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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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171話 駆ける冒険都市

171話目投稿します。


祭りの準備というのは、どんな事でもわくわくしてしまう。

そういう物だ。

「すまない。アイン殿。到着早々目立ってしまったようだ…」

西方よりの要人の宿泊所にて予想したくはなかった光景をどうにかこうにか話を収め、改めて場所を近隣の酒場に変えてからの時間。

無論、この酒場も先ほど私が訪れて、今や今晩の仕込みの真っ最中ではあるが、宿の様子を見ていたようで、開店前の店内へと招き入れてくれた。


現状はすでに内密とは言い難くなってしまった状況だが、後はこちら、叔父の策でどこまで情報の拡大を抑えられるかと言ったところだろうか?

「まぁそちらに関しては最早隠す意味もあまり無いとも言えるので気になさらずに。」

今となっては確かに、なるようになるのを見守る他はあまり出来る事も無い。

「やはりガラを同行させるのは失敗だったか。」

ジロリと妹に睨まれる姉。

思ったより落ち込んでいて、これはこれで私としては珍しい光景にも見える。

『よしよし。』

あまりに凹んでいるガラティアに少し同情。

「フィル~。」

勢い余って抱きつきそうになる彼女、が、そこは流石に額を指で抑えて制する。

「うぅー。」


「まったく、この馬鹿力はどこから湧いてくるのだろうな?」

叔父でも、パルティアでも、ガラティアでもない声が聞こえてきた。

「おや、お目覚めか。」

「元気にしておったか?フィル。」

年寄り染みた口調、それもまた久しぶりに聞いた。

『うん、何とかね。貴方も久しぶり。元気そうで良かったよ。』

西方でガラティアと共にカイルを見守っているはずのシロも、今回の一件に加わっているようだ。

「…その腕は…そうかルアの…」

『うん。その話はまた後でしよう。私も色々と聞きたい事あるし。』

うむ、と短い返事も相変わらずだ。

「シロ様もご一緒でしたか。フィル以上にお久しぶりですね。」

「ヌシも息災でなによりじゃよ。」

叔父とシロ、この2人が前から互いを尊重し、敬っている様子は知っては居たが、何か今の雰囲気には別の物を感じる。


各々に積もる話はあるが、まずは当初の目的である会談を無事に終わらせなければいけない。

東領、そして王都から何等かの方法でここに来るであろうラグリアを待つのはまぁいいとして…。

『そういえば場所って決まってるんですか?』

率直な疑問。

酒場を練り歩いて、会談そのものが目立たないように町の盛り上げを謀るのはいい。

肝心の会談を行う場所…私が知る限りではこの町にそういった会議を行えるような場所はあっただろうか?

「フィル。こんな時は賑やかな場所であれば何処でもいいんだよ。」

パルティアが諭すように答えてくれた。確かに町中が賑わってる中で静かな場所に人が集まってればそれは逆に目立つ。

『成程。という事は、例えばここでも問題ないと。』

「ふふ、私たちからすれば、宿も近いし楽ではあるな。」

チラリと仕込みに勤しむ店主に視線を飛ばすが、全力で首を横に振る。

まぁ、通りを挟んだ向かい側の宿で起こった騒動を見ていればその反応は当然だろう。

パルティアが肩を竦め、残念、と呟いた。

『それなりに大きい酒場ともなると、ある程度は限られますね。』

聞き耳を立てていた店主の提案。

運がいいのか悪いのか、オススメに挙げられたのは私と叔父が宿泊している宿からも見える場所に構えている酒場。

大通り沿いという立地から、広さも申し分なく、この町を訪れた冒険者の多くが立ち寄る程の人気の酒場だ。

『あぁ、そこなら私も声をかけに行きましたね。』

「なら、改めて話をしに行かなくてはならないね。御二方は一度宿に戻って休んでいただけるかな?」

「ガラは修繕をお手伝いしなさいね?」

「へーい。」

そうして一旦の解散となる。

項垂れながら腰を挙げたガラティアの肩をポンポンと叩いてみるが、励ましになったのかは何とも言えない。




『叔父様、あれ。』

件の酒場は、キュリオシティを南北に分ける大通り沿いに構えており、そこに向かうために叔父と2人、大通りを歩いていたのだが、道の先、方向としては東向きの視界に、町に到着したであろう、とある一行の姿が映る。

「ふふ、あの方もやはり人目を憚るのは得意ではないようだね。マリー女史に少し期待はしていたのだが、押しきられたような感じかもしれないね。」

大軍とまではいかないが、数名の兵士の姿と、頑丈そうな重鎧に身を包んだ強面な人影は遠目にも良く分かる。

しばらく眺めている限りでは、ここで待っていればそのまま合流する事も可能だろう。

『私、行ってきますね。叔父様は先に酒場の方へ。』

「宜しく頼むよ。」


『先日はお世話になりました。グリオス様。』

厩舎に馬を預け終わった一行に声をかける。

中でも一番頑丈そうな鎧を纏った人影、東領主グリオス=オストロードその人。

傍らには参謀であるマリアン=オストルこと、マリーも控えている。

小さく手を振ってくれているが、一先ずは彼女の主でもあるグリオスに挨拶をするのが筋というもの。

「おぉ。フィルか。息災で何よりであるが…其方がここにおるという事は、アイン殿もおられるのだな?」

『ええ、丁度こちらの用意をしているところで、こちらの様子が見えたので迎えに来たのですよ。』

「そうかそうか、其方の手を煩わせて済まないな。案内を頼めるかな?」

バンバンと私の肩を叩き、豪快な笑い声を挙げる無頼漢。この御方も相変わらずの様子だ。

『とんでもないですよ。どうぞ、ご案内しますね。』


「フィル様、お久しぶり…というわけでもないですね。この度の奔走、感謝致します。」

『マリーさんも大変だったでしょう?、グリオス様の事ですから…』

「ふふ、ご存じのようで、お気遣い痛み入りますね。」

互いに笑い合う。

その様子で、叔父が言った事も強ち間違いではない事が証明された形となる。

「その後、カイルさんの一件は進展ありましたか?」

『…だといいんだけど。後でシロや、西方の方と話をしようと思ってるの。出来ればマリーさんも一緒に聞いてくれると嬉しい。』

私の中で、マリーの存在はかなり頼りにしているつもりだ。

博識で、冷静で、東領の参謀という判断力もまた、私にとって尊敬できる彼女の魅力だ。

「ふふ、それは魅力的なお誘いですね。楽しみです。」


内密な会談はそれはそれでこの先の未来にとって重要ではあるが、私にとってカイルの回復もそれと同様、それ以上に大事な事だ。

色んな人から話を聞いて、意見を聞いて、新しい何かを探るための時間は大事にしたい。




今日、朝早くから突然の予定ばかりで目まぐるしく動きはしたが、その疲労感には独特の達成感が返ってきた。

『今日はきっといい夜になる。』

少なくとも、今日のベッドの心地よさは格別な物となるはず。


そう思っていたんだ。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


東西の来訪者はいずれも相変わらずという言葉がついて回る。

夜に向けて賑わいを膨らませる冒険都市、町を照らす灯火は雨にも負けず影を落とす。


次回もお楽しみに!

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