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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第一章 王都へ
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18話 期待

18話目投稿です。


カイル君の修行はこの先どうなるやら我ながら楽しみですね。

ガタンッ


『んあ?…』


馬車の揺れで目覚めた私は寝ぼけ眼で辺りを見回す。

膝の上に感じていた温もりはひょいっと退き、固まった体を伸ばしている。

「お?、起きたか。もう朝だぜ?」

薄ら瞼のまま馬車の揺れに体を預けている私に、エル姉は水桶に手巾を突っ込み水気を含ませ、ぎゅっと絞った手巾を放り寄こした。

『わぷ…』

顔で受け止めたが、冷たい。

そのまま手で覆い顔を拭くとぼやけていた視界と意識の覚醒を感じる。

「ほれ、メシだ。」

私の覚醒具合を確認した後、糧食と水を注いだカップを差し出した。

『もう出発してるんだね。』

結局のところ私が感じた天候の崩れも思い過ごしとなったようで…

と考えたところで、シロを見る。

(昨日から…ううん、シロが近くに居るといつもより肌がピリピリするんだよね…)

腕を摩る私を見たシロが口を開いた。

「それは恐らくわしが原因やもしれんな。」

そう言ってシロが少々身構え、軽く唸る。

口元の6本髭がぼんやりと青く光り、ピリッという音と共に弾けた。

『雷?』

雷狼という名前は伊達ではないようで、今はほんの少しだけ力を集中しただけというが、曰く本気を出せばこの山の形を変えるくらいはできるらしい。

とは言うが、エル姉に顎を撫でられて気持ちよさそうに目を細める小動物の姿を見る限り、その言葉にはあまり想像がつかない。

けれども、確かに…シロが微弱でも雷のような力を発生させているのであれば、私が感じる肌のひり付きも納得できるところではある。


『そういえばカイルは?』

昨晩、領主たちとの会合の後は私と同じ馬車に戻り、隣に座って眠りについてたはずだが、今はその姿は見つからない。

「小僧なら外で瞑想しておるよ。」

馬車の後部荷台を示し付け足す。

「あの小僧、魔力に対しての素質が絶望的でな…まぁ、効果としてはたかが痴れているだろうがやらんよりはマシと言ったところかの。」

「こればっかりは教えられる事も限られてるしねぇ、本人次第といったところだね。」

とエル姉が添える。


アドナルティアにおける魔力は今のところその供給に際限は無いと言われている。

空気同様に大気に満ちている万物の力の源で、この世界に住まう者であれば人や獣、魔獣や魔族関係なく使役できる力とされている。

ただ種族による巧拙に差はあり、人族よりエルフのような亜人種や魔族と言った種族の方が扱いには長けている。

余談ではあるが、人種族の認識として、一般的な「獣」と称される生き物は魔力を使わないとされ、魔力を使える「獣」が魔獣や魔物といった扱いとなる。

シロも人種族の認識で言えば「魔獣」として扱われるが、シロのように雷狼など特別な種の場合は、魔力の根源により近い「精霊」や「神獣」と言われ、伝承や伝説、古い書物などに名前を連ねるような存在にもなりうる。

「わしは主ら人族で言う精霊や神獣などよりは劣るよ。」

と謙遜するが、少なくとも私たちからすれば伝説を目にしているようなもので、本人が言う「差」は計り知れない。


魔力の扱いに関しては種族での差以外は全て個の才能や才覚、経験に左右される。

事経験においては単純に魔力を使う魔術や魔法を使役することに限らず「魔力」に触れる時間もそれに含まれるようで、シロがカイルに課した瞑想というのも強ち的を得ている修行の一環らしい。

「あの小僧は小僧で魔力の才能は乏しいわけなのだが…」

シロは改めて私を見つめ

「フィル。おぬしには何というか別の意味で魔力が感じられぬのじゃが…?」

その言葉に私も思うところは確かにある。

『カイル程下手だとは思ってないんだけどね…』

指先に魔力を集め、炎をイメージする…指先に蝋燭ほどの火が現れた瞬間、霧散した。

『何というか…私は蓄えれる魔力量が少ないのかな?…扱えはするんだけどすぐに消える。』

「ふむ…」

何度か同じことを繰り返しシロに見せる。

「まぁいずれそれも分かるであろうさ…」

シロの言う通り、私の旅の目的の一つ。

魔力に限らず、私に宿るモノ全てを理解すること。

『それが私の旅だからね。』


ふと気づけば馬車の速度が幾分速くなっていることに気付く。

頂を越え、なだらかな下り坂に入ったようで、この分なら今晩には山を越え王都間にある広大な丘陵地域に入れるだろう。

御者に聞いたところだと、丘陵地域入ったところで野営を行うらしい。

その後、何事もなければ2日程で丘陵地域にある都市に到着するという事だ。

『冒険都市キュリオシティ…冒険者の町、か。』

冒険者への強い憧れがあるカイルでなくとも、その町の名前や話は私たちの年齢であれば興味津々であるのは言わずもがなというものだ。

丘陵地域に入ってからの野営の折に領主が話してくれた冒険者の町の話は、息子のオーレンだけでなく私やカイルの期待を高めるような事ばかりで、まだ見ぬ都市への好奇心を高めるのだった。

(昔、父と母も足しげくキュリオシティに立ち寄ったんだろうか?)

まだ数日しか経っていないというのに、もう随分と会っていないように感じるのは、生まれてずっと両親と共に暮らしてきた反動なのだろうか。


少なからず私にも冒険者への憧れはある。

しかしその憧れはどちらかというと「父と母」に対しての意味合いが強いと思っている。

両親が惹かれたという冒険者の生き方や辿った足取りを少しでも感じる事が出来たなら、それはきっと楽しい。

少しばかりの寂しい気持ちと、まだ見ぬ旅の行く末を、丘陵に吹く温かい風が包み込むように通り過ぎるのだった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


父と母の軌跡を辿る事もフィルの旅の目的の一つなのかもしれないですね。


次回もお楽しみに!

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