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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
202/412

196話 暗がりの舞台

196話目投稿します。


暗闇を恐れない子供。

それはまた一つ成長を踏んだか、もしくはただの怖いもの知らずか、いずれかだ。

己の中で覚悟を決めても恐怖が消えるわけじゃない。

私を傍に来るように促す老婆。

見た目に反して纏う威圧感は尋常じゃない。

叔父を失った戦場で向けられたモノに比べればどうという事はない…筈だがアレとはまた何か違う感覚がある。

例えるなら叩くか刺すか、といった感じだろうか?

油断すれば一瞬で心臓を刺されるような錯覚すら覚える。


それでも一歩一歩と進む私の様子を見てか、もしくは感じてか、ただでさえ細く見える目を更に細めてニヤりと笑う。




どれ程の時間をかけたのか?

聖堂の入口から祭壇までの距離が恐ろしい程に長く感じられた。

歩み寄ると老婆は身を返し祭壇に触れて何らかの仕掛けを操作する。

現れた階段、当然ながら先は見えない。

促され踏み入る暗闇に目を細めるが、足元を確認するのが精々。

私の後に、どこから取り出したのか杖を手に老婆が続き、少し下った後、背後で入口が閉じた。


「フィル様。改めて挨拶をさせてもらうよ。」

背後からの声に耳を傾けながらも足元に気を配る事はやめない。

靴底からの感触は新鮮なようでいて、何処となく例の遺跡を訪れた時に近い気もする。

「ワシはキョウカイを仕切っているマグゼという。あのバカ娘などは婆などと呼ぶがね。」

バカ娘…というのは恐らくエル姉の事だろう。

不満気でありながらもその言葉にはある種の信頼を感じた。

そう考えた時に、先程までの刺さるような殺気が消えている事に気付く。

察した老婆、マグゼが少し申し訳無さそうに口を開いた。

「すまなかったね。ご当主の遺言とは言え試す必要があったのさ。」

遺言。

その言葉が示す意味。

つまりは、叔父は生前から自分の最期を知り、このキョウカイという組織に私が触れる事を視ていた。という事だ。

『っ、ホントに叔父様は…』

私の狼狽も読んでいたように、マグゼはカッカッカと笑う。

「さぁ、まもなくだよ。」

マグゼの言葉で、まるで扉が開いたかのように、階段の先、目的の場所が見えてきた。




階段を下りきって辿り着いたのは、円形の空間。

円の中心に向かっていくつかの階段と、数段に分けられた床。

床に転々と設けられているのは座るための椅子だろうか?

一番下の段まで下りた先は、中央に舞台を構えるような…例えるなら円形劇場とでも言えばいいのだろうか?

そもそも劇場という場所に行ったことが無いので詳細は知らないが、私が知る中で言えば…王城の社交場が近いような、いや、他にもどこかで…。

『マグゼさん、ここはもしかして、王都の中心なのかしら?』

「察しがいいね。正解だ。」

老婆の肯定によって合点が行く。

どこかで見たような感覚は、今より先の未来の姿だ。

ここは…いずれ大きな研究に使われる事となるかもしれない場所だ。

中心部に向かうための階段。

その位置からすると恐らくは昇降機と同じ角度で配置されているだろう。

聖堂から下りてきた階段の反対側に見える階段は王都の北側にある何等かの施設に通じているはずだ。

促され広間の中心部へと進む。


「揃っているね?新しい当主に姿を見せな!」

私の傍らに立つマグゼが大きく声を挙げると同時に、外周部、壁に備え付けられた松明に灯が燈った。

やがて広間のそこかしこから、黒ずくめの外套を纏った者の姿が…両手で数え切れぬほどの数が現れた。

流石の私も少し、いやかなり驚いた。

私とマグゼがこの広間に到着した後、階段から誰か現れる様子は感じられなかった。

それは反対側の階段も同じ。

つまり、彼らは最初からここに居たのだ。

まったくもって気配を感じられなかったのは、今まで私が持っていた感覚の自信を無くしてしまいそうだ。

けれど、それは己の未熟さ故だ。


今、視界に映るその外套の数。

十…十三名。

『フィル=スタットです。えっと…始めまして?』

目深に被る外套と、決して明るいとは言えない松明の灯りでは姿を見せた彼らの顔までは見えないが、背の高さで考えれば私よりも小さい者もいる。

その中でも二つの人影がこちらに歩み寄ってくる。

外套を取り払って見えた顔。

一人目はエル姉で「やっぱ来ちまったなぁ…」と呆れるような口調で声を掛ける。

「フィル様…まさか貴女がここに来てしまうとは…前当主の遺言とは言え…」

困惑するような言葉を発するのは二人目。

外套を払ったその顔は、以前船旅を共に過ごしたリアンだった。

その顔を見て、改めてエル姉がパーシィも暮らしているあの借り住まいに居る理由に納得する事となった。

そしてあの時の2人の会話もまた理解する事になる。




他の影も少しずつこの中心部へと歩み寄り数名は顔を見せてくれたのだが、いずれも私が今まで王都で過ごしてきた中で見覚えのある顔ばかりだ。

学術研究所であったり、技術院、王城で見かけた者も居るようだ。

その殆どは現時点では言葉を交わす事はないものの、私に対して深々と頭を下げてくれた。


が、集まった中、一名、背格好は私より小さい者。

傍まで来て外套のフードを払った姿。

幼い少年は私を睨むような鋭い視線で口を開く。

「おい婆!、こんな甘ちゃんが新しい当主だって?どう考えても無理だろ?」

威勢の良さは幼さ故なのだろうか?

マグゼを始め、エル姉もリアンも、他の面々も彼を止める様子はない。

「オレは認めねぇぞ!そもそもテメェのせいで当主は死んだんじゃねぇか!ふざけんな!!」

あぁ、そうか…この子は、叔父が大好きだったんだろうな、と隠す事なく私に投げつける怒りで解る。

改めて彼らの様子を伺うと、各々に一応は私に頭を下げたりと敬意を払ってくれたようには見えたが、幾人かは納得しているようには見えない事に気付く。

叔父の事を敬い、慕っていた者は多い。

そんなの私じゃなくても知ってる。

そして少年が言う通り、叔父の命を奪った原因は私。彼らからすれば目の敵としては申し分ないわけだ。

憤慨する少年と、少年が生み出した怒りの空気が広がるのを感じる。


『…――どうダナ。』


?!何か…今何か言ったか?


無意識に私の口から漏れた言葉。

治まらない怒りもそのままに、聞き逃さなかった少年が私に食ってかかる。

「おいテメェ!今なんつった!」

胸倉を掴まれ、今にも拳が飛んできそうな瞬間。


カーン!!と広間に甲高い音が響いた。


「チキ、その辺にしときな。」

音の正体はマグゼが床に打ち付けた杖の音。

けれど「チキ」と呼ばれた少年の勢いは止まらず。

「嫌だね!!止めたきゃコイツ自身の実力で止めてみなよ!」


『いいよ。キミが望むなら…ヤロウカ?』


直接肌に塗りたくられるような憤怒。

それに応えた私の返事。


マグゼは先程と同様の含み笑いを。

エル姉とリアンは驚愕の表情を。

目の前の少年チキはその怒りを一層強め。


私は静かに、腰に下げている刃を引き抜いた。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


覚悟を決めた。

ホンキで応える事がいっそこの子の為なのではないか?


次回もお楽しみに!

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