145話 未来への感謝
145話目投稿します。
オスタングへと戻った2人。
晴れない心は、未来を望む想い。その感謝に重ねる事で応える。
「こんな時、カイル君が居ればキミは彼を頼りにするんだろうね。」
2人の姿は私の両親の若い頃を見ているようで懐かしい、と語ったのはエルフの集落に向かう前だった。
母にも今の私のように悲しい出来事に気持ちが沈む事もあったのだろう。
「どちらかと言えば、ジョンさんの方が落ち込むことが多かったのだけどね。」
私の母、叔父にとっては姉はあまりそういった姿を見せなかったらしい。
「どんな時でも笑っていた印象があるね。小さい頃からずっとだ。」
父より母の方が強かった。というのはある意味身内贔屓のようなものかもしれないが、確かに今の2人を見て、どちらが強いか?と聞かれれば…少し方向性は違うかもしれないが母の方が怖いのは分かる。
『母は…落ち込んだりしたことはなかった?』
「人の前では、ね」
人に弱みを見せるのは悪いことじゃない。両親は互いの弱さを理解してそれを支え合っていた。と叔父は語る。
「あの頃の二人を見ていて分かったよ。この二人は将来ずっと一緒に生きていくんだろうな、ってね。キミとカイル君も私にとっては同じに見える。」
だからこそ、今カイルが居ない状況が私にとってとても辛い事というのを理解しているし、カイルを元に戻す術を探している。
「フィル。キミが姉のように常に強くあれとは言わない。姉にはなかった弱さを持っているからこそのキミだ。それを忘れてはいけない。」
なにより、と。
「キミやカイル君を知る人たちは、2人の作る未来を楽しみにしているんだよ?」
『ど、どういう意味ですか?』
「さて、どうだろうね?」
結果的にルアの命を終えてしまったことに沈んでいた私の心は、叔父の言葉を変に深読みしてしまった事での恥ずかしさで和らぐ。
「ルア殿もその一人さ。キミとカイル君の未来を楽しみにしていたからこそキミの身を案じたんだよ?。その結果は…」
手を伸ばして、右腕に触れる。
袖口を捲り、手のひらに巻かれている包帯の一部を捲る。
『え?…』
エルフの集落に居た時、ルアに見せた時は黒く染まっていた私の右腕が、その姿を消している。
『元の…腕…』
「ルア殿が最期まで残念がっていたよ。「見た目しか戻せなかった」と…」
大樹を通して私の腕に宿った古い魂の解放、私の腕の治療。
ルアが私に課した大樹への接触は、自分でも気付かぬ間に私の身を癒していた。
特に右腕に関しては、自分でも目にするまで変化に気付けなかった。
少なくとも見た目だけで言えば実践の最中にルアが私に浴びせた一部の言葉を回避する事ができる。
この腕を見た人から、恐怖や不安を誘うような事にはならない。
あの時、私の力を引き出すために一芝居打ったルアの考えの全て。
聡明な人であった彼女が、この結果を予想できなかったわけがない。
端から自分の身を砕いても私の治療をすると考えていた。
叔父の言葉を借りるなら、その理由は「私とカイルの未来が見たいから」
悲しい気持ちがないわけじゃない。
でもそこで足を留めてしまえば、それこそ顔向けができなくなる。
「少なくとも私にとってのキミは、その未来を見てみたいと思える存在なのは間違いない。」
頭に置かれた手が、優しく私を撫でる。
故郷を統べる領主としてではなく、叔父という立場からの言葉。
普段はあまり気にしていない印象でも、その言動から感じる温かみ。
『いつか、お世話になってしまった人達へ、沢山、沢山お礼を言わなきゃいけませんね。』
顔は上げれなくても、せめて今の気持ちだけでも口に出して、心に留めておく。
『魂って何でしょう?』
エルフの集落を後にして数日後、オスタングへと舞い戻った私と叔父。
今は東領主館で、客人として数日の宿を借りている状態だ。
「ふむ…」
客室となっている私からすれば豪華な部屋。
向かいに座る叔父も首を傾げる。
東領に来る前、王都にて散々調べていた内容。
「石化を戻す方法ではなくて、ですか?」
調べ物についても手を貸してくれるマリーが、私の問いに質問で返す。
『確かに石化を治す方法を探しているのは間違いないんですけど…』
「マリー女史、キミは石化の治療方法として何か知っているかい?」
更に叔父からの問いかけを重ねられ、今度はマリーが首を傾げる。
「例えば、特定の魔獣の血を振りかける、などはいまいち信憑性が薄くも感じるところですが…」
事実だ、と言いきれない辺りは、とある昔話が元だからと思うが。
「他の可能性だと、これはカイルさんには当てはまらないのですが、魔力が完全に尽きた場合ですね。文献では過去にエルフ族にそういった事が起こった、と。」
あの集落に居る事を除けば、という理由もあるはずだ。
少なくとも、集落、大樹の近くであれば大樹の輪へと魂は戻され、新な命として生まれ変わる。
事実、ルアのそれを見てきた。
「今、私たちが調べている石化の原因として、魂が関わっているのではないか?と考えているんだよ。」
エルフと違って、人にとっては魔力がそれほど生に対しては必須というわけではない。
けれど石化している事実から、魔力に変わる何らかの要素が体から失われた。
私と叔父が考えたソレこそが魂なのではないか、という推測。
少なくとも、私があの洞窟で見てきた不思議な空間。
そこで私と会話をした存在は、魂についての維持を試みるような言葉を発していた。
「魂…もしくは詳しい者…」
この領館、そして東領にある文献の中でも、そういった方面を新たに探す。
恐らくは王都に於いては、叔父もその可能性について調べていたはずでもある。
『ただの石化だけじゃなくて、魂を探す…』
悩ましく、また難しい調べ物。
今までの私は、石化についてを主に調べていたので、叔父が集めた資料の全てを見たわけではない。
そう考えていたところで、マリーが凝り固まった空気を切り替えるように口を開いた。
「いずれにせよ、アイン様は王都に戻るべきかもしれませんね。」
その言葉の意味に思い当たる節があるのか、叔父が苦笑して頭を抱える。
「そろそろ時期ではあるからねぇ…」
珍しく面倒臭そうに呟いた叔父。
2人の考えに疑問を覚えた私、今度は私が首を傾げる番となる。
「グリオス様も楽しそうに準備しておられましたよ?」
「昨年はあまり領地に戻っていないからね…」
「陛下からすれば、それ以上に楽しみな報告があるのではないでしょうか?」
2人揃って私の顔に視線を向ける。
そう。
冬を越え、少し暑くなってくる季節に王都ではとある催しが行われるのだ。
『…領主会談…』
感想、要望、質問なんでも感謝します!
再び王都へと戻る事となる理由。
新たに巻き起こる事、それは少女にとっては一人の戦場となるか?
次回もお楽しみに!