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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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194話 意志と意思

194話目投稿します。


幼いその身を覆う重圧、それを支えるのは自分ではない。

いつしか訪れる尊い光景を見るために。

「お姉ちゃん…」

躊躇いがちに開かれた部屋の扉から顔を覗かせたのはイヴだった。

荷物の整理が一段落したところで落ち着いていたのもあり、手招きするが、何やら部屋の外でもたもたしている様子。

はて?と伺っていると、イヴの他にもう一人の姿が目に入った。

「すみません…」と詫びながら部屋に訪れたもう一人。叔父の息子オーレンだ。

当主が亡くなったという事は公の立場として彼は跡継ぎという事になるのだろうが、まだ幼さの抜けきらない歳だ。

当面は代理の立場として叔母が様々な事案に対応する形になるだろう。


叔母の心労も気懸かりではあるが、明晰な彼もまたその重責を理解しているのだろう。

今私の眼の前にいる少年は、どう見たって辛そうな表情にしか見えない。

それを見かねたイヴが、私の元へと連れてきたのだろう。

『入って。ね?』

彼からすれば毎日の習慣である鍛錬の時間。

そこで私との話の時間を取る予定ではあったのだろうが、それを知った上でのイヴの行動であれば私が思う以上に心が疲れ切っているのだろう。




「父の…父の最期を教えて、貰えますか?」

申し訳なさそうに聞くのは、私にとっても辛い光景を思い出す事になる、その心配があるからこそ。

幼いながらも歳に不相応とも言える気遣いは、彼が間違いなく叔父の息子である事の証明。


叔父様、貴方の意思は間違いなく受け継がれてるみたいですよ。


強くあろうとする彼の姿は、私にとってもありがたい。

私より頑張っている姿が目の前にある。

だったら私が落ち込んでいるわけにはいかない。

『叔父様は…最期まで叔父様だった。ってとこかな?』

どれだけ体を痛めつけられようとも、傷だらけになろうとも、自分の心配より周りを気にかけて、気遣って。

私と同じように犠牲を拒んで、目の前で傷つく人を、傷つけられそうな人を見逃す事などできない。

その結果が己の最期となったとしても、それを止めない。

「父上…」

俯き、震える小さな肩。

抱きしめてあげたいという衝動に駆られ、手を伸ばした私よりも早く、傍らで一緒に話を聞いていたイヴがオーレンを強く抱きしめた。

泣きながらもその手を取って嗚咽を漏らすオーレン。


あぁそうか、叔父様はいつもこんな気持ちで皆の事を見ていたのか。


私の目に映る光景。

悲しみの中でも互いに支え合う幼い2人。

胸が締め付けられるようなこの気持ちは、誰が何と言おうとも失ってはいけないモノ。

護るべきモノだ。


オーレンとイヴを両手いっぱいに抱きしめる。

絶対に、2人を傷つけさせたりしない。

2人だけじゃない。

叔父がそうしたように、私の目に映る大切な人たちを傷つけさせたりしない。


しばしの時間を過ごし、落ち着いたオーレン、イヴと叔父についての今までを語り合う。

オーレンから見た父の背中、私が居ない間でも優しくしてくれたと嬉しそうなイヴ。

嫌がらせとも言える様々な出会いを私に与えてくれた叔父。

悲しいはずなのに、涙を流しながら笑っている私たちは、ふと互いの様子を見て、更に笑い声を重ねる事となる。

「おじちゃん、いっつも笑ってた。」

『そうね。周りだってそれに感化されて笑ってた。」

「父の望み、それこそが皆の笑顔だったんですね。」

顔を見合わせ頷き合う。

それなら、いつまでも悲しんでいるのは叔父への弔いに相応しくない。

『笑っていよう。』


そして…それを傷つける者、傷つけようとする者がいるなら私が―――。


「お姉ちゃん?」

イヴの呼びかけにハッとなる。

少し気負い過ぎただろうか?

ゴメンと、何でもないよ、とイヴに返すが、余計な心配をさせてしまった。


少し重い空気を遮るように再び叩かれる部屋の扉。

開いた扉の向こうから顔を出した酒好きの修道士は、私たち3人、というより先客の2人の顔を見て「しまった。」と言った表情を見せる。

「イヴ、そろそろボクたちはお暇しよう。」

少々不満気に「えー、もっとお話したい!」と駄々を捏ねる少女を説得して部屋を去った。


「あの歳で随分察しがいいな若は。」

入れ違いで扉を潜る折、エル姉は小声でオーレンに「悪いね」と呟き彼は彼で「いいえ。」と返す。

彼女が言うように空気を読んでの退室と考えれば、彼の歳を考えれば気遣いどころの話ではない。

『私もエル姉と話しておきたかった。』

「ああ。あの時…”あの後”の詳細。アタシは誰にも言ってないからな。お前も知りたいだろう?」

エル姉が私を故郷まで運び、事の顛末を話はしたが、それはあくまであの戦いの結果だけ。

どんな戦いが繰り広げられていたのか、そして犠牲者以外の話は伝えては居ない。




「まず最初に言っておく。一応、ご党首以外は無事だ。東方の領主サマとあの女参謀サン、あとあっちの兵士と、森で待機してたエルフ族も、だ。」

叔父の事は知ってる。私も見ていた。

でも、私が意識を失ってからの、あの場所に居た他の人たちの事は確かに気がかりだった。

一先ず彼女の言葉を信用しておく。少なくとも今は。

撫で下ろした胸もそこそこに、まず始めに聞いておきたい事。

『エル姉。貴女は結局何者なの?』

やれやれ、と肩を竦め「やっぱりか」と呟いたエル姉。


「教えてやってもいいが…」

次の瞬間、目にも止まらぬ速さで私の喉元に突き付けた刃。

チクリとその切っ先が私の喉に触れている。

背筋からゾワっと汗が吹き出すのが解る。

そして開いた口から、

「フィル。一度だけ聞く。」


「ご党首の…アイン=スタットロード様の意志を継ぐ覚悟はあるか?」


陽の高い時間から仕事をサボって酒を飲む修道士。

ズボラで怠惰にしか見えなかった彼女から想像も付かない鋭い眼光。

彼女の口から出た問いかけは、きっと…。


私の未来を左右する問いだ。




叔父の意志を継ぐかどうか?。

そんな問いは無意味だ。

叔父が望んでいたモノはきっと、私が想う未来の姿に遠くない。


『話して、叔父様の、そしてエル姉の事。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


一つの真実を知るための覚悟。必要なのはまさしく


次回もお楽しみに!

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