155話 危険な調査
155話目投稿します。
草原で出会った威圧的な視線。
その思惑ははっきりしないが、不安を呼び起こすだけの理由はある。
スタットロード家ご一行と急遽同行する事となったヘルト。
南方領主との思わぬ邂逅が有ったものの、当初の予定である気晴らし、気分転換という結果は十分に得られた。
王都に戻り、ヘルトを城へ見送った後、戻った屋敷では遠乗りの疲れも相まって、早々に就寝の準備が進められた。
「フィル。キミはどう思う?」
オーレンやイヴが寝静まった後、屋敷の執務室。
会話の内容が少々込み入った事に及ぶため、部屋に居るのは叔父、叔母と私の3人のみ。
叔父の御付きとして普段から身の回りの世話から作業の手伝いまで行う者もこの場には居ない。
そして話の内容というのは、気晴らしの最中出会った南方領主についてのイヴの一言。
「黒いの」という言葉だ。
『現段階では何とも…といったのが正直なところですかね?』
「領主会談はいかがでしたの?」
手慣れた手付きでお茶を淹れる叔母が横から口を挟む。
草原での一件以外で南方領主とのやり取りで大きなものといえば、その言葉の通り叔父が出席した領主会談以外に特に大きい物はない。
そういえばそんな事もあったなぁ…とさも他人事の感想が私の頭の中で揺れていた。
まさにその当日、私は個人的にそれどころの話ではない出来事に巻き込まれて…というよりまさに私が狙い撃ちされて居たのだから、そちらの出来事がすっぽり意識の蚊帳の外だとしても誰も文句言うまい。
そんな私の考えを余所に、叔父は「ふむ。」と記憶を探るような素振りを見せる。
「表立って気になるような発言は無かったと思うが…というより普段通り過ぎると言った方が彼からすれば目立たないのかもしれないな。」
少し探りを入れる必要があるのかもしれない、と叔父は叔父なりに何か腑に落ちない点があるようだ。
「大丈夫ですの?」
叔母の心配。
それもそのはず、そもそも南方領主は他の領主と折り合いが悪い。
叔父も含めた3領主が自領に訪れる事ですら相当な手間と時間が必要になると、以前聞いた事もある程。
そうなると当然、南方の情報、情勢などを直接探る行為もまた危険が伴う。
「そうそう無茶な事はしないさ。セルスト卿には悪いがまずは3領主間での情報共有が無難なところだろうね。」
『…』
これは多分、今の私に出来る事がある。
余計な心配は掛けたくないので叔父や叔母には秘密にしておきたいところだが、何か有効な情報が手に入ってしまえばその経路もいずれ解ってしまうだろう。
それでも叔父たちにとっては間違いなく有用な情報には違いない。
「パルティア様は恐らく今日か明日にでも西方に戻るはずですわ。」
「なら、早めに動いた方が良さそうだね。」
この夫婦の連携はこれはこれで微笑ましいところでもある。
時に私にとって酷い被害を出してくれるのもこの夫婦の連携から来るものではあるが、今は咎める事でもない。
『ヘルトさん、昨日は付き合ってくれてありがとうね。とても楽しかったよ。』
「いえ、私こそお供できて良かったです。」
翌日、最近の習慣になりつつある城の書庫へ。
昨日遠乗りに付き合ってくれたヘルトも当然のように私のお手伝いという事で今日もしっかりとその任を全うしてくれている。
『付き合ってくれて感謝してるんだけど、ヘルトさんに一つお願いというか聞きたい事があるの。』
「はい。私に出来る事でしたら、何でも。」
畏まってこちらの言葉を待つヘルトだが、それほど難しい話でもない。
『ラグリア陛下とお話することはできるかな?…というより暇そうな時間を教えてほしいのだけれど、出来るだけ急ぎで。』
ヘルト本人も、それほど難解ではない願いに「喜んで」と頷き、早速と足早に書庫を後にした。
ヘルトが去った後、一人残された書庫で、南方領主についての気がかりな点はあれど私は私でせっかくラグリアが用意してくれたこの環境は大事にしなくてはいけない。
南方領主に関する事が後に緊急に迫られるような事にでもなれば、おちおち書庫を訪れる事すら危ぶまれる。
『やっぱり今出来る事、しっかりしなきゃね。』
そうして探る書庫の中、とある一画に目が止まる。
『何か…この辺り…』
最近使われていたような…
『いや、使ったというより整理されてる感じか。』
念入りに見てみれば、推測は案外外れていないようで、他の区画に比べれば綺麗すぎる。
王城の書庫ともなれば当然掃除は行き届いていると考えても不思議ではないが、そもそも閲覧すら許可がいる場所だ。
人の出入りが頻繁な場所ではない。
許可を得て私やヘルトが足しげく籠ってはいるが、今まで見てきた書庫の中で埃が積もっている場所もあった。
その中でも、この一画にはそれが見られない。
まして私が気付いたのも今日が初めてだし、手伝ってくれているヘルトが気付けば何か教えてくれそうなものだけれど…。
深く考えるより、ここにある書籍が何なのか、それを確認した方が早いかもしれない。
『どれどれ…』
残念ながら私が求めるようなモノではない。
どちらかというと歴史書といった感じだろうか?
歴史書といえば、あっちの世界でも似たような文献、書籍を探っていた事を思い出す。
あの時はあくまで現状を把握するために世界の歴史を探していた。
この一画に納められている書籍は、建国からの史実や、4地方の歩み、果てやエルフ族といった亜人種との親交の歴史なども綴られた物まである。
『…気が向いた時にでも見てみようかな。城の構造とか探せばわかるかもね。』
空に浮かぶこの城の謎。
考えてみれば不思議な光景でもあるのだが、しばらく住んでいるからか今となってはそれほど気にしてなかった事に気付いた。
冒険者って考えれば、その秘密を探るのも楽しいかもしれない。
『また今度、ね。』
そんなわくわくするような話ならカイルと一緒がいいな、と考え今必要とされる関連書籍の区画へと戻るのだった。
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再び願う王との会話。
今度は何を対価とされるのか?、それでも必要ならば。
次回もお楽しみに!