151話 軟禁贅沢生活
151話目投稿します。
どうしても頭に残るあの夜の記憶。
相手が何を考えていたのか、まずはそれを知る必要がある。
「いかがですか?」
『うん、いいね。これ。助かるよ~。』
昨晩、彼女が目上の者に確認できた中で、客人とは言えど王城の書庫を直接調べるというのはすぐに許可できる物でもなく、読書としてある程度限られた範囲での持ち出しなら問題ないと何冊かの書籍を選んで持ってきてくれたというわけだ。
「やはり専門の書籍となるとすぐに閲覧可能かどうか、まずその確認からになってしまって…」
『いやいや、そもそもが退屈な時間を何とか過ごす方法が欲しかったし。』
それに、と付け加えるのは、以前にもこういった物語の本から得る発想や、元になった逸話が的を得ていた経験も、最近と言える範囲で確かにあるのだ。
必ずしも今必要とする情報に辿り着けるとは思っていないが、ヘルトが用意してくれた本の中の一冊。
魂の在処という題名の物語を綴った本。
方法ではなく、その存在が何処にあるのか、という意味。
戻す事より、まさに今、彼が何処に居るのか?、そんな考えで手に取ってしまった。
そんな感じだ。
『っ…』
ズキっと痛みが走った腰に手を当てて摩る。
他にも、時間が経つにつれ全身から軋むような痛みがしばしば。
部屋の惨状だけではなく、この筋肉痛とところどころについた薄い痣が、あまり考えたくはなくとも昨日の出来事を思い出させる。
昨年は会談の翌日には本宅へと戻ったが、今回私に開かれた王城の門、その入口が昨年と異なるため、招待者本人の言葉もなく勝手に帰るわけにもいかず…。
そう遠くないうちにまた顔を合わせる事にはなるだろうが、正直どんな顔で会えばいいのかは分からない。
『はぁ…』
その事だけは、何ともしがたい、本当にどうしたものか、と溜息が漏れてしまうわけで。
とてつもなく気が重い。
「フィル様、お食事のお時間ですよ。」
『あ、ヘルトさん。もうそんな時間か…』
声を掛けられるまで、気付かなかった。
「すごく集中されてて、本当に気付いてなかったのですね。」
持ってきた甲斐があった、と嬉しそうに食事の準備を進めるヘルト。
流石に彼女と一緒に摂る食事にも慣れ、彼女自身も毎食一緒に食べる事も習慣になってきたようで、しっかりと2人分の用意が板についてきた様子。
『今日も陛下は忙しいのかな?』
豪華ながらも栄養と量がしっかりと考えられた王城の食事。
こうして数日を城内で過ごす中で、改めて感じるこの場所が国の中心であるという事実を些細な食事の中からも理解している。
それを束ねる立場ともなれば、日々忙しいのは当たり前だと思うが、少なくともあの夜以来、彼の顔を遠目でも見る機会はなかった。
「お会いになりたいのですか?…その…」
少し言葉尻をすぼめるヘルト。
その視線の先は私が使っているベッド。
まぁ、それなりに親密になっていれば完璧とは言わなくてもラグリアと私の今の関係がどういう物なのか、対外的な意味も含めて分かっている事だろう。
『このまま…城を後にすることもできないだろうし、ね。』
しっかりと私の目を見据え、頷くヘルト。
「解りました。直接は難しいかもしれませんが、謁見できるようにお伝えしてみましょう。」
『ありがとう、ヘルトさん。』
今後がどうなるのかも含めて、半ば監禁状態の今の生活は何とかしたい。
その為にもラグリアとの謁見は避けては通れない。
むしろ今まで私が思っていたラグリアの性格を考えれば、時間がないというより、逆にラグリアが私に会い辛いという可能性も無くはない。
少なくともあの晩の彼の行為は、それなりの思惑や決心があっての事。
もっと分かりやすく言い換えてみれば、好意を伝えられたものの、私は明確に拒否した。
ラグリアにだって羞恥心や気まずさがないわけでもないだろう。
そりゃ私だって顔を合わす事に気まずさがないわけじゃないし、この身の全てを見られ、それ以上の事までされたのだ。当たり前だ。
『ぐ…ぬぅ…』
「ふふ…」
改めてその事に考えを及ばせると、私の頬はどうしても紅くなる。
小さく笑うヘルトにジト目で返すと、「申し訳ありません」とそれらしく付け足すものの、少し言いだし辛そうに、
「今のフィル様を見ていると、何というか…お付き合いを始めたばかりの男女、もしくは…結婚してすぐの夫婦…というか、どことなく初々しさを見ているようで…」
言葉を紡ぎながら、今度はヘルトの頬も紅く染まる。
「その…可愛らしいな、と思ってしまいまして…」
褒められているのか、噂話の種となっているのか、良く分からないが、見る人から見ればそうにも見えるというのが今の状況なのだ。
その事実が大々的に公表されでもしたら、それこそ今後の旅どころの話ではなくなってしまう。
出来るだけ早く、ラグリアと話をしなくてはならないな、という考えは間違いではなさそうだ。
翌日、相談の甲斐もあり、ラグリアとの謁見の希望が通る。
しかし、場所は謁見という言葉の割りに、いわゆる王座を構えているような場所でもなく、この客間ではないものの、別に用意される一室だという。
まぁ、現状としての目的は彼と話をする事だったので、あまり気にも留めずに了承。
その説明を終えたヘルトの様子が少し変な感じがして問いかけてみたのだが…。
「そのお部屋は…間違いなくこの客室より豪華な造りとなっておりまして…」
何とも歯切れが悪い。
『まぁ、陛下と話をするならそれなりに小綺麗なお部屋が用意されるのは解るんだけど、何か別の意味でもあるの?』
「そのお部屋は…間に御付きの者たちが使う部屋がいくつかあるものの、その…陛下の寝室から近いのです。」
『あ…?…あぁー…成程。』
歯切れの悪い理由は明確だ。
ついでに言えば、謁見として指定された時間は、夜の遅い時間。
余程の考えなしでも、その意味くらいは解る。
「今ならまだ…その、別のお時間などをお伝えする事も可能と思いますが…フィル様、どうされますか?」
『いや、それでいいよ。心配してくれてありがとう、ヘルトさん。』
未だに彼が本当に何を考えているのか分からないが、こんな分かりやすい条件を出してくれるなら、いっそ利用させてもらう。
避けて通れぬならいっその事、押し通ってやればいい。
ヘルトにお世話してもらう生活も、悪くはない。
でもそれを楽しむのは今じゃなくてもいいし、いっそ彼女とは外で遊んでみたいものだ。
眠りに付く前、枕に向かって少し言葉を荒げる。
今度はちゃんとヘルトが退室したのも確認した。
『覚悟してろよーあんの変態国王めええええ!!』
感想、要望、質問なんでも感謝します!
提示された謁見の形は、誰が聞いても同じ事を連想するだろう。
そこに留まる事を選ぶのは簡単。しかしそれを求める事は…きっとない。
次回もお楽しみに!