2話 宝物
勢い半分で2話目の投稿になります。
3話目は構成もちょっと考えたいので時間空く可能性…
早めになった昼食を済ませた家では、母が後片付けの片手間に間食用の品を準備している。
台所で隣に立ち、手伝いをしながら呟く。
『この季節に珍しいよね…』
母は微笑を浮かべたまま手早く準備を進める。
「フィル、貴女は私たち夫婦の宝物よ」と、父を真似るように親指をグっと立てる。
母と二人で笑い、「夫婦」の片割れ、父が向かった森の方へ視線を投げる。
「さて、落ち着いたらジョンに持っていってあげてね」
テーブルに置かれたバスケットには、水筒と肉の切れ端を炙った簡単な料理をパンで挟んだものが入っている。
『あれ?これさっき父が獲ってきた?』
「そうよ~」と手作業をしながら母は呟く。
(いつの間に解体したんだ。母恐るべし…)
「うふふ、フィル、安心なさい。貴女は特別でも万能じゃないってことよ」
再び親指を立てる。
『母、父の真似やめないと体まで似るよ…』
ふぅ…とため息を漏らしながら、用意されたバスケットを手に持つ。
「私は町の方へでかけてくるから、戻ったらお湯を沸かしておいてね。」
うん、と返事をしてから家から出る。
目的地の森からは、コーン!コーン!と小気味よい音が聞こえてくる。
音に合わせてピョン!ピョン!と跳ねるように目的地へ向かう。
降り積もった雪に父が残した足跡をなぞるように…。
『父、どう?』
さして深くもない森で父の姿を捉え近づく。
少し離れた場所にバスケットを下ろし、中の水筒と母が用意した食事を手に取り父の様子を伺った。
「おう、来たな? まぁ夕暮れの時間には終わるだろうさ…どれ、ちょいと休憩するかな」
打ち手を止めた父は、私の手から差し入れのパンを受け取り一口で飲み込む。
『父、ちゃんと嚙まないといつか喉に詰まらせて死ぬぞ』
相変わらずガハハとか笑いながら、水筒の水で流し込むように食べ終わった。
休憩している父を横目に、先ほどまで父が振っていた斧を手に取った私は違和感を感じる。
辺りを見回し、伐採中にはじけ飛んだであろう木切れから手頃な大きさのものを手に取り、斧腹の隙間に差し込む。
(…うん、よくなった)
様子を伺っていた父から
「ちょっとグラついてる感じがしたんだ、ありがとさん。それで行けそうか?」
と声を掛けられ、父が伐採している木の様子と、斧を見比べ
『うん、今日は大丈夫だと思うよ』と斧を父に手渡す。
「こうして、暮らしてると、フィルがいて、助かる、よっと」
再び伐採作業に戻った父は、小気味よく斧を振りながら合間合間にポツリポツリと話し始めた。
少し離れたところに腰を下ろした私は、父のテンポに合わせながら指遊びをしながら『ん』と聞き耳を立てる。
父の話は私がもっと幼い、物心もついてない頃の話だった。
夫婦の昔からの友人が遠方から遊びに来ると聞かされた私は両親にこう言ったという。
『でもお山は今通れないから来るのは明日になるね』といった内容だったそうだ。
そう聞いた両親は驚きはしたが、何気ない事だと思ったそうだ。
けれど、友人が到着して話を聞くなり、驚愕は確信を持った驚嘆に変わった。
「もしかしたらうちの娘にはとんでもない才能?…能力?があるのかもしれない、と」
けれど、と一呼吸置いて、父が全身に力を籠め、
「せあ!」という掛け声とともに、斧を木にたたきつける。
『父、一歩右に』
と声をかけられた父は、一歩分右に移動する。
最後の一振りを終えた斧は恐らくもう使えないだろう。柄の根本が折れてしまった。
程なくメキメキという音とともに、この小さな森で一本だけ背の高い木はゆっくりと倒れた。
「でも、フィル。どんなに特別であっても、お前は俺たち夫婦の宝物だ。」
倒れた木は先ほど父が立っていた場所を掠めて転がり、他の木にひっかかって止まった。
両の手を口の前で重ねながら、私は小さく微笑み
『…知ってる。母もさっき同じような事言ってくれた。嬉しい』
自分の語りに少し照れ臭かったのか、父は頬をポリポリと搔きながら
「そろそろ家に戻ろう。さすがに冷えてきたしな。」
ぽんっと私の頭を撫で、そのまま家に向かって歩き出した父を追う。
父の言う通り、夕暮れの時間になった辺りは冷え込み始めているが、私の胸の奥はとても暖かいものに包まれていた。
『何事も…なければいいんだけど、ね。』
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