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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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165話 厳重警戒

165話目投稿します。


南方領主の別宅周囲の警戒は想像以上に厳重。

屋敷で出会った叔父の心配事は想像以上に大きい。

技術院へと向かう道には随分と慣れた。

ここ数日は特に毎日のように通っている事もあって、寝てても辿り着けそうなくらいにはなっているかもしれないが流石に試す気はない。

下層の借宿から向かえば大した距離ではないのだが、今日は一旦本宅へと戻る必要があったので、それなりの距離を移動する事になる。


技術院は、それなりに国の重要機関でありながら、その施設自体は王都内でも東の端に位置している。

上層で言えば、グリオスの別宅や、最近少々キナ臭さを感じる南方領主の別宅からならそう遠くはないものの、いずれにせよ層の違いはそれなりの距離を生む事となる。

結果、借宿を出て本宅へ向かう私は、東方と南方の別宅がある上層区画の間を通る事となるわけだが、どうにもこの二つの区画は分かりやすい程の違いがある。


東方の区画に関しては今の私の目的地である北方区画やここからだと一番遠い西方と大した違いはない。

従者を始めとする其々の屋敷に勤める者たちが行き交っていたり、それに近い貴族衆が散歩していたりとある程度落ち着いた生活の色が見て取れる。

変わって南方の区画は王都の、しかも上層にありながらも明らかに他に比べて衛兵の姿が目に付く。

いっそこの南方区画こそ、国の最重要機関だと言っても違和感を感じない程厳重に見える。

『…』

違和感を感じるとすれば、衛兵が警備する中でも、凡そある程度の位を持っているような姿だけでなく、明らかに従者ではない一般民のような姿もちらほら見える事。

厳重な割りにその衛兵たちがそういった者たちに対して警戒していない様子。

南方領主の取り決めは分からないが、恐らく彼らは南方出身の者なのだと思う。

でなければあの警備体制で取り締まられない理由が考えられない。

むしろそういった者たちより、区画の傍を歩いているだけの私の方が警戒されている気がしてならない。

『南方領の関って厳しいって聞いてるし…自領より他領の人に警戒してるって事…だろうな。』

ラグリアや叔父、西方、東方からもある意味警戒されているだけあって彼らからすれば針の筵のような状況なのか、張り詰めた緊張感は当然だろうが、正直この空気は辛い。

『次からはちょっと遠回りしよう…』

大人しく下層に移動してから技術院へ向かう方がこの痛々しい空気に触れなくて済む。

距離はそれなりにかかるものの、日に日に強くなるこの緊張感はいい加減何とかしてほしいところではあるが、現状はどうしようもないだろう。

だからこそ、ノプスにはお昼ご飯くらい自分で何とか手配してほしいものだが、頑なに料理長のお弁当を要求してくる。

いっそ専用の乗り物でも作ってもらいたい。

『あ、それ中々いい考えかも?』

「おい!、そこの娘!、ここでのんびりするんじゃない!」

おっと。

色々と考えながら歩いていれば、案の定衛兵から注意を受けるわけで…。

溜息交じりで足早に立ち去る事にする。

『同じ国のはずなのに変なの。』




「南方区画の警戒はあちらの関と大差ないかもしれないね。」

屋敷に辿り着いた私は、丁度執務室から出歩いていた叔父に声をかけられ、先ほど衛兵に注意された事を溢した。

『近くを通ってるだけで怒られるのって酷いですよ。』

「確かにね。あの方は色んな意味で気が抜けない人だからね…間違いなく他領から警戒されている事にも気付いているのだろう。彼らにそれが伝わっているのは間違いないさ。」

ここを居としている以上、無関係というわけにもいかないのは分からなくもないが、やはり出来るだけあの一帯には近付かないでおこう。

「キミだけじゃない、ここで働いてくれている者たちにも不便を掛けているのでね。私としても現状はできるだけ何とかしたいものだが…未だに見えないモノが多すぎる。」


込み入った話になりそうなので私も叔父と一緒に執務室へと向かう事となる。

「ふむ。確かにそれは私も知っているよ。」

先ほど目にした事も含めて、普通なら王都の別宅に入らないような者でもあの周辺で姿を見る。当然そんな事はすでに叔父も承知だろう。

「あの別宅には南方出身の者が多数訪れているようだね。」

『理由は解りますか?』

「あまり考えたくはないが、彼らは王都での調査を行っているのだと考えるのが妥当なところだ。あの方が王都に放っている目と耳だろうね。」

同じ国に所属しているはずなのに、何を調べているのか?、しかもあくまで表面上は内密に、だ。

『陛下は何か考えているんです?』

「ははは…それを私に聞くのかい?」

『む…』

昨年と違って、今となっては叔父よりも私の方がラグリアと顔を合わせるのは容易。

叔父の様子からすれば、必要なら自分で動け、と言っているようなものだ。

でも確かにラグリアの考えは気になるところではある。

『はぁ…我ながら余計な事に首を突っ込んでる気がします…』

「キミの良いところじゃないか。」

『そう思われるのもちょっと嫌になってきたかも?』

肩を落としながらも再び城に訪れる理由ができてしまった事に少々気が重い。

でもまぁ、ヘルトに会えると思えば楽しみではあるか?


『あぁ、そうそう叔父様からもノプス所長に言ってくださいよ。お昼ご飯くらい自分でしっかり用意しろって。』

「最近料理長が妙に張り切ってるのは知っていたけれど、まさかアレが原因だったのか…少し考えておくよ。」

今日も顔を出す予定も伝えると、出発の前にもう一度執務室に来るようにとのこと。


相変わらず無口な料理長から今日のお弁当を受け取る。

むぅ…今日も今日とていい匂いがする。

いつも通り、親指の挨拶を交わした後、叔父に言われた通り執務室へ向かう。


何のことはない、手紙を二通手渡された。

「少なくとも、キミが自らお弁当の配達をする事はなくなると思うよ。」

一つはノプス所長宛て。

「こっちはパーシィ君に渡してくれればいい。彼女からリアンへ届けるように伝えておくれ。」

『はい。承知です。もしかしたら今日も借宿の方に泊まるかもしれません。』

「気を付けて行きなさい、こんな状況だからね。あとフィル。キミは今となっては有名人というのを自覚しておきなさい。」


『?…分かりました。気を付けます。』

叔父が何を言いたいのか、全ては分からないが内容は確かに解らなくはない。




私が屋敷を出発した後の執務室。

叔父が発した言葉を私は聞く事はできない。

「彼が居れば、あの子にかける心配も少しは楽になるのだがな…」


感想、要望、質問なんでも感謝します!


口にしてしまえば簡単な事でも、敢えてできない事が多い。


次回もお楽しみに!


※先日の話数間違いで同数話があった事に引き続き、昨日の164話を165話と表示しておりました。(修正済み


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