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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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163話 沈黙の酩酊

163話目投稿します。


何気なく発した言葉は時に暴露ともなりうる。

「ほらぁ!、もっと飲めよ!リアン!」

何食わぬ顔で仕事帰りに顔を出したエル姉は、夕食の時間が始まるや否やリアンに向かって酒瓶の注ぎ口を付き出す。

「まったく…どこから持ってきたんだ。いい加減にしとかないと司祭の目に入るぞ?」

エル姉の前だと一段と砕けた言葉遣いとなるリアン。

それはそれで共に過ごした旅の中では見られなかった姿で新鮮だ。

「あっはっは、エルさんは今日も平常運転だねぇ?」

数日とはいえ、出会って間もないはずのパーシィにこう言わしめるエル姉の振る舞い。

下手したら私が知ってる彼女よりも進化しているのかもしれない?


『リアンさんはともかくとして、パーシィにまで酒飲みと認められるって程があるわよ、エル姉。少しは自重したら?』

「あ?、そりゃ無理ってもんだ。アタシから酒取っちまったら途端に働けなくなっちまう。」

酔いながら仕事してるのか、この人は…いや、強ち否定もできない…。

「だから司祭に目には気をつけろと言ってるんだ…まったく。」

呆れながらも注がれた酒を飲み干すリアンもまた良い飲みっぷりなのでは?

見ている限りだと、酒量はエル姉と対して変わらないはずだ。

若干絡み酒となっているエル姉に比べて、リアンの様子はまさに平常運転に見える。

「初めて会った時はそりゃ驚いたけど、何だかんだで慣れちゃった。あとアレだね。ガラティア様に似てるとこあるから安心するのかも?」

ね?とこちらに同意を求めるパーシィだが、確かにガラティアと似たところがあるのは、むしろ私にとってはエル姉と出会った事が先だったので逆方向からの印象の方が強かった。

『というか、もしかしてパーシィとエル姉が初めて会ったのって割りと前だったりするの?』

3人がきょとんとした顔に戻り、其々に思い返すような表情。

「えーっと…確か、あの船旅が終わって割りと早い時期だったよね?」

「…」押し黙るリアン

「…」押し黙るエル姉

ん?

「初めてここに来た時はそりゃもう大変だったよねぇ~、ね?」

急に静かになった2人の様子を気にする事もなくパーシィは続ける。

「すっごいしょぼくれて入ってきたエルさんを、今のやりとりとはまったく逆ですっごい優しく慰めるリアンさん。いやぁ…あれは見てて和んだよ~まるでもう熟年の恋人どぉ」

パーシィの口に酒瓶の口が突き刺さる。

「んぐんぐぅ…」

「すこーし静かにしようかー?パーシィちゃん?」

怒気…というよりはこれは照れか?

それを隠すようにパーシィの口を塞ぐエル姉。

『ちょ!、それお酒!!』

「まぁまぁ、フィルさん。今日は旅仲間の久しぶりの再会なのですから、少々ハメを外しても大丈夫ですよ~?」

止めようとした私の肩をがっちりと抑えるリアン。

え?え??

どれだけ飲まされたのか、酒瓶を口から外されたパーシィは、その身を一時停止させ。

バターン!とテーブルに頭をぶつけて意識を閉ざした。

「さぁて、次はフィル~。お前の番だぞ~?」

ゆっくりと酒瓶の口が私ににじり寄る。

『ま、まって…ま、待ちなさいって!』

肩に添えられたリアンの手はそのままで、決して力が込められているわけではないのに…。

動けない。

『むぐっ!』

無慈悲に喉に流れ込むお酒の味は、突っ伏して動かなくなったパーシィは勿論、私にとっても未体験の味で…。

『うぐ…』

程なく外された酒瓶と、いかにも「してやったり」といったエル姉の表情。

そしてあれ?

『エル姉が…3人…』

目が回る。

これが、お酒…か…。

そうしてパーシィ同様に私の意識も途切れた。




「…ィル!フィ~ル!」

体を揺さぶられ、呼ばれる声で途切れていた意識が少し戻ってくる。

「フィル!、起きてって。」

耳に入る声のヌシは多分パーシィ。薄っすら開けた視界に見える彼女の姿を捉える。

『ん…パーシィ?…』

体が重い。

何で寝てたんだっけ?

それに視界も少々ぼやけている。

『あ…』

思い出した。

私もパーシィも無理やりお酒を飲まされて意識が飛んだ。

『ここは?』

「うん、私の部屋みたい。多分一緒くたに運ばれたみたいね。」

『あの2人は?』

「私もさっき起きたとこだから分からないけど…まぁ、時間はそれなりに経ってるみたい。」

『あの2人の関係って何なんだろうね?』

「あまり触れない方が良さそう、だね。」

『確かに。』

無理やり酒を飲まされるのは今後御免被る。

互いにクスクスと笑い、改めてこの部屋は私たち2人の時間となった。


『技術院で何度か見かけたけど、元気そうで何よりだよ。』

膝を抱えて隣に座るパーシィは笑顔で返す。

「私の方こそまたフィルが元気になってくれて良かった。」

あの旅の帰路で皆が声を掛けても殆ど反応を見せなかった私は、彼女や他の皆にも相当な心配を掛けてしまっていたようだ。

「でも私もカイル君の姿を見た時、フィルの様子も仕方ない事かな、って思っちゃった。もし私がフィルの立場だったらきっと、もっと酷い事になってた。」

私の手にパーシィが手を重ねる。

『ごめん、心配かけて。』

「ううん、いいの。今はカイル君戻すために頑張ってるんでしょ?、ノプスさんの所に来てるのもそうなんでしょ?」

『うん。色々と調べてるんだけど、中々方法が見つからなくてね、それを調べるんじゃなくていっそ聞く事ができたら、って。』

「聞く?誰に?」

パーシィの反応は御尤もで、ここに関しては私ですら確実性に欠けるとは思っている。

『うーん…説明はちょっと難しいし、ちょっと陛下も関わってるから…』

「あー…そっか。分かった。ソレについても聞かない方がいいね。」

後ろに付け加えた言葉で察してくれるパーシィは本当にありがたい。


「でも、いつか話せるようになったら、今のフィルの冒険のお話も聞かせてね?」

冒険…そうか、今私が求めて行っている事も、パーシィからすれば冒険、探求と言えるのか。

『うん、きっと。その時はカイルも一緒に、ね。』

極自然に小指を差し出す。

パーシィも同様に、約束の小指を絡ませ、互いに笑い合った。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


小さな約束を重ね、束ね、いつしか希望になるまで。


次回もお楽しみに!

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