158話 王都の迷子
158話目投稿します。
技術院へ向かう最中、目にする困り人。
困り果てた様子のその姿に見覚えがあった。
『あれ?…あの人…』
技術院に向かう午前中の道すがら、王都にしてはそれなりに珍しい人影が視界に止まる。
しばらくの間、その様子を眺めていたのだが、どうやらその人影は道に迷っている様子。
すれ違う人に声をかけたりしているものの、その種族が原因なのか、少し敬遠されがちな光景が何度か繰り返されていた。
『あの、何かお困りですか?…ってあれ?』
困っていた人影、周囲から敬遠されるのはエルフ種族故。
幸い私はエルフの集落に滞在したこともある事で世間一般で敬遠するような理由は私にはない。そうして声を掛けたのだが…
「あ、貴女、もしかしてフィル様ではないですか?」
『えっと、貴方はまさかロディルさん?』
私やカイル、エル姉、ノームと一緒にエルフの集落からオスタングに同行してくれた集落の交易役の彼だ。
『まさか王都でエルフの、それも見知った人に会えるとは思ってなかったですよ。』
「そうですね、私もまさか王都に来る事になるとは…」
しかし私との再会は運が良かった、と胸を撫で下ろすロディル。
『遠路お疲れじゃないですか?、今私少し時間があるのでどこか入りません?』
適当な店に入り互いに気を落ち着かせる。
「流石は王都というところでしょうか?こんなお店に入ったのは初めてですよ。」
ロディルも交易役という事でオスタングの町に出向いた事は数知れずではあるが、確かにオスタングにはこういった飲食店となれば大体が夜に開かれている酒場の方が多い。
『んー…言われてみればオスタングにはあまり無いですね。』
「ともあれ、改めて貴女に会えて良かったですよ。急遽入った依頼でここまで来たのですが、こんなに広いとは思っても見なかった…」
はぁ、と大きい溜息と共に肩を落とす。
「エルフが敬遠されがちというのも解ってはいたのですが…」
『色んな人が居ますからねぇ…』
改めて王都にまで来た理由を聞いたところ、どうやら私の目的地と同じところへの配達と、これもまた奇遇。
というよりは恐らく配達物を聞いた限りだと、場所だけでなく細かい配達先も私の目的地と同じと思われた。
ロディルと私の目的地である技術院の施設内に辿り着くと、何となく予想していたロディルの驚く様子。
私やパーシィ、ロニーが初めて訪れた時と同様の反応だ。
王都に来たのが初めてのロディルともなれば、落ち着かせるのも中々にして大変だ。
配達を終えたロディルの様子は心身共に疲労感が目に見える。
『ロディルさん、今日の宿泊場所は私が手配するので、しばらく休んでいてください。』
そう言い残し、技術院の応接間に待機させておく。
「急いで頼んだこっちが言うのも何だが、まさかエルフ族が直接配達に来てくれるとは思ってなかったよ。これで色々と試せる事が増える。大助かりだよ。」
研究室に戻った私を迎えたノプスがここには居ないロディルに感謝の言葉を付け加える。
『まぁ…皆がのんびりできる時間も減ったわけですけどね~。』
資材が届いたという事は、作業が進めれる。つまり、また研究室が慌ただしくなるという事で彼らの体調管理が大変になるのは当然だ。
そういう意味でいえばまぁ…私も大変と言えば大変なわけだが。
『今後はどんな事を?』
「んー…そうだね。まずは元の装置を使って同様のモノとできるかどうか、というところかな?」
試験を繰り返して、そのモノ自体の機能や使われている技術を読み解いていく。
そのために行う実験が、まずは音を記録して確認できるかどうか。
「んでもって、それが上手く行けば…こっちの解析だな。」
手に取った瓶の中には赤色の砂…いや、これは元からこの魔導器に格納されていた魔石の核が砕けたモノだ。
『おぉー…成程。』
と素直に感動したものの、先はまだまだ長そうなのは間違いない。
「ところでー…フィルさんや?、もうお昼というには遅い時間なんだが…」
背後を示す。
その指が向く先には、ふらふらした様子で作業を続けている研究員の姿。
『あ!、ゴメン!忘れてた。』
そういえば今日は技術院に向かう前にロディルと再会したから、こちらに来るのも随分と遅くなってしまったんだった。
つまり、ノプスを始めとするこの研究室にはお昼ご飯が配られていない。
急ぎ持参したお弁当を配り歩く。
『はい、どうぞ。遅くなってゴメンね。』
「ふー…餓死するとこだった。」
んなわきゃない。昨日もちゃんとお昼ご飯届けたじゃないか。
そうして各員に食事を配り終え、研究室は遅めの昼休憩へと移行した。
『熱心も程ほどにしないと、ホントに過労死しますよ…所長さん。』
「あっはっはっ、まぁ、私に比べれば他の所員は確かに頑丈ではないだろうからな、気を付けようとは思ってはいるが…その、つい、な。」
所長に関しては西方領主姉妹や東方領主のような混血という話も聞いた事は無いし、ごく普通の人族のはずだが…この頑丈さは確かに不思議に思うところもある。
普段からして楽しそうに仕事をしているのが何よりの理由、とでも言えばいいのだろうか?
その理由だけで説明が付くとは到底思えないが…。
『まぁ、ホント、所長さんも無理しないでね?』
ロディルをあまり待たせておくのも悪いと思い、今日のところは早々に技術院を後にする事だけ伝え、研究室を去る。
応接室に戻った私を待っていたのはロディルではあったが、やはり気疲れからか座ったままで寝息を立てていた。
まぁ…少しこのままにしておこう。
書置きだけ残して、再び研究室に戻った私を待っていたのは、やはり雑用仕事。
『まぁ、私も程ほどにしないと、ね。』
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ひょんな事で案内する客人。
彼の口から聞く、その後の集落の様子は如何に?
次回もお楽しみに!