156話 逸る可能性
156話目投稿します。
魂を探る答えを探す。
その困難さは足をかける場所すら見当たらないと思っていた。
この国、いやこの世界に生きて教育を受けている者であれば、誰しも知っている世界の始まりの物語。
創造主によって造られた世界に、その眷属とされる三神がその力を合わせて命を作ったという。
一神は様々な形を造り、二神はそこに力を育み、三神は束ねる魂を生み出した。
『こうやって見てみると懐かしい話だな。』
私やカイルも漏れる事なく幼い頃に学んだ一節だ。
色んな書籍に目を通した物の、明確な答えに辿り着く事もできず、時間だけが過ぎていく中、いっその事もっと基本的なところから調べてみようと考えた結果、今読んでいるのがまさに小さい頃によく目にしていた本の表紙を開いているというわけだ。
当然この中でも今気になるところは三神がその手で行った事。
魂の創造。
そこまで専門的な内容を期待していたわけではないが、やはりというか当然というか、その方法なんてものは書かれているはずもなく。
ここからも答えを得るのは難しい。
『んー…やっぱりこうやって調べるのも限界があるのかなぁ…』
大きく溜息を付きながら、体を後ろへと仰け反らせる。
ルアはそれなりに魂の事について少なくとも私より詳しくはあっただろうけれど、それでもカイルを元に戻す方法まで聞く事は出来なかった。
『専門家…専門家…んー?…』
魂の専門家、という言葉に、何か…何か頭に引っかかる。
何か明確な答えが私の中にあるような気がしてならない。
喉につっかえるような感覚、時にソレは誰かの言葉を元にして、時に時間が経つ事で整理され、時に忘れた頃に思い出す。
時?…時間…
『そうか…そうだ。』
開いていた本を閉じ、テーブルに置く。
立ち上がり、書庫から飛び出す。
つもりだった、が、いや待て。
どこに行けばいい?
今私が出来る事。
それを考えた結果、私は再びテーブルに置かれた本を手にとる事になる。
元々は南方領主の話を聞くためにヘルトにお願いしたラグリアへの面会。
今となってはそれ以上にも聞きたい事、その存在に気付いた。
『ヘルトさん…お願い、急いで…』
結局、その日はただひたすら落ち着かない気持ちを持ったまま、終りを告げる事となる。
夕暮れ間近に書庫に戻ったヘルトは激しく申し訳なさそうに頭を下げたものの、しっかりとラグリアとの面会の折り合いを付けてきてくれた。
焦る気持ちはあっても、気を逸らせてはいけない。
一つの可能性を突き詰めていくために必要な物。
彼との話でまずはそれを貰う。
書庫を後にして、城を出た私は、そのまま屋敷へと戻る前にある場所へと向かう。
事前の連絡がなくても多分大丈夫。
それにきっと、あの人たちなら、その心情、信念を揺さぶるに足るくらいに興味を持ってくれるはずだ。
ラグリアとの面会は流石に翌日というわけにはいかず、数日の後に叶ったが、それまでの日々、私はただ只管逸る気持ちを抑えるのに必死だった。
当初はあくまで秘密裏にラグリアから南方領主についての話を聞くはずだったが、ソワソワして落ち着かない様子を叔父や叔母に勘ぐられる場面も少々。
返答に困ったものの、気持ちを察してくれたのか、私の考えはすでにバレてしまっているのか、あまり深い詮索はされなかった。
「して、今日は…というより数日前から話がしたいというのは聞いていたが、随分慌てているようだな?」
今回はあくまで公としての面会となってしまった。
それがヘルトが取り付けてくれたラグリアとの時間。
当然、面会の場となる彼の執務室には、御付きの者も控えている。
『陛下、本日はお忙しいところお時間頂いて感謝いたしますわ。』
我ながら仰々しい挨拶。
同時にチラリと御付きの者に視線を飛ばす。
「いや、余も其方との時間は嬉しい事だ。キミ、すまないが茶の御代りと…そうだな少し食べる物を用意してもらっていいかな?」
流石は察しが良い。
程なく御付きは退室し、自然に人払いが成された形だ。
『流石。ありがとう助かるよラグリア。』
「もっと褒めてくれてもいいぞ?」
あまり時間はないぞ?彼は優秀だからな。と付け足すラグリア。
まぁそうでもなければ王様の付き人など出来はしまい。
『聞きたい事は二つ。』
まずは先日、船旅に出る前にラグリアと共に見たあの魔導器。その後どうなっているのか?
「あれは私が保管してある。あまり人目に出せる代物でもないのでな。」
『無理を承知でのお願いだけど、あれを返してほしい。』
「何をするつもりだ?」
『内密に、とは言えないけど、出来るだけ人は選ぶつもり。アレの解析をしてもらう。』
「ノプスか?」
察しが良すぎて怖い…が、恐らく同様の依頼をするならラグリアもあの人を考えていたはずだ。
こちらの頷きに対して、わずかに考え込むが、それもすぐに首を縦に振る結果となる。
「得た情報はノプスからでもいいが、キミからも話に来てくれると嬉しいものだな。」
『できるだけ、ね。』
執務机に取り付けられた鍵付きの引き出し。
開いた中にはそれなりに厳重な箱。
箱ごと私に手渡されたその中には、件の魔導器が入っていた。
核となっていた魔石は砕けてはいるが、その欠片も出来るだけ細かく集められている。
砕けてはいるが、この欠片の多さもきっと可能性を高める要因となるのは間違いないだろう。
『ありがとう。助かる。』
「二つと言ったか?」
時間がないと言ったからには迅速に、次の話題を挙げる。
『南方領主について。』
「やはり、な。俺も気にしていたところではある。」
『会談ではあまり変わらない様子だったって叔父様は言ってた。』
「確かにな…恐らく他の2人も同様に思ったのではないかな。」
口の前で両手の指先を組み、鼻の下辺りを支えるように肘を机に付く。
静かに、しかし印象深い強さで。
「普通過ぎて違和感を感じた。」
先代の跡を継いで領主となったセルストは、明確に忠義を示しているわけではない。
その名に「ロード」を掲げていないのが公として分かりやすいところ。
それでも今までは何か問題を起こすわけでもなく、南方地域をしっかりと統括していた。
広大なその地域を纏め上げる統率力、カリスマ性は一長一短に出来る事ではないからこそ、跡継ぎという経緯を踏まえた上でその優秀さはとてつもなく大きい。
「あの性格は東西領主に負けず劣らず強気、且つアレは他の領主には無い冷徹さも持っている。」
『えぇ。先日、叔父様たちと遠乗りをした時に偶然会いました。』
「怖かったか?」
『少し。』
「俺も出来るなら手伝ってやりたいところだが…あまり表立って動けない。」
『ありがとう。気を付けるよ…こっちも報告欲しい?』
「王としてはそちらの方が大事なのだがな、個人的には一つ目の方が気になるな。」
『分かった。善処するよ。』
付き人が戻り、会話は差し障りない世間話に戻る形となる。
今日の昼食が豪華になったのは運が良かった、というよりはラグリアの功績とも言えるかもしれない。
『さて、行こうか。』
公に「手土産」として渡された箱を持って今日の城での予定は終了となった。
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突き詰めるという事は、その道を突き進むという事。
真っすぐな視界は、時に狭くなってしまう。
次回もお楽しみに!