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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第一章 王都へ
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15話 小さな大事

15話目投稿です。


愛らしさに騙されてはいけないのです。

でもモフりたい。

「キミの名前を教えてくれないか?」

固まってるまま動けずにいる私に小動物は已む無しと付け加える。

「あぁ、まずはわしの話をするべきかな?」

何とかコクリと返す。


曰く、小動物の正体は所謂私達人種の認識では「魔獣」に分類されるということらしく、当然本来ならこの地域には生息しておらず、この点に関しては不本意なところもあると愚痴のように言う。

『…まぁ確かに普通の狼には見えないし。』

額の角を指しながら相槌を入れる。

幾分落ち着いた私の様子に一息、改めて聞き返す。

「わしらは人族の認識だと「雷狼」と言われるそうだ。して、改めて聞くのだが、キミの名前を教えてくれないか?」

雷狼、魔獣に関しての知識はそこまで豊富ではないけれど、単純に予想するなら「雷を操れる狼」という認識で間違いはないだろう。

『私の名前はフィル、フィル=スタッドが正式な名前だけどフィルでいいよ。』

と、こちらも改めて自己紹介をするが、ふと目の前の雷狼の名前は聞いていない事に気づく。

『そういえばあなたには名前はないの?』

「あー…」と少々困り顔で返す。


曰く、本来魔獣や獣は人族のような固有の名前を持たない。

家族として人と供に暮らす獣、所謂ペットに名前を付けるのは人としては当たり前な事ではあるが、ソレは世界の理に準ずる事で、名付けの段階で主従、もしくは眷属としての理が生まれるらしい。

『へぇ〜。』

饒舌に語る雷狼に素直に感嘆を漏らす。

「と言うわけでわしには固有の名前はないのだが、こちらとしてはさしたる不便もないからな。」

毛繕いを再開しながら付け加える。

「であるからフィル、キミも安易に獣の名付け親にならぬことだ。」

『まぁ、言われてみればそうか。』

と私も納得する。

しゃがみ込んでいた体を起こし、服の裾を軽く払う。

『んで、アナタはこれからどうするの?』

問いかけた私に雷狼はニヤリと笑い。

「少々頼みたいこともある故お礼がてら同行してやろう…なんじゃその顔は?」

正直面倒臭くなりそうな事は御免被りたいわけだが…

『お礼と頼み事ってまるっきり対極じゃないの?』

「気にするな。」と私の後を付いてくる小動物に溜息を吐き野営地に向かった。


『付いてくるのはまぁ別にいいのだけれど、私以外の人にはどうするの?』

少なくとも領主は雷狼の存在は知ってそうな気がする。

流石に「狼拾った。」などは通用しないだろう。

単純に魔獣と分類される存在はこの地方で稀。

人によっては恐怖を覚える…いや、この見た目ならそれはないか?

となると、雷狼云々より人語を話す事の方が問題になりそうな気がする。

『あまり面倒事にしたくないから、一先ずは喋るの禁止で。』

本人もそれは同じ考えだったようで、「うむ。」と頷いた。

『状況次第で話すかもしれないから、その後の判断はアナタに任せるわ。』

もう一度「うむ。」と頷き、私の後ろをついてくる雷狼。言葉遣いの割り、歩く姿はトテトテと…

(これはこれで可愛い…)

少しだけ良からぬ事を思ってしまったのは本人には言えない。


野営地に着いた私と一匹はとりあえず領主の姿を見つけ呼び止めた。

『…えーと…』

私と雷狼の姿を何度か交互に眺め…「プッ。」と領主が口元を抑える。

「はははっ、フィル、やはり…ククッ、キミの行動は色々と飽きさせないものだね!」

『…えーと…嬉しそうで、何より?』

一頻り笑った領主は「さて。」とじっくりと雷狼と視線を交わし…「ふむ。」と思慮する。

「気のせいならすまないのだが、貴殿はもしかして人語を話せるのではないだろうか?」

いきなり確信をつく言葉を口にした領主に驚き、私と一匹は目を合わせた。

『えっ?!』と思った時には遅い。

軽く溜息をついた雷狼が口を開いた。

「まさかいきなり気づかれるとは思いもよらんかったのぅ。」


当然ではあるが、領主は雷狼という存在を知っており、尚且つ人知を超える知識を有する事、寿命も普通の狼はもとより人より長寿である事も知っていた。

それもあってか、雷狼に話かける領主の言葉は敬意に満ち満ちている。

「貴殿との会話は色々と楽しめそうではあるが、今は少し時間を頂きたい。」

名残惜しそうに領主は一礼してから従者衆への指示をするためにその場を離れた。

「あれはいい人間だな。」

『うん。ほんとにそう…』

普段の様子とその生き方をある程度知っている私としては部下に指示を送る叔父の領主としての姿は頼もしく、父とはまた違った格好良さが伺える。

『いつもはもっと締まりがない感じなのにね。腐っても領主、といったところかな?』


狩りから戻った一行に混ざり、夕食の準備を手伝い、程なく晩餐の時間となった。

残念ながら野生の獣は見つからなかったようで、主な食材は近場の川魚。

幼いオーレンは少し難色を示すものの、一口食べればその味を気に入ったようで大騒ぎだ。

『アナタも嬉しそうね。』

一行から少し離れたところに腰を下ろした私の隣で雷狼は焼き魚を美味しそうに食べる。

「魚はよく食べるが殆ど生魚なのだ。焼いたモノはそれほど食う機会がないものでな…まぁできなくはないんじゃが…」

調整が難しいとかなんとかゴニョゴニョ言っている。

そんな光景を見ながら領主が近づいて来た。

「気に入って頂けただろうか?旅の道中故あまり持て成しもできず申し訳ない。」

「構わぬよ、普段の食に比べれば十二分だ。」

それは良かった、と向かいに腰を下ろした。


「して…」と領主は口を開く。

その話は改めて領主の凄さというか怖さを思い知る事となった。


話はまず、領主が3ヶ月前、強行軍で北方に帰還した理由から始まった。

それに寄ると近年各地方で活発化していた自然現象による物、その原因と北方での変化を見るという事。

南方領では近年稀にみる干ばつ、西方領では海の大荒れ、東方領に連なる山の火山活動などが報告されていたという話だ。

東方の話が出たところで雷狼が付け足した話だと、火山活動に伴い「火トカゲ」が大暴れしているのだ、と苦虫を噛むような顔で言う。

(火トカゲって…)

付き合いはまったく短いものの、ここで言う「火トカゲ」というのが言葉の通りの生き物ではないのだろうな…と思っていると、そこに領主が回答する。

「やはり火竜ですか…」

「うむ。」と加え、

「あやつが暴れまわるおかげでわしはおちおち住処に居られんでな、静かな北方に来たというわけじゃが…まったくもって口惜しい。」

嫌な予感。

『まさかとは思うけど…』

目を細めて雷狼がニヤリと微笑む。

「察しが良くて助かるのぅ?」とちらりと領主にも目を向ける。

流石の領主も苦笑する。

「…すぐに、というのは難しいですね。」

「そこは解っておるよ。頼む身としてはお任せする他はない。」

雷狼は言いながら、器に残っていた魚をひょいっっと器用に放り上げガブっと美味しそうに齧った。


私と領主は「軽く」頼まれた「大事」に頭を抱える事になった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


あれやこれやで本話が最大文字数になってしまいました。

こういうのをペンが走る、とでも言うのでしょうか?


次回もお楽しみに!

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