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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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157話 冒険の途中

157話目投稿します。


新たな可能性を求めた技術院。

いつでも騒々しいこの施設で再会したパーシィとの会話は色々と心が躍る。

久しぶりに訪れた技術院は、以前と同様に日々全ての職員が忙しそうに施設内を駆け回っている。

「フィルさーん、それこっちッス!」

「あ、でもそっちの荷物はウチのところですね。」

「それ終わったらこっち手伝ってもらえますか?」

それなりに人がごった返す技術院の施設内、あちらこちらを駆け回る状況。

『あわわ、えーと、これと、これに…あ、これはあっちか…えーとえーと。』


数日前頼み事に訪れた技術院という施設で、今ひとまず猫の手も借りたいという交換条件で頼まれた仕事、というよりはお手伝いを行っている。

想像以上にキツい。

しかし引き換えとして私が依頼した事は、こんなのに比べればとんでもなく大きい見返として期待する価値がある。


「あ、フィル。元気?…って凄いねそれ。」

駆け抜ける廊下で掛けられた声のヌシ。

『パーシィ!!』

速度を緩め、配達先へと歩く私にパーシィが付き添ってくれる。

「元気になったみたい。」

その言葉に少しだけ疑問を抱くが、彼女とはあの船旅以降会ってないのを思い出した。

彼女が操舵する魔導船での旅は、結局のところ私の大怪我と、カイルの石化、それを見た私の酷い意気消沈して王都に帰還するという形で終わったのだ。

『あ、あはは…ごめんね。パーシィにとっては初めての冒険だったのに…』

今となっては覆す事も出来ない事ではあるが、果たして彼女にとってのあの冒険はどうだったのだろうか?

「まだ終わってないよ。だからフィルも今頑張ってるんでしょ?」

『そう…だね。うん。』

今、技術院に通って日々を過ごしているパーシィの姿、表情は、初めて彼女に出会った時の大人しそうな、儚げな印象とは真逆で、その瞳に宿る好奇心の輝きは、私やカイルの目と何ら変わらない、冒険者の目だ。

今もまだ終わらない冒険と、それを望む強い視線。

もっと早く会いに来ていれば良かった、とそう思う。




「何か所長に依頼したんだって?」

『まぁ、陛下も絡んでるから、その辺りの采配はノプスさんにお任せってところかな。ごめんね?』

パーシィ的には内容を知りたかったのだろうが、その内情とラグリアの希望からすれば安易に教える事はできない。

仲間であっても、友人であっても、そこはしっかりと線引きをしておかないと、いずれまた今のカイルのような状況を生み出す要因や心構えに繋がりかねない。

「そっか。まぁ仕方ないね…って陛下といえば、面白い噂、最近聞いたんだけどー?」

『う…出来ればあまり聞かないで、私に。』

しまった。失敗した。最後の一言は余計だ。

「んふふー…中々大変そうだねぇ?」

そういえばそうだった。

パーシィは前職からすれば容易く噂話に興じる事を憚られる職業ではあったが、決してそれが嫌いというわけではない性格だ。

この手の話は今となっては遠慮する事なく興じる事が可能になってしまっているわけで…。

「まぁ今はこっちも忙しいから、また今度聞かせてよね?」

気付けば私が運んでいた資材の配達先に到着していた様で、ほいっと持っていた物を私に戻し、パーシィは足早に逆方向へと駆けていった。

廊下の角を曲がる前に、こちらに振り向きブンブンと大きく手を振ってからその姿を私の視界から消した。


『どうもー、頼まれてた荷物持ってきましたよー。』

「っと、フィルか。すまないな。雑用なんてやらせてしまって。」

扉を潜った先に居たのは、技術院所長のノプスだった。

『あ、これノプスさんの依頼だったんですか。』

「私というより、まぁ…この研究の、だがね。」

顎先で背後の研究室内にこちらの視線を誘導する。

『あー…』

これは酷い。

というか不衛生も極まっている。

『皆さんお疲れ過ぎじゃありません?』

「皆好きでやってるんだけどねぇ?、私が止めたところで止まらんし、ま、私も止めるつもりもないしな。」

『何の研究されてるんですか?』

改めて室内を眺めてみたところ、部屋の真ん中あたりのテーブルの上には、見覚えのあるモノが見える。

「何言ってる。キミが持ってきた案件だろうに。」

核の砕けた魔導器。

詳しく知らない人が見れば、ただのランプにも見えるソレが置かれていた。


確かにノプスがいうように、研究室内の職員は揚々に作業に勤しんではいるものの、顔から取れる体調は明らかに良いとは言えない。

『明日は屋敷から何か美味しい物でも持ってきます…皆さん頑張ってくださってますし。』

「おほっ?そりゃありがたいねぇ。おい、皆~明日はうめぇもん食えるってさー!」

ノプスの大声に呼応するように、室内の各所から歓声が上がる。

「フィル、キミは、案外人を扱うのに向いてるのかもしれないな?」

『そうですかね?』

頑張る人が頑張れるように手伝うのは嫌いではないが、ノプスが言うように、そういうモノなのだろうか?

飴は大事だぞ?なんて言われても、ノプスの性格を考えれば私からすれば喜びより恐怖の方が強いが。




そんなこんなで帰宅した屋敷で、流石に料理人に任せっきりというのも悪いと思い、あくまでお手伝いをする程度ではあるが、明日の活力となる差し入れの準備に精を出した。

料理長から何度か怒られたが、何でかは分からない。

『何か料理というより、片付けさせられてばっかりだった気がしなくもないな。ま…無事に用意できたからヨシとするか。』

明日の外出までしっかりと保管しておくとの言葉に安心。

明日からのしばらくの間は、王城の書庫ではなく技術院の研究室に通う事になるだろう。

『久しぶりにパーシィやノプスさんの顔見れたな。元気そうで良かった。』

どこかで時間を作ってパーシィともゆっくり話をしたいところではあるが、件の噂話と彼女が持っている情報を明確にしておかないとな…。


わずかでも事が好転するなら嬉しい。

数日前まで行き詰っていた事に比べればその期待度は高い。

ノプスを始めとした研究室の人たちには頑張ってもらいたい。

その為に、今の私に出来る事を少し考えてみようかな?

なんて思いながら眠る夜は静かに過ぎていった。


『そうだよね。冒険、まだまだ終わってなんかないや。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


日々の習慣は場所を変え、求める答えを探る手助けに奮闘す。


次回もお楽しみに!



※前話156話投稿時、タイトルに「155話」と記載しておりました。

現在は修正し、156話と変更されております。

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