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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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197話 静と動

197話目投稿します。


奈落の底で試される力。

認められるために振るうその力はどこに向かうのか?

「おい、フィル。大丈夫か?」

到着早々の諍いを心配するエル姉が私の肩に手を添えて声を掛けた。

『ん?、多分?。私の実力、他の人に魅せるのも必要かなって。』

「あ、ああ…まぁそうなんだが…」

腑に落ちない所がある様だが、私の返事を聞いて大人しく身を引いてくれた。


眼の前で体を伸ばし準備運動をしている少年と、彼に巻き込まれない程度の距離を置いて眺める者。

叔父の元で汎ゆる任を熟していたのであれば、各々程度は違えど私の事も多少なり知っているだろう。

『マグゼさん、ここって崩れたりしないよね?』

おや?といった表情をするものの、頷く様子から察するに、この地下空間はそれなりの強度を備えているのだろう。




なんだろう、このきもちは…

今なら…


「へっ、なんだそりゃ?」

私の指先に合わせて動く小さな刃を見て呆れたように口を開く少年。

如何にも戦いに於いての力は自分の方が上だという自信が見て取れる。

「掛かってこないならこっちからやらせてもらうぜ!」

一足の呼吸で飛び掛かってきた拳を僅かに体を反らして躱す。

余りにも油断が過ぎるその攻撃は、観戦する者たちからの視線もどこか冷たい。


彼からすれば怒りの矛先が目の前にいるという事実が冷静さを欠いているのは分からなくもないが…。

『…キミ、チキって言ったっけ?』

「だったら何だってんだ!?」


『ツマラナイネ。』


「っ!てめ」

反論がその口が言葉を紡ぐより速く、指先で弄んでいた刃を放つ。


ドゥン!


一閃。

この地下空洞の重い空気を斬り裂いて少年の頭部を掠めた一撃が奥の壁に激突して音を立てる。

壁面から砂埃を巻き上げゆっくりと収まるまでの間、裾についた埃を払う私以外に身動きをする者は居なかった。




やがて、ペタリと腰を落とす少年。

「な、な、なんだよ、今の…」

エル姉も、リアンも、マグゼを含む他の者達も目の前で起こった光景に驚きを隠せないのが分かる。

『他にも私の力が見たいって人がいるなら遠慮しなくていいよ?』

きっと彼らの中にも、武としての力に重きを置く人間は居る。

それを確かめるための時間が必要だというのなら…。

「チキ、交代だ。」

私の挑発に反応した者が一人。

今度はチキと対照的に大柄な男。

「ちょ、おっさん!邪魔すんじゃねぇよ!!オレはまだ!」

横から水を刺されたチキが男に食って掛かるが、

「如何なる時も冷静であれ。またマグゼの手解きを受けたいか?」

男の言葉に、釘を打たれたかのように大人しくなる。

それほどまでにマグゼの相手というのは大変なのだろうか?

端からこちらを眺めている老婆の姿からは想像しにくい所ではあるが、先程私に対して向けられた威圧感を考えれば解らなくもない。


『貴方は、普段は何をしているのかしら?』

肩をコキコキと鳴らし、両手を組み指を解す。

「ヴェスタリスで船乗りをやっている。フウキという。」

名前の印象から察するに、ヴェスタリスより西方の、スタットロード家に仕えているサクヤと同様の国の出身だろうか?


西方という事は、パルティアやガラティアとも張り合える程に屈強である可能性は高い。

大袈裟な程の呼吸を繰り返し、構える姿は確かにあの姉妹に引けを取らない程の威圧感…いや、これは恐らく…。

「ほう、勘は良さそうだ。」

ガラティアと同じく修行によって己の肉体を極限まで高めるといった類の力だ。

その目をしっかりと捉える。

瞬きもせず、ゆっくりと呼吸を繰り返し、空気を読む。

意識を集中して、その流れに身を委ねるように、己の存在を薄める。


周囲の音が細かに耳に語りかける。

先程私が放った攻撃で崩れた壁から落ちる砂の音。

息を飲む誰かの喉の音。

小動物の足音、鼠だろうか?

その存在を感じた時、セルストが吐き捨てた言葉を思い出した。

「鼠が」と。

少し笑う。

確かにそうだ。彼らも、そして今はもう私も、同じなのだ、と。


「油断大敵!」

糸の緩みを感じ取った男が地を蹴り、こちらへと飛び掛かる。

先程の少年の跳躍より速く、重い。

避けるのは然程難しくはない。

「シュ!!」

と息を吐きながら繰り出される男の拳。

避けようとしない私の姿をみて、周りが息を飲むその音すら解る。

微動だにせず、衝撃の瞬間を待つ。

腰に下げた刃はすでに放った後だ。


「ぐっ…。」

男の拳は私の目の前で動きを止める。

衝撃音がなる事はない。

間に見えない壁を作った。

先んじて放った刃、先程壁に放った物と合わせて”5本”、円を描くように浮かぶ刃がその内側に強固な壁を形成している。


再び大きく息を吸い込み、肩から腕に掛けて一回り大きくなったような印象を受ける。

一層強めた力で拳を突き出すが、それでも尚、その拳が前へ進む事はない。


ゆっくりと右手を挙げ、見えない壁に添える。

全身の力を込めて拳を突き出すフウキと対照的に、私は然したる力を込める事もなく、恐らくはとんでもない力であろう衝撃を押し返す。

反動に耐えきれなくなったのは、拳を放ったフウキの方。

「ぐぐっ…」

と苦しそうな声を上げたかと思った瞬間、その拳が壁に弾かれ大きく後ろに仰け反った。

「ぐぉ!」

呻き声と共に尻もちをつくフウキは、肩で息をしつつもこちらに警戒を忘れない。

壁を作っていた刃はすでに手元に戻り、今はその切っ先をフウキに向けて鈍く光る。


「フィル様、もう良いじゃろう?」

私を止めるように割って入ったのはマグゼだ。

「皆も十分に分かったであろう。ワシも驚いたがこれが前当主が遺した理由じゃ。」

その言葉を以て、私の顔合わせは一段落を迎える。


「フィル様、お疲れ様でした。」

「いやぁ、ひやひやしたが、フィルもやるなぁ?な!」

場を取り持つように、リアンとエル姉が私に声をかける。

その様子を見てか、周囲で見守ってた数名も、私の傍へと近付き交流を求める様子も見られる。


『皆さん、色々と慣れるまで苦労をかけると思います。宜しくお願いしますね。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


力を認められたとしても、綴った過去を覆す事はできない。


次回もお楽しみに!

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