161話 新たなしさく
161話目投稿します。
久しぶりに見る仲間の仕事っぷりは、常に新たな技術を磨く最前線に立つ姿。
『こんにちわー。今日はちょっと早めに来ましたけど、皆さんお昼どうしますかー?』
ノプスが居なくても、すでにこの研究室の面々とは仲良くなっている。
私の声が室内に鳴り響き、そこかしこの物陰からニュッと生えてくる人影はまるでソンビ…アンデッドの様にも見えてくるから怖い。
食事のお世話は何とかできたとしても、彼らはもうちょっと睡眠時間を増やすべきだ。
「お、今日はもう来てたのか、って私のは残ってるか?」
遅ればせながら研究室に飛び込んできたノプスは、私の姿を見るなり急いで配給品に駆け寄る。
この人なら私が食事を用意しなくても、自分で好きなだけ手配できそうなものだが…。
『あぁ、ノプス所長。こんにちわ。ちゃんと残してますから落ち着いてくださいねー。』
お弁当とはいえ、屋敷の料理長のお手製だ。
素晴らしい事に、持ち帰った容器や残ってしまった料理からこの研究室の好みを掴み取っている。
数日前からすでに余り物は無くなった。更に今では温かいスープまでも用意されてる辺りはその腕前はとんでもなく高い。
「私だけでなく、ここの皆もそうだが、最近はいい生活をさせてもらっているな。」
『料理長もいつも楽しそうに作ってくれてますよ。きっと皆さんの健康を一番に考えているのは間違いなくあの人でしょうね。』
「アインには今度しっかりお礼しに行かんとなぁ…あまり借りを作りたくはないんだが…」
料理を口に運びながら、唐突に「ハッ!」と声を上げた。
ハッ!って口に出る人見るのも珍しいな…。
「こ、これはアレだな!、胃袋を掴む!ってヤツだな!!?」
『ノプスさん…それって所謂恋人探しとか結婚したい相手とかに使う言葉ですよ…』
頭が良いのか悪いのか…いや、この人も天然なのか?
『そういえば、パーシィって今どうしてます?』
「えーと、あの子は…多分船の部署にいると思うよ。しっかりと試作機の改善手伝ってくれてるよ。何だかんだでここで働いてくれてるんだよねぇ?ニシシ。」
結果的にこの人の思惑通りという事か。
まぁパーシィも楽しいからこそ続けているんだと思う。
『部屋は前と同じところですか?』
「あぁ、ちょっと違うところなんだ。後で案内しよう。」
『うわ…また小さくなって、る?…』
ノプスに案内された魔導船研究室は、以前の場所と遠くはないものの、比べれば規模は小さい部屋だ。
私が口に出したのは勿論部屋の大きさの事ではない。
先ほどノプスは「試作機」と言った。
それが指していたのは、私たちが乗った船の事ではなく、アレを元に作られている新しい試作機の事だったのだ。
「おや、聞き覚えのある声が…」
ヒョコっと更に小さくなった船の甲板から首を出したのはパーシィだ。
『パー』
「フィル!!」
私が彼女の名を呼ぶより早く、甲板から私目掛けて飛び降りてくるパーシィ。
『わわっ!?』
瞬時、自然に指先が動いた。あれ?
落下したら当然怪我する。その勢いは私に受け止められる衝撃ではない。
が、私に彼女が触れる直前に彼女の体がふわりと浮かぶ。
『っとと。大丈夫だった?』
止めて、下す。
無事に足を付いたパーシィが改めて私に抱きついて来た。
「会いに来てくれてありがとぉ~フィルぅぅう!」
そんなに嬉しかったのか、抱きついたその頭を撫でると、より一層甘えてくる。
出会った時に比べると随分と気兼ねなく振る舞ってくれるようになった。
それが原因か、この子の本来の性格は私の目には色々と真新しく映る。
この甘える様子はイヴに近い物を感じざるを得ない。
「んで、どしたの今日は?。」
『ん、ちょっと話がしたいなぁって。』
「そかそか…んーでも、一応仕事?してるから…」
少し考えこむ素振りを見せて、ポン!と手を合わせる。
「今日、あの借宿に泊まるってのはどう?」
彼女の提案は、確かに理にかなっているかもしれない。
結局のところ、船旅以降も技術院に通う事となっている彼女にとってあの借宿は使い勝手が良く、叔父と相談した上で引き続きあの家を使っているらしい。
『あ、もしかしてアレ以降屋敷で見なかったのって、そういう事?』
「そだよ~。何とリアンさんも一緒。」
一応パーシィの仕事上の所属としてはスタットロード家の従者となっているはずだが、旅以降に本宅で彼女の姿を見たことはない。
従者というには特殊過ぎる彼女ではあるが、どちらかというとカイルに近い形、お抱え冒険者と言った方が近いのかもしれない。
彼女の素養は、今となっては技術院にも必要と言われる程に貴重だ。
書類だとか契約だとか難しい事は分からないが、多分技術院とスタットロード家の間には油断できない程のやり取りがあったに違いない。
彼女が「仕事」と言ったのもその辺りの兼ね合いもあるのだと思う。
とりあえず今日は外泊となった旨を屋敷に伝えなければ。
準備が終わったら借宿に向かう事だけ伝え、仕事の邪魔をするわけにも行かないので、一先ず今日の技術院での用事は終りとなる。
『料理長、これ、今日のお弁当箱です。いつもありがとう。』
この屋敷の料理長は基本的には無口。
なのに人当たりがいいという不思議な人だ。
今も調理場に空っぽの弁当箱を持ち帰ったところ、中身を見た後ではあるが満面の笑みと、グッと親指を立てる形での返事。
グッ!。こちらもついつい、同じポーズで返してしまう。
『えっと、今日なんですけど、この後私、下層の宿に泊まる事になってるんです。でも明日も技術院には行く予定なので…明日、一度こちらに寄りますので…』
明日のお弁当もお願いします、と言う前に再び
グッ!
そして私もやはりグッ!と返すわけで…何というかこの人とのやり取りは妙な楽しさがある。
何でだ?
『後は…叔父様たちにも言っておかないとね。』
叔父は執務室だろうか?
日暮れも近い時間なので、今から準備して借宿に向かうとなるとあまり時間はないな。
自然と足早に駆ける事になる。
執務室の前、扉に手を掛けようとしたその時、中から聞こえた声。
「思った以上に南方は手強い、か…」
誰か、叔父以外の人でも居るのだろうか?
勢いのまま部屋に入ろうとしていたが、聞こえた内容が私の足を止めた。
ノックをして返事を待つが、返事は早かった。
『誰かいらっしゃったのでは?』
「いや、私だけだよ?どうしたんだい、フィル。」
執務室の中は、手に持つ書類から目を逸らさずにこちらに声をかける叔父の姿しか見えない。
気のせい…かな?
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叔父の調査は中々にして難航。対称に技術院の試作機は順調なようで。
次回もお楽しみに!