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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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188話 男たちの企て

188話目投稿します。


荒れた駐屯地。

現れた男は、凍り付くような冷徹さと、何者をも焼き尽くすような熱を持つ暴君。

『あ…お、叔父様ぁ!!』

力なく項垂れる叔父の姿は、見るも無残。

締め上げられ息苦しかった私の喉は、その叫びを発する為に、大きく息を吸い込んだ事で改善するが、喉とは裏腹に、膝は嘲笑うかのように思い通りに動かない。

今すぐにでも駆け寄り、叔父の身を、鼓動を確かめたいのに、自由に動かぬ体と、叔父を掴み上げる男の腕がそれを阻止するかのよう。

『叔父様!!』

今一度、大声で叔父に呼びかける。

ブルブルと揺れる視界の中、それでも捉えた小さな動き。

叔父の腕、だらりと力なく垂れ下がった手の先、指が微かに動いた。

「…安心しろ。まだ死んではおらん。」

つまらなさそうに吐き捨てる男、セルスト=ヴィルゲイム。

こちらを睨みつけるその目、朱く光るその目、冷酷でありつつも、その奥に業火のように燃え盛るような眼が、ただ只管に私の様子を観察している。


雨音と、私の呼吸音だけが時間の流れを示すような、そんな空気を破ったのは、意識を取り戻した叔父の吐息だった。

ゴフッと漏れた嗚咽は、襟元を紅く染め、それでも足りない吐瀉物が地に落ちる。

『叔父様!!』

今一度、叔父に向かって呼びかける。

「…やぁ、フィル…無事に…戻った、よう、だね。」

こんな状況でも自分の体より私を案ずるのか…。

良く知っているその優しさに、私の目頭は熱く、雨水ではない水滴が頬を伝う。

「フン…感動の再会とでも言うのか?面白くもない。」

吐き捨てるその言葉に反論するかのように、満身創痍の叔父が口を開く。

「…陛下が、言った、んだよ…我らは、決して…無抵抗では、ないと。」

「貴殿の抵抗など、知れている。」

単純に、争い事という意味合いで言えば、セルストの言葉は間違ってはいないだろう。

その言葉を窘めるように、この状況に於いても、叔父の口元は笑みを浮かべている。

直後、キンッ!と甲高い音が耳を襲い、叔父の体が吹き飛ばされるように宙を舞う。

同時に、物陰から飛び出した黒い影が、叔父の体を抱き留めて地に降り立った。

少し遅れてぽとりと地に落ちたモノ。

依然、私の眼前に立つ男の…ついの今まで叔父を掴み上げていた腕が落ちたのだ。


「鼠め…」

切り落とされたのだろうか?現れた何者かの事も、直前に起こった事も分からない私を置き去りに、珍しいモノでも見るかのような目で、己の腕の断面を見つめるセルスト。

フン、と吐き捨て、残った腕を落下物に向かって翳す。

「化け物が…」

叔父を抱えたまま、黒ずくめの人影が呟く。

力なく地に落ちたはずの腕が浮き上がり、翳した腕へと収まり、何事も無かったかのように合わせる断面から血が流れる事は無かった。

状況の分からない中でも、一つだけ私に見えた光景。

繋ぎ合わせる瞬間、その境目に見えたのは、黒い靄のような…影だった。




「ご当主…相変わらず無茶をして…」

「すま、ない…ゴフッ、たすか、った、と…言いたいとこ、ろだが…」

2人の視線がこちらに、というより私の傍に立つセルストに向く。

「泳がされて分かった情報は有意義だったか?」

「チッ…」

私を無視して、悠然と叔父たちに歩み寄るその姿は、治ったように見えるが、今しがた腕を切り落とされた事への動揺などまるで感じさせない。

掠り傷でも負ったか、むしろ傷ついた感覚など無いのかもしれない。

セルストに向かって、謎の人影が再び何かを投げつける、が、不意をついた先程とは異なり、鋭い剣戟で弾かれ、投擲物は地に落ちる。


そして、手に持つその刃は、呼吸の一つも待つ事なく、貫いたのだ。


「ほう?、己の命より、その鼠の方が大事か。」

「ご当主!!?」

叔父に突き飛ばされた人影が叫ぶ。


私の目に映るその光景は、余りにも、余りにも酷い光景で、時が止まったかと思える程に、ゆっくりと、ゆっくりと、視界が揺らぐ。


刃に伝う夥しい程の朱。


その色に浸食されるかのような感覚と共に。


私の視界を朱く染める。


あぁ、駄目だ。


これでは、まるで、


あのおとこのめとおなじいろじゃないか




そして私の意識は、どこか遠いところへと沈んで行くのだった。




私に届かない場所で交わされた言葉。


「鼠、か…確かにそうかもしれないね。私は今まで散々彼女に泥臭い事ばかりをさせてしまったよ。」

「己より他者の命の方が重いなどと、人の上に立つ者の考えではないな。」

震える腕をゆっくりと持ち上げ、己を貫いた彼の頬に添える。

朱く染まったその掌は、彼の頬を朱く汚す。

「結果的に、キミの望み通りだろう?」

先程よりしっかり喋れるのは、喉に詰まっていた余計な血液が流れ落ちたからだろうか?

この男の言葉は何かと心を苛つかせる。

「まるで思惑通りとでも言いたげだな?」

「私とて、そう簡単にキミを止められるとは思っていないさ。ただ…」


「あの子は強いよ。」

目の前の男が発する余裕めいた言葉に感じるとすれば、それは呆れに近い感覚だろう。

「貴公の買被りでなければ、俺も楽しめるだろうがな。アレは期待外れだ。」

「そうであれば、キミの退屈が続くだけ、だ。」

そして男は私から目を逸らす。

己が突き飛ばした者と視線を交わし、頷き。

そして反対側、俺からすれば”期待外れの木偶”に目を向ける。


そして、口を開くが、その口から言葉が漏れる事は無い。


力無き者の末路など、いずれも同じなのだ。


事、その身における力は凡人以下だったとはいえ、この男とは純粋に指揮官として戦場で遊びたかった物だが、最早その願いが叶う事は無い。


手に持つ刃を引き抜き、一振りしてこびり付いた朱色を振り落とし、鞘に納める。

もう間もなく、東領主もここに駆け付ける事だろう。

結局肩透かしを喰らった事も、あの男相手なら多少の慰みになればよいが?




ドスッ


と、何事かが俺の体に衝撃を与えた。

視線を落とし、映る俺の腹に、見るからに細い、大した力もなさそうな腕が見える。


浅黒く染まった細腕は、到底、人間の皮膚のようには見えないが、その腕は確かに。


俺の体に強い衝撃を、与えたのだ。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


強さを求める者が知る、力無き者の行き着く先とは。


次回もお楽しみに!


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党首➡当主に修正しました。

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