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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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170話 町の宴と破壊音

170話目投稿します。


叔父の策は中々楽し気ではあるが、それだけでごまかせる程、集う者たちは大人しくはない。

「眠そうだね。」

『はい。眠いです。』

早朝から身支度も早々に馬車に押し込まれ屋敷を出た私と叔父は、まだ陽も昇らぬ王都から北側、キュリオシティを目指して走っている。

窓の隠し布の間から見える空模様は、陽が昇っていない今でも分かるくらいにどんよりと雲に覆われ薄暗い。

この調子で行けば、昼を待たずに雨模様となりそうだ。

「すまないね、今回は私が発起人だったから準備もこちらで行う事になってしまってね。」

話を聞かされたのは昨晩。

城から戻った私は執務室に呼ばれ、翌日、つまりは今日の予定を聞かされ、朝も早くからすっきりしない頭を馬車に合わせて左右に揺られながらうつらうつらと半分船を漕いでいる。

『…他の領主様方もこちらに?』

「あぁ、東西の御二方は昼には到着するはずだね。陛下も目立たぬ様に何等かの方法を取られるはずだ。」

『しかし、こんな朝早くから出かけるとなれば、逆に目立つのでは?』

「私にとって運がいいのは、北方領主である事と、会談の場が王都の北という事だよ。」

大っぴらに王都から出かけるとしても、北方領へ向かう体を装えば別段おかしいわけではない、という事だろう。

「それにまぁ…今更というところもありはするのだけどね。」

警戒心、猜疑心の強そうな南方領主からすれば、他領主の企みなどすでに耳に入っていてもおかしくはない。

叔父が苦笑交じりに言うのはそういう事だ。


同行を頼まれ、引き受けはしたものの、今回の会談で私が何かの役に立てる事があるのかは今のところはまったく以て分からない。

今後の成り行きが気になるのは当然なのだが、出来れば何事も起こらない事を願いたい。

分かってはいる。

それが一縷の望みと言えない程にもか細い可能性なんて事は。




キュリオシティで一先ずの安息の場となるのは、最早御用達と言っても過言ではないあの宿だ。

以前訪れたのはいつだったか、と思い出したところで浮かぶ顔はカイルだ。

何だかんだとあの時からまた随分と経ってしまっている。

宿の主からは「久しぶりだね。」なんて声を掛けられるくらいには馴染みの顔になっているようだ。

宿泊の手続きが終わった後も、叔父と主人のやり取りは続く。

その間、手荷物を部屋へと運び、何度目かの部屋を見回し、変わらない様子にホっと一息もらした。


「さて、それではしっかりと場を盛り上げないとだね。」

主人との何等かの話し合いも纏まったようで、叔父も自分の部屋に落ち着いた後に私に掛けた一声がソレだ。

『何と?』

叔父の口から出た言葉は、凡そ似つかわしく無い内容。

実際に行うとしても、わざわざ口に出したりはしない。そんな人だと思っていたのだが…

「フィル。キミには町中の酒場を回ってもらいたいのだが、いいかな?」

『は、はぁ。』

いまいち目的が不明。

しかし、それもまた叔父の策であるなら、手伝いを惜しむ理由はない。




「北方領主サマも太っ腹だねぇ?」

言われた通りに訪れた酒場。

開店前の準備をしているところに現れた私の姿を見た店主は訝し気な顔と共に「時間外だ」と返すが、私が懐から差し出した金袋と、その目的を聞いてからは二つ返事で豪快に笑う者ばかり。


『酒場を回るのですか?』

「少し重いかもだけれど、それなりの金が入っている。」

叔父が手荷物から取り出してテーブルに並べた小袋には、言った通り”それなりの金”が入っていた。

「この金を使って今日、キュリオシティをお祭り騒ぎにするんだ。」

『成程、それで会談を目立たなくする、と。』

にっこりと笑って頷く叔父。


短くも叔父が私に伝えた内容。

確かに、王都に比べればキュリオシティの住民の多くはこの町の名の由来通り元々は冒険者だった者が殆どだ。

そういった意味では南方側の手が及びにくいところでもある。

更に言えば、頼みを取り付ける際に北方領主の名を出す事である一定の恩を付け足す事にもなる。

『では、お願いしますね。あと、この近くの他の酒場も教えてもらえると助かります。』

「あぁ、それなら…」

こうした話であればこの町の住民は大歓迎なようで、お祭り騒ぎ自体は私だって嫌いじゃない。恐らく私がこの店主の立場であっても、喜んで引き受けるだろう。

次に向かう酒場の場所を聞いて、足早に駆ける。

『急ごう。』




『うぅ…疲れました。』

「ご苦労様だったね。天気も崩れて大変だったろう。夜までゆっくり休むといい。」

大っぴらに動けない叔父の代わりではあるものの、町中の酒場を練り歩くのも流石に疲れる。

けれど、訪れた酒場の店主で首を横に振る者はおらず、いずれも嬉しそうな顔で仕入れだの料理の仕込みだの腕を捲る様子を見る事ができた。

『皆さん概ね良い顔で返事が貰えましたよ。』

「それは僥倖だね。そういえば先ほどパルティア殿が到着されたようだよ。」

と聞くや否や、窓の外、少し離れた建物の方から大きな音が聞こえた。

『「あ…」』

叔父と同時に口から洩れた理由。あの領主姉妹のちょっとした癖のようなモノとでも言えばいいのか?

『こちらから挨拶に行った方が良さそうですね。』

「そのようだね。」

慣れ親しんでいるこの宿が倒壊するのは避けたい。

少しの休憩を挟んで、大きな音がした建物の付近へと向かう事とした。




『あー…』

凡その位置は先ほどの大きな音で分かっていた。

周辺まで足を運び、見渡す…までもない。

それなりの人だかりと、見事に破壊された宿の入口。

人だかりの中には、豪快に笑う女性の姿と、それを窘める女性の姿がもう一つ。

店主に頭を下げている従者らしき者の姿。

宿の店主らしき人は、謙遜しながらも笑顔。

まぁ当然のように修繕の費用は彼女たちが持つだろうし、あそこまで破壊されれば最早笑うしかないのも分からなくはない。

にしても、この2人を見ていると、内密というのも馬鹿らしく思えてくるのは何故だろう?


『パルティア様、それにガラティアもお久しぶりです。』

「フィル!!」

私の姿を捉えたガラティアが、凄い勢いでこちらに近付いてくる。

嫌な予感。

「会いたかったぞぉ!」

一瞬で私の足は地につく感覚を失い、容易く体が持ち上げられ、そして彼女の胸の中に抱きしめられる。

『いだだだだあだ!!、いだぃ、痛い!!』

「こら、ガラ!、嬉しいのは分かるけど、そのままだとフィルが死ぬわよ?」

「いたたた、パル!痛いって…って、あ…」


『はっ?』

一瞬飛びかけた意識を戻すと、腕の力を緩めたガラティアの顔が目の前にあった。

「す、すまん。フィル…そのあんまり久しぶり過ぎて、さ…」

『いいよ、ガラ。久しぶりだね。』


あの船旅以降、再会した旅仲間は、申し訳なさそうな、それでも嬉しそうな表情で改めて私の手と握手を交わす。

『手加減してね?』

「あぁ。」

感想、要望、質問なんでも感謝します!


西方からの来客は、懐かしい旅仲間。

西の近況は少しでも心を落ち着かせる内容であれば、と。


次回もお楽しみに!

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