159話 相違点
159話目投稿します。
再会した交易人を案内したのは上層部の本宅。
突然の客人は、主にとっての古い願望を叶える事となった。
「我が家にエルフ族の方をお招きできるとは思ってもいなかったよ。」
慣れない王都で困っていたロディルに再会したその日、急遽宿泊場所として案内したスタットロード家の屋敷。
突然の来客にも問題なく対応してくれる従者の皆さんには感謝しかない。
ロディル本人も当初は私の提案に遠慮していたものの、私の強引さに押されてしまったようで、この夕食の場での叔父の和やかさに随分緊張も解けた様子。
「ロディルさん、と言われたかしら?。遠慮せずに寛いでくださいね。」
叔母も同様に優しくロディルに声を掛ける。
隣に座るオーレンも、それほど目にしないエルフ族に興味津々な様子。
イヴもオーレン同様に興味を抱くが、視線を見るからにその興味は彼の耳に向いているようだ。
「その後、エルフの村はどうなっているのだろうか?」
私が訪れた事で、長らく集落を統治していたルアがその姿を消した。
新たに生まれた小さな命が、同様の立場に立つのかは分からないが、何となく将来はルア同様にあの集落を統治していくのではないだろうか?という予感も感じる。
「あの子はすくすくと育っていますよ。私たちはルア様より後に生まれたのであの御方の幼い頃は知らないのですが、あの御方からは想像も出来ない程にそりゃやんちゃでしてね。」
集落の人たちも毎日苦労している、と。
それでも無事に成長しているのであれば、私としても胸を撫で下ろせるというモノだ。
「また近いうちにお邪魔しても良いだろうか?、な、フィル?」
『えぇ、是非に。』
「こちらこそ、是非あの子、スヴィンに会いに来てください。私だけでなく、村の皆も喜びますよ。」
夕食を終えた私たちは、その場所を応接室に移し、今度はオーレンとイヴによる質問と談笑がロディルを攻め立てるものの、案の定叔母に行き過ぎを咎められ、少しばかりシュンとなるものの、2人ともペロっと舌を出して反省のフリをする。
その光景もまぁ私や叔母には当然バレているわけで、更に外から眺めるロディルも楽しそうで何よりだ。
『叔父様、今日は私からもお礼を言わせてください。』
この執務室で3人の時間を取るのも最近の習慣となりつつある。
叔母の淹れるお茶を楽しみにしているのも理由の一つだ。
「いや、夕食の時に言った言葉は私の本心でもあるんだよ。昔から機会を伺ってはいたんだがね。中々どうして。」
「エルフ族は村から出る事自体が珍しいですしね。私も久しぶりにエルフ族を見れて懐かしく思いましたわ。」
『そういえば叔母様も叔父様や私の両親と一緒に冒険してたんでしたっけ?』
3人に比べれば短い時間だけどね、との返事。
「あの時のキミの目的がまさにソレだったからね。私も懐かしいよ。」
『ソレ…っていうのは?』
「うふふ…笑わないでね?。私もエルフ族と会ってみたかったのよ。」
オーレンとイヴを強く咎められない理由は、彼女自身にも思い当たる節があったから、という事だ。
「あの時はむしろキミを連れていくより、キミの家族を説得する方が大変だったね。」
「あら、割りと強引に連れ出されたような覚えがあるのですが?」
そして始まる2人の睦まじいやり取り。
『あー…コホン。ご馳走様でした~っと。』
すでに今日の情報交換は終わっていたので、足早に退室する事にする。
自室に戻る途中、慣れない場所で眠れないのか、ロディルに出会った。
『ロディルさん、眠れないのですか?』
「緊張とかではないのですが、何というか不思議な感じがして。」
少し散歩でもしませんか?との提案は喜ばれたようで、連立って屋敷の庭へと足を伸ばす。
「もう随分と温かくなりましたね。」
夜も遅い時間だというのに、薄着で外気に触れても寒いと感じるような季節じゃない。
『そうですね。もう少しすれば暑くて眠れなくなりそうですが…』
ははは、と笑い、エルフ族は総じて暑いのが苦手なのだ、と付け加える。
「交易役というのも集落の中で望む者はあまり居ないのもそれが理由の一つでもあるんですよ。」
確かにオスタングは集落に比べれば暑い。
土地柄と町の特色が大きいところではあるが、確かに好き好んで苦手な環境を訪れる者も居ないだろう。
「私はあの村では多分特殊な性格だったんでしょうね。でも、その結果、今ここに来る事が出来た。」
『ロディルさんも冒険したい、とか思ってたり?』
小さく笑い、耳打ちをするような素振りを見せたので、耳を寄せる。
「実を言うと、アイン様や貴女様のご両親は私の憧れだったのですよ。」
と、驚きの事実を聞かされた。
何よりその憧れが今の彼の立場を望む形となったのだ。
思いもよらぬところで他者の人生に関わる人達だなぁ、と改めて古い冒険者の顔を思い浮かべる。
「それにしてもここは不思議なところです。」
『というと?』
遠くから王都の姿を目にした時は、以前の私同様に中に浮かぶ城を見て感動を覚えた。
配達先が下層の施設というのは解ってはいたものの、何とかこの中に浮かぶ場所に訪れる方法はないだろうか?と少し考えていたらしい。
「しょうこうき…?でしたかな?、アレで浮かび上がった時、いつもと違う感覚を覚えたのです。」
抽象的ではあるが、ロディルの言い分は、どこに居ても感じられていた大樹の脈動から放たれたような、線を断たれたような印象。
私が緊張していると見ていた彼の様子は、確かにソレもあっただろうが戸惑いや困惑も混ざっていたという事だ。
『断たれた…ですか?』
「えぇ。けれど、昇降機を降りた後は、何というか…大樹の感覚とは違う何かに触れているような…言葉にするのが難しいのですが…」
『同じモノではない、と?』
「それは間違いないと思いますね。少なくとも今私が感じている同様の気配は、我らの母とは異なるモノです。それは間違いないでしょう。」
その後、談笑の時間を経て、互いに自室に戻った。
『面白い話を聞けた気がするな。強引にでも連れてきて良かった。』
大樹の気配と異なるモノが、王都の…この上層部に在るというロディルの言葉。
多分その感覚は、この城、上層部が中に浮いている事と関係している。
何より、その話を聞いた事で思い出した事がある。
王都に来て間もない頃、私もロディルと同じような感覚を持っていたのだ。
けれど、ロディル程大樹の近くで暮らしていたわけではない私は、その違いに気付く事ができなかったのだ。
でも、彼の言葉を聞いて、その感覚を改めて思い出す事ができた。
『王都の謎、か。』
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夜の談笑で聞いた話は、自分の中にあった感覚を呼び覚ます切欠となった。
次回もお楽しみに!