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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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185話 蒼炎の謀略

185話目投稿します。


内に残る虚無感も消えぬうちに紡がれる謀略。

戦うための理由も決めきれない少女に迫る真の目的とは?

「フィル様!」

少し離れたところからマリーが大声で私の名を呼んだ。

傍にはグリオスと、東方軍の兵士が立っている。

小走りに近付く私がそこに辿り着く前に、報告を終えた兵士はすぐにでも発てるように兵士たちが集まる場所へと走り去っていった。

『何かあったのですか?』

「してやられたやもしれぬ。急がねば。」

苦虫を噛むような表情で吐き捨てたグリオスも、自分の馬の元へと足を進めた。

後ろに付き従うように歩く私に、マリーが現在の状況を話してくれた。

「先ほどの兵士は駐屯地から来た伝令兵です。」

今、この時なぜ駐屯地からの伝令が必要となったのか?

兵士が言うには、叔父の命令で急ぎ救援を求めるために来たのだ、と。

「駐屯地の本隊、つまり私たちが居ない時を狙って、南方軍が駐屯地に奇襲をかけてきた。彼はアイン様の命令で、急ぎ戻るよう私たちに遣わされた、という事です。」

『う、うそ!』

その言葉、東方軍の状況は、私の頭を大きな岩か何かで叩いたかのような衝撃を与える。

カジャの命を奪った虚無感など吹き飛びそうな程の事実が突き付けられた。


この戦場で命を落とした鬼人将軍カジャ。

彼とて将軍という立場。

当然、相手となる東方軍からすれば、彼を無視する事はできない。

且つ、彼の名、実力を知る者であれば、戦力の加減など考えられない。東方軍も然りで、この場に居るのは戦力のほぼ全てとなっている。

伝令の内容はまさに、その虚を突いた駐屯地の奇襲を伝える物だった。

『叔父様が!』

「あやつがそう簡単にやられるとは思わんが、万が一、あちらの狙いが別だとしたら…」

将軍を囮に使ってまで本隊不在の駐屯地を狙う理由。

その理由は私でなくても一つしか浮かばないはずだ。

「急ぎましょう!」

頷き、グリオスを追い抜いて自分の馬の元へと走る。

『あっ…』

足が縺れる。

私が思う以上に、この体は焦りに包まれ、真っすぐに歩く事すら儘ならない。

地に膝を付きそうに倒れかけた私の腰から回される腕。

グリオスの太い腕が、体を支え、そのまま脇に抱え込まれるように運ばれる。

「急ぐのだろう?」

『あ、ありがとう、ございます。』




「フィル様、焦りは禁物です!。貴女様お一人が突出してはいけません!」

駐屯地へと戻る行軍。

全ての兵士に馬が支給されているわけでもなく、その多くは己の足で走る事となる。

先ほど通り雨のように戦場に降り注いだ雨水は、岩肌の目立つこの平原に沁み込み、ただでさえ急ぎたい足取りを泥濘で妨害しているかのようだ。

考えすぎだと思ってはいても、あの通り雨でさえ、南方軍、如いては先の南方領主であるセルスト=ヴィルゲイムの策略とさえ思えてくる。

『くっ…』

私の思いとは裏腹に、私を運ぶこの名馬は、焦る私とそれによって少し調子を崩した私の体をしっかりと支え、前へ、前へと運んでくれている。

見ればこの馬も、そこかしこに小さな傷を負っている。

ただ走り抜けただけ、とは言え、先程は両軍がぶつかりあっていた戦場を駆け抜けたのだ、飛び交う鏃、舞い上がった石、戦場用の馬具を付けているとはいえ、切りつけられれば傷を負うのも当たり前だ。

『お前も頑張ってくれてるんだよね…ごめんね…』

本当に借りた馬がこの子で良かった。

首筋を撫でてあげると、「ブフッ」と返事をするかのように息を吐く。

『ありがとう、お前の御蔭で少し落ち着けたよ。』




「間もなくです!」

馬に委ねた行軍速度。

グリオス、マリーと次いで走る私の耳に届く彼女の声。

前方を見て目を細め、目的地を確認する。

平原の彼方、到着まではもうしばらく走る必要はあるが、ソレは視界に入った。

陽が翳り、尚且つ天候の崩れた景色からはしっかりと確認はできないものの、明らかに見て取れる中には黒い煙が昇っている。

ドンっ!とここからでも見える爆発のような光が上がる。

襲撃者はまだあそこに居る。

「グリオス様!」

「解っている!」

明らかに2人の駆る馬の速度が上がる。

先ほどは私の先行を窘めた物の、やはりこの光景を目にすれば当然足は早まる。

遠目で見ても、大軍で襲撃をしているようには見えない事も速度を早めた理由の一つだろう。

少数精鋭で、本隊不在とは言え、敵軍の駐屯地に襲撃する。

まだこちらの目に見えない襲撃者は、それでも目的の成就が可能な程に強い力を持っているという事。

幾度かの爆発音と共に映る光景の中、爆ぜるそれらに紛れて上がる炎。


その色は、蒼かった。


「クソッ!、寄りにもよってヤツか!?」

グリオス、そして恐らくマリーも、その蒼い炎を目にして襲撃者の正体が解ってしまった様子。

そして私もまた、グリオスの吐き捨てた言葉で予想が付く事となる。

『…セルスト…ヴィルゲイム!!』

南方軍という組織がどのような形を以て成しているのかは知らない。

それでも、己の臣下、しかも将軍という軍隊においては間違いなく高い位にいる者すら囮として使い捨てる。

前を走る2人や叔父、ラグリアや西方の姉妹ほど、私はその男の事は知らない。

ただ、少なくとも今までに私が知りえる上、王都近郊の草原で見た印象で言えば、間違いなくその男も先のカジャ同様に圧倒的な力を是とする考えの持ち主である事ぐらいは解る。


程なく救援として到着するであろうその場所に、あの草原で垣間見た冷酷で暴力的な威圧感を放っていた男が居る。

そして、その目的は、今まで私に優しく、時に好からぬ企てで私を悩ませ、それでもずっと見守ってくれていた叔父の命。

何としてもそれだけは譲れない。


王都の、屋敷で私たちの帰りを待つ叔母を始めとする人たちの為にも。


『叔父様!!』

無事で居て、と続ける強い言葉に呼応するかのように、私を乗せた名馬はその足を一層強く踏み出したのだった。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


上がる蒼炎は、舞い落ちる雨風を物ともせず、全てを焦土と化していく。


次回もお楽しみに!

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