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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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181話 駆け抜ける一陣

181話目投稿します。


エルフの助力を得た。

彼ら以上に森の防人となりうる者たちはこの世界には居ない。

共に戦うと言ってくれたものの、流石に集落の戦士全てを連れていく事は出来ない。

集落を守護するための人員も当然考慮しなければならない。

「ちっくしょ~、アタシも行きたかったのにぃー!」

地団太を踏むロカ。この手の性格の人は割りと私の知り合いに多い気がする。

「ロカちゃん、村を護るのが私たちの役目でしょう?」

双子のリザが鼻息荒いロカを窘める。

「わかってるってぇ。」

双子を尻目に、私について森を出るエルフ族の戦士たちの様子を見る。

弓の手入れに勤しむ者、杖に魔力を込める者、槍を構えて素振りをする者と三者三様。

案外、私が思っている以上に彼らの戦力は高い気がしてきた。


「フィル様、我らエルフの力、貴女様にお預けします。」

結局のところ、今この集落を纏めているのは、ルアの御付きだったこの男。

形式上で言えば、スヴィンの付き人という事になるのだろうが、長い間ルアに一番近い所に居ただけの事はある。彼女が成長するまでしっかりと村を支えてくれるだろう。

『必ずこの村を護ります。』

差し出された手を握り返す。

互いに頷き、村を発つ準備は完了した。




訪れた方角から少し南側に向かって、森を駆け抜ける。

森に入った時と同様に私はオスタング軍から借りた馬に乗っているのだが、同行するエルフ族の戦士たちは、あの双子同様に木々の間を飛び交って森を進んでいく。

あの双子が特別なわけではないのか…。

彼らが森の中でその力を存分に発揮すれば、普通の人間など一溜りも無いのかもしれない。

考えてみれば、本来であればこの森に不用意に立ち入るものならば容赦なくその刃を向ける。

それが彼らの生き方のはずで、私が訪れた際に無事だったのは叔父との縁があったからこそなのだ。

改めて叔父に感謝すべきなのだろう。


戦士たちの誘導のおかげか、来た時よりも短い時間で森の外へと出られた。

彼らにとって、この先はそれほど馴染みのない土地となってしまう。

一度森を出たところで馬の足を止める。

木の上から下りてきた数名。

「何やらあちらから火薬の匂いがします。」

指さす方角は、グリオスたちが駆けていった方向で概ね間違いないだろう。

『急ぎましょう。森を出ても大丈夫そうですか?』

エルフたちの表情を見回すが、現時点ではあまり問題はなさそうだ。

「少し日差しが暑いくらいですかね?」

流石にこの季節も相まって、彼らの額にも薄っすらと汗が出ているのが解る。

『ふふ、森の中は涼しいですよね。次の夏はのんびりさせて頂こうかな?』

「ふふ、フィル様なら我ら一同、歓迎しますよ。」

同行した中でもリーダー格の男が私に受け答えしつつ笑う。

『出来る限り森に沿って南に行きましょう。』

その方が見つかりにくくもなるだろう。

「了解しました。」




先ほどよりも戦士たちの移動速度が落ちた気がするのはエルフの領域とされる森から外に出たからだろうか?

私の目には同じような木々に見えても彼らからすれば違うのか、もしくは結界の中だからこそ彼らの力が発揮できていた?

森に誘い込めば彼らの独壇場とはいえ、それはエルフの森の近くで戦う事になりかねない。

難しいところだ。


リーダーのエルフが言った通り、私の目にもオスタング軍の姿が見えてくる。

更にその奥には、やはり南方軍の軍服を纏った一団の姿。

こちら側の少し後ろ、遠目ではあるが見覚えのある女性。

蹲っているようにも見える。怪我でもしたのか?

『マリーさん!!』

全力で駆け付けたいところではあるが、こちらが押されているのであれば焦るのは駄目だ。

『皆さん、もう少し先、森の中で待機してください。その後の判断は、貴方に任せますね!』

リーダー格の男は頷き、背後の戦士たちに目配せすると共に、森の中に姿を消した。

私の思惑を察してくれているのであれば、後の判断は任せても問題ないだろう。


急ぎ平原を駆け抜け、オスタング軍、その後方のマリーの元へ走る。

『マリーさん!』

やはり蹲っていたのはマリーだ。

馬から飛び降りて、彼女の背中に手を回す。

「…はぁ…はぁ…フィル、様…すみません…お恥ずかしい、姿を…」

傷はないが、この疲労感は…魔力か…。

見れば周囲には、多くの矢が落ちている。どこかに刺さっているわけではなく、地に落ちているのだ。

紛れもなく、彼女が己の魔力で叩き落としたという事だろう。

その数は見える範囲だけでも数えきれない程だ。

魔力が尽きるのも当たり前だ。

背中に添えた手に少し意識を集中する。

わずかでも彼女の魔力を補充できれば…出来るかどうかなんて考える前に体が動いている。

きっと自分の体が自然と動いたのなら…。

「ん…フィル様?」

『少し、楽になった?』

上手く行ったようだ。

顔色も先ほどより大分マシになった。

「驚きました…魔力の貸与…?とでも言えばいいのか…」

『ふふ、元はと言えばマリーさんがやってたことの真似事ですよ。』

一瞬、不思議そうな顔をしたものの、思い出したのか、ハッとして、

「まさか、あの魔法陣の…」

『ええ。あの時、同行した者の魔力を集めて放ってましたよね?』

「…しかし、あれは…」

と、のんびりと話している場合ではない。

前方に目を向けると、森側を背に奮闘しているオスタング軍の姿。

「グリオス様の指示で森の方向には進ませるな、と。」

『成程…それならきっと、大丈夫ですよ。』

「どういう?」

彼らならきっとこの状況を見て、こちらの軍が護っている物の意味が解るはずだ。


一閃、森の中から一本の矢。

混戦の中、見事に南方軍の兵士に命中させる腕前は、とてつもない技量。

私の中にある印象と大きな差異もなく、やはりエルフには弓矢が似合う。

放たれた矢で随分と勢いを弱めた南方軍。

畳みかけるように、森の中から現れた一団は、陽の光の中でも、一陣の風を巻き起こすように、その混戦の合間を駆け抜ける。

みるみるうちに敵対する南方軍を畳みかけていく。

「あれは…まさか…」

驚くのも解る。私だってそうだ。


『彼らも護りたい物があるんだよ、きっと…そして想いは届く。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


思惑通りに行かない事、それは南方軍も東方軍も同様だ。


次回もお楽しみに!

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