて随分とやんちゃなチキは年下の子供としては私の目には新鮮に映る。
立ち替わり呼吸を整え終わったフウキが礼儀正しく胸に手を当てながら頭を下げる。
普段は船乗り、と言っていた見た目や作法とは大違いでその差が少しだけ楽しく感じる。
「フィル様。改めましてフウキと申します。してやられましたよ。戦闘に於いての実力は先代とは比べるまでもありませんな。」
差し出された手を取って、しっかりと握手を交わす。
戦いの様子からも分かりやすいように、義に熱い、フウキからはそんな印象を受けた。
『フウキ、宜しくね。』
三人組の外套姿が横一列に並んで私の前に立つ。
フードを払った3人、いずれもどこかで…いや、そうだ彼らは…。
「フィル様。アイン様を失った事は私たちも辛い…けれど、貴女様のお力拝見し、継承の素質は十分だと理解致しました!、我らの力、貴女様と共に!」
外套の下、僅かに見える靴は、軍靴だ。
それに彼らの顔は王都、東領、西領に訪れた際に見た記憶がある。
襟元から少し見える鎧も、それぞれの軍と同様の装飾が施された物だ。
「おい、オスタ。そういうのはまず自分の名前言わなきゃだろ?。緊張するのは解るけどさ。」
向かって正面に立つ男もフードを捲り、その顔を見せる。
「フィル様。自分はエデ。オスタともう一人、ヴェスと3人で同じ任務に就く事が多いのでよく一纏めにされてました。今後も宜しくお願いしますよ。」
オスタと呼ばれた最初の男から比べると少し軽い印象を持つ男だ。
「はいはい。どうせ私たちは三馬鹿とか纏められますよーとは言わせないよ?どけ。」
エデを蹴り飛ばして前に出た3人目。声色からすると女性。
フードの中から現れた顔は…。
『えっ…貴女は…』
「お久しぶり、と言った方が良いでしょうね。恐らくフィル様が考えている者、で間違いありませんよ。」
ヴェスと呼ばれた女性は、彼女の言葉に相違なく、西方領主パルティアの御付きとして傍らに居た女性で間違いない。
聞けば表向きはパルティアの御付きの従者であり、西方軍の将校として、裏の顔としてのキョウカイの一員。
彼女を含めた3人の主な任務は、軍部に身を置き、その地方に起こる紛争、災害などを一早く知らせる事だという。
例えば先だってのオスタングの火山騒動も、オスタによる情報が元になって叔父が計画し、東方へと出向く流れになったのだという事だ。
叔父の持っていた情報の出所の一つは間違いなく彼らから齎されるものだったのだろう。
『ヴェスさん…流石に驚きました…貴女もキョウカイの一員だったとは…。』
「秘密ですよ?。あぁ、勿論この名は本名ではありません。チキにしろオババにしろこの2人も。」
唇に人差し指をあてて小さく笑うその姿は、間違いなく西方で出会った彼女と同じだ。
エデ、オスト、ヴェス。確かにその名前は本名ではなさそうだ。
その名が担当する地を表しているわけだが…安直すぎやしないか?
機会があれば、その名を誰が付けたのか聞いてみたいものだ。
続いて私の元に来たのは二人組。
この2人も先の3人と同様に同じ任務に就く事が多いのだろうか?
外套の上から見る限り、一人はフウキ同様に屈強そうな体躯、もう一人は背は低くはないが細い。恐らくはヴェス同様女性だと思うが…。
歩み寄る姿を見ている…視界が少し…揺れ、私の膝がカクンと地についた。
『あ、れ?…』
体に力が入らず倒れる。その視界の中で慌てて駆け寄る幾人かの姿。
そして隅に見えた離れた場所、先程まで拗ねるようにこちらを眺めていたチキが、勢いよく立ち上がって私を見ていた。
薄れる意識の中で何となく、嬉しくなってしまった。
『う…』
目覚めたのは倒れた場所と同じ地下空洞。
最初に視界に映った顔は、エル姉だ。
薄ぼんやりと光に包まれた手から察するに、癒しの魔法を私に使ってくれているようだ。
「フィル。大丈夫かい?」
『…うん。大丈夫。』
エル姉の後ろ、肩越しにマグゼの姿も見える。
「目まぐるしすぎて疲れたんじゃろうて。ワシもついやりすぎたしの。ヒヒッ。」
と楽しそうに笑う。
マグゼも相当に人が悪い性格をしている。
でも長年叔父と付き合って来たのだとすれば、叔父にせよマグゼにせよ、その図太さは良く分かる。
『ふふ…自己紹介も中途半端になっちゃった…皆さん、ごめんなさい。』
「ひとまず今日はここで終わりとするよ。そう遠くないうちにしっかりと顔を合わせる事もあるだろうさ。」
その言葉を最後に、手に持っていた杖を振り下ろし、この地下空洞に小気味よい打音を響かせた。
「お、おい、お前!…」
去り際のチキ。
わざわざこちらに下りてきたのか、まだ言いたい事でもあるというのか、私の知らない裏の事は勿論私より沢山知っているだろう。
それでも彼はまだ幼い。
周りの様子からしても、未熟なところもあっての彼なのだろう。
「…そ、えっと…あー!もう!!。いいか!認めたわけじゃねぇからな!!」
脱兎の如く走り去る後ろ姿を眺めながら、エル姉に問う。
『あの子、何が言いたかったんだろ?』
「さぁな。アイツは何だかんだでまぁ事実としても一番若いからな。」
「貴女も空気読めないでしょ?エル。」
と窘め、更に付け足す。
「フィル様、あの子は確かに幼い。でも優秀ですよ。事一点に於いては特に。」
エル姉との間に割り込むように、肩に手を回し、何の躊躇いもなく私の体を抱きかかえるリアン。
『わっ?』
一先ずは例の借住まいに戻ります、と呟き、マグゼに軽く頭を下げる。
こちらが恥ずかしがる暇も与えず、私を抱えている事などを感じさせない程の様子で、下りてきた階段を上る。
「少しの間、我慢しててくださいね。」
エル姉にも声を掛け、結果として私たち3人は、あの家へと向かう流れとなった。
『パーシィはどうしてますか?』
私の言葉を聞いたリアンの顔は少々複雑そうな表情を返す。
「私は問題ないと伝えたのですが…気を使ってか一度実家に戻るという事で、今はあの家には居ないんですよ。」
『そっか…』
会いたかったような気も、今は会いたくない気も、対極の気持ちが入り混ざっている、頭の中では秤が一定の感覚で左右に揺れている光景が浮かぶ。
まさにその気持ちを代弁するリアン。
「会いたいですか?会いたくないですか?」
『どうかな…ちょっと分からないや…』
聖堂を抜け、夜の王都へと戻った。
かなり遅い時間だろうか?
寝静まった町は少し肌寒い。
それが王都でも沢山の人に慕われていた北方領主を失った町の静けさからなのか、ただ単に暑い季節の終わりを告げる季節に吹く風なのか、私には分からなかった。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
夜の帷は、静かで、ゆっくりと気持ちを整理するのには丁度いいのかもしれない。
次回もお楽しみに!