147話 社交再び
147話目投稿します。
厄介事に巻き込まれるのは必然か?
あまりに唐突な出来事は冗談で済まされるモノなのか怪しい。
あからさまに不満気な顔で大きな扉の前に立っている。
昨年、不本意にも叔父の随伴としてカイルと共に参加したこの催し。
一部の界隈では無論恒例行事となっているソレではあるが、私としては積極的に参加する気は毛頭ない。
今回は、私個人に招待状を贈るという、そのヌシは本当に何を考えているのか。
御蔭で今待機中の私の傍に、叔父を始めとするスタットロード家の者も近くに居ないし、待機場所としての控室も違う。
控室の階層自体が昨年より一つ上の階。
これが示す意味は、四方領主よりも位が高いところに居るという私の出自を知っている人間からすればまさに正気の沙汰か?と。
こんな扱い、まるで…いや、考えるのはやめておこう。碌な事にならない。
あくまで心の中だけにしておきたい言葉ではあるが…
『あんの陰険王め何を考え…おっと。』
しまった、口に出た。
慌てて口元を押さえる。
扉の脇に控えている衛兵が、ぎょっとした表情を私に向ける。
普通に考えれば牢屋に叩き込まれてもおかしくはない失言だ。
まぁ…名前を言わなかったのが救いといったところか。
扉の向こうから騒がしくなる空気が伝わってくる。
恐らくは四方領主とその親族や随伴者の入場が始まったのだろう。
散々待たされているこちらとしては退屈極まりない。
叔母の奮闘の御蔭か、着せられたドレスも昨年より豪華。
幸い、マリーが言っていた通り、昨年より締め上げられる感覚はそれほど苦しくはなかったものの、正直この衣装は重い。
動きにくいのは当然、これはこれで旅をしている時とは別の意味で体力を消耗する。
分かりやすく聞こえた歓声が4回。
『領主入場が終わったってところかな?…』
そろそろ出番かな?と、一応は表情戻し、身形を再確認。
我ながら、喋らなければ完璧、と考え、直後それはそれで何か悲しい気分になる。
さて、と身構えたものの、扉が開く気配がない。
けれども、扉の向こうには、5回目の歓声。しかも一番大きいモノ。
あれ?、と昨年の事を少し思い出してみるが…
領主の入場の後に現れたのは、王ではなかったか?
いや待て…その流れは多分昨年と同じ。
王より後の入場?
どういう事だ?
混乱してきた頭の中で必死に考えるものの、動揺も相まって纏まるわけがない。
そして、おろおろしている私の目の前で、大きな扉がゆっくりと開く。
出ないわけにもいかず、仕方なく足を進めるが…
同じ階層、目線の先に見える姿、間違いなく国王ラグリア=エデルティスその人だ。
戸惑いながらも手摺の淵に歩み寄り、見下ろす階下、昨年ダンスを踊ったフロアが見える。
まだ舞踏の時間が始まっていないフロアには、四方領主は勿論、昨年同様に位が高いであろう貴族様方の顔も多く見える。
私の知人を除く多くの表情は、その殆どが困惑といった感じだろうか?
会場は分かりやすい程にざわついている。
うーむ…状況が呑み込めない。
まぁ、何か話せと言われているわけでもないので、とりあえずは黙っておくことにしよう。
扉の前にあった姿見で、少なくとも今の私は、喋らなければ完璧、といった感じだ。多分。
流石に愛想よく手を振るなんて気の利いた事なんて思いつくはずもなく。
せめて引き攣りに気付かれない笑みを浮かべる程度。
私にすれば十分に善処している。つもり。
「みなの中にも覚えている者も居よう、昨年、北部領主アイン=スタットロードと共にこの場に姿を見せ、余とのダンスにも興じてくれた少女、フィル=スタット嬢だ。」
大仰にこちらに手を翳すラグリア。
当然ながら私に階下の視線が集中する。
なんという呷りか。勘弁してほしいのが本音。
「ここでみなに伝えたい事があるのだが、フィル嬢は昨年から密かに余の我儘に付き合ってもらっているのだ。」
いやまぁ、確かに間違いではないけれど…。
階下からは歓声、驚愕の声、目に見える範囲では耳打ちをしている者も多く見えるわけだが…。
針の筵というのはまさにこういった状況の事を言うのだろうか?
明らかに自分の事が紹介されているのだが、何というか…現実感がまったくない。
これじゃまるで婚約。
『え?』
いやいやいや!、ないないない!!。
本当に何を考えているんだ、ラグリアは!
ラグリアを睨みつけるが、本人はまったく意に介さず。
階下の叔父に助けを求めようにも、これは流石に叔父も予想外だったようで、片手を額に当てている。
イヴやオーレンは当然のように状況が分かっていない様子。
叔母を始めとする私の知人、東領のマリーやグリオス、西領のパルティア、技術院所長のノプス、それらの表情は何というか言葉にしづらい微妙な表情だ。
恐らくはラグリアの発言と、ある程度の思惑…この場合は悪癖とでも言うべきだろう、それが分かっているからこその表情だ。
その表情を見る限り、私の困惑も混乱も勘違いではないようだ。
そしてラグリアからトドメとも言える一言。
「赴いてくれたみなの中でも、期待を抱いていた御婦人が居たのであれば、すまない。今年の余のダンスの時間は無しだ。」
悲鳴にも近い騒めき。
会場のあちらこちらの女性陣から上がる声。
あぁ…何かラグリアの思惑が少し分かった気がする。
多分、このまま下がっても問題なさそうな気がする。
一応、笑顔を絶やさずに一礼してみる。
ラグリアに顔を向けると、案の定、ニヤりと笑う表情が見える。
引き攣る顔で何とか堪えて、元の扉を潜り抜ける。
一応は問題なかったようで、扉の脇に控えていた城の侍女が付き添ってくれる。
早々に退散した控室、一応は城の客間としても利用できる部屋には当然ベッドもあるわけで、着ている豪華なドレスを気にする事もなく、ベッドに飛び込み、枕に顔を埋める。
付き添ってくれた侍女の退室を確認した後、枕に顔を埋めたまま叫んだ。
『あんのクソ国王めえええええええええええ!!!!』
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事実を突きつけられ、それでも…
次回もお楽しみに!