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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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172話 呪いの手法

172話目投稿します。


近況報告から導きだされた新しい手法、それをよく知るものは近くに居る。

『叔父様?』

東領一行を連れ、叔父が段取りを進める酒場に案内して到着の挨拶の後、西領一行と交わしたやり取りとほぼ同様の短い会話が済み、同じく一旦の解散となった。

宿に戻った私たちも町全体の準備が終わるであろう夜の時間まで一先ずの休憩を摂る事となったが、叔父の様子が少し変にも感じた。

「あ、あぁ。すまない。今日はあまりいい天気でもないからかな。少し疲れてしまったよ。」

『あまり無理しないでください?。大事な体なんだから、何かあったら私が叔母様に叱られてしまいますよ。』

「そうだね。夜まで休ませてもらうよ。悪いが御者を呼んできてもらえるかい?」

今回、私たち北領の一行としてここに出向いたのは私と叔父、そして話し合いの場には恐らく関係はないが馬車の担い手としての御者を合わせたの3人、当然彼も屋敷で勤める者であればあらゆる事に対処できる能力は持ち合わせているのだろう。

私に頼めない、頼みにくい事でも彼なら可能といった感じだろうか?

『分かりました。声かけたあと、私は皆に会いに行ってきますね。』

頷き手を振る叔父は幾分の調子を戻したのか、笑顔で送り出してくれた。


「心配事か?」

宿を出たところ、入口に設けられている椅子の上で休んでいたシロに声を掛けられた。

『普段から忙しい人だけど、今日はちょっと疲れてるみたい。』

「あやつが望んだ事じゃ、お主が支えてやればよい。」

『勿論。』

早速言いつけ通り、宿の近くの厩舎に向かい、御者に声をかけておく。

宿に向かう御者の後ろ姿を見送った後、まずは東領一行が待機してる宿へと向かう。

夜になる前に、各々の近況など知っておきたい。




東領一行の取った宿、こちらも大通りに面しているところだが、宿の前にしっかりと兵士の警護が敷かれているため迷う事もなく辿り着けた。

『マリーさん、今は忙しい?』

「いえ、宿泊の手続きも終わりましたので時間までは特に。」

『今のうちに色々、お話できたらって思ってて…西領の人も交えて、どうですか?』

「えぇ、是非に。」

場所についてはマリーの提案で、先ほど会談の場所として都合を付けた酒場となった。

改めて酒場の周辺の下調べも兼ねたい、と流石は参謀といったところか、ぬかりない。




件の酒場で合流するという事で折り合いをつけ、急ぎ西領一行の宿へと向かう。

西領の従者も、叔父の従者同様に優秀な者が多いようで、到着した宿、つい先ほどまでその入口は見る影もなかったはずだが、扉としての体を取り戻している。

『もう修理できたのか…』

一概に御付きの従者だけの手ではない、この町の住民も踏まえての共同作業ではあろうが、ここまで短い時間で取り繕えるのは驚嘆だ。

「おう、フィルか。どうしたんだ?」

出迎えてくれたのは今でも旅仲間のガラティアだ。

細かい作業は苦手であろう彼女は、取り急ぎの木材運搬を手伝っていたようで、服についた木くずを払う様子。

『作業、終わった?』

「ついさっきな。」

一段落しているなら丁度良かった。

早速、マリーに話した事と同様に、夜までの時間潰しの提案を伝える。

「んじゃ、さっそく行こうぜ。」

傍らの従者に事を告げ、何故か己の拳をパンっと合わせ嬉しそうに笑う。

まるで今から戦いにでも行くような素振りだ。

そういう話ではないのだが…まぁ彼女らしいといえばそうか。




「ガラティア様、お初にお目にかかりますね。オスタング軍参謀、マリアン=オストルと申します。お見知りおきを。」

「アタシの事、知っているのか。あまりこういった場には出ないようにしてるんだけどなぁ。」

『公の場に出ない程度じゃ、マリーさんの網から逃げれるわけないよ。』

「お褒めの言葉、でしょうかね?」

初対面であろう紹介の場は、3人の笑い声で始まる。

「シロ様もお久しぶりですね。以前の東領ではお力添え頂きまして感謝しております。」

「うむ。其方も元気そうで何よりじゃな。」

「シロは何だかんだ文句言うけど面倒見いいよなぁ~」

ガラティアがシロの頭を掴み、鬣をワシャワシャと撫でまわす。

何だかんだでこの2人はしっかりとカイルの身を保護するために日々奮闘してくれているのだ。それなりに仲良くなるのも分からなくはない。

『ふふ、さぁ、とりあえず席につきましょう。』

店主に声をかけ、飲み物と簡単な料理を注文する。

夜の準備に忙しそうな中でも、こちらの雰囲気に満足そうな表情で対応してくれる店主に感謝だ。


『カイルの身に何か変化は無い?』

何かがあれば何等かの手段で私の元に情報が入るとは思うが、現状でそれは無い。

「残念だけど、別段以前と変化はないな。」

ガラティアも、シロも、そこは口数が減る事となってしまうのは致し方ない。

「フィル様は、今の彼の状況をどう考えているのです?」

『んー…叔父様と、他にも色んな伝手で調べてはいるんだけど、その中で可能性があるとすれば、恐らく魂と肉体の分離。』

私の推測を聞いたガラティアが焦るように机を叩く。

「お、おい、それだとカイルの魂だけどっか行ったってことだろう?大丈夫なのかそれ!?」

「それについては大丈夫じゃよ。あやつの魂ならほれ、そこに在る。」

シロが示したのは私の右腕。

やはり彼の従者としての契約関係となっているシロにはその存在が感じられるようだ。

「フィル様の中にカイルさんの魂が?」

『シロほど明確に答えられるわけじゃないんだけど、確かに言う通り、カイルの存在を感じる時はあるの。』

それに、事実、あの仄暗い世界の中で少女が彼の魂を留めているのも知っている。

「えーと、つまり?」

少し混乱しかけているガラティアを制するように、マリーが現状を整理する。

「今、フィル様の中で眠っているであろうカイルさんの魂を、カイルさんの体に戻す事ができれば…と。」

頷き答える。そして

『今は、その魂をどう扱えばいいのか。それが知りたい。』


「東領の文献でそういった類いの書籍があったような…」

この一件が終わった後、真っ先に調べてみる、と言ってくれるマリー。

「魂…魂…アタシもどっかで聞いた事があるような…無いような…」

ガラティアにもその手の話に聞き覚えはあるようで。


「事、魂に関わるモノの多くは呪術…いわゆる呪いと言われるモノに多く関わる。」

そう呟いたのはシロだ。

その話によれば、人知を超える事象を起こすための儀式などは、魔力ではなく魂を糧として行われるモノが多いという事だ。

「呪術ですか…魔術、魔法とは確かに少し違うようですね。」

「あぁそうか思い出したぞ。呪術、そう呪術なら聞いた事がある…が…そうか…」

魂についての己の記憶を思い出そうとしていたガラティアは、呪術と聞き、何かに辿り着いたようだが、直後、その口を噤む事となる。

『何か知ってるの?ガラ。』


「昔、アタシが冒険者みたいに旅してた時に聞いた事があるが…それは南なんだよ…」

呪術という方面で調べるにしても、今の情勢が大きな壁となっている。

『南方領…』

「確かに今は…」


近況の報告、情報の交換とすれば実りの時間ではあったと思う私たちの小さなお茶会。

それでも問題の全てを解決する事は難しい。

解散したのち、時間まで宿に戻る事となった帰り道。

「フィルよ。呪術というのはあまり考えない方がいい。」

足元をついて歩くシロがはっきりとした口調で私に告げた。


「事、魂を扱うには、同等の価値あるもの、もしくはそれ以上のモノが必要となる。」


それが呪術なのだ、と。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


あいにくの天気でも賑わう町には大した影響もなく、酒という燃料が投入されれば盛り上がる。

それがこの冒険都市の夜の一面だ。


次回もお楽しみに!

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