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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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139話 なぞる指先

139話目投稿します。


二度目の訪れとなった集落。以前よりも温かい風が運ぶ安らぎ

訪れた事は一度だけ。

けれども何となく記憶に残る森の風景。

オスタングを出発して三日。

以前、集落からオスタングに向かった時は二日目には到着したのだが…。

それでもまぁ、叔父との2人旅はそれなりにいい話も聞けたし、楽しくもあった。

本人からすればもう足も限界に近いだろうが、もう少し頑張って貰わなければ。

『叔父様、もう少しですよ。』

この数日間で肩を上下させている様子はもはや当たり前で、今もやはり苦しそうだが、何とか手を上げて口を開く代わりの返事。

それを確認してから振り返り、再び足を進める。

『ん…』

そろそろ到着が近い。

前回と同様に、木々の間から気配を感じる。

が、前回とは違うのは、その気配、視線から殺気のような物は微塵も感じられない。

『あのー…出来れば手を貸してもらえると助かるのですがー?…』

駄目元で視線のヌシに声を掛けてみる。

視線のヌシは間違いなく、集落の住民、村の警護に当たっている者たちだ。

村から近いのであれば、いっそのこと叔父を運んでもらった方が早いのだが…。

「むわっ!?」

背後から叔父の叫び声?が聞こえ、振り向くが…

『あれ?』

姿が見えない。

「お久しぶりです。フィル様!」

「お元気でしたでしょうか、えと、フィル様!」

呼びかけられた声は、村の方向。

目の前に双子のエルフが立っている。確か以前は門番として私たちを招き入れてくれた双子だ。

『えっと…リザさんと、ロカさん…だったかな?』

名を呼ばれた二人が互いの顔を見合わせ、満面の笑みを返す。

「すっごい!覚えててくれてたんだ?」

「…嬉しい、です!」

いくつかの気配が村の方向に消えていった。

『叔父は…』

「えぇ、言われた通りお運びしておりますよ。ささ、フィル様もどうぞ!」

まさか何も言わずに引き受けてくれるとは思っていなかったが…むしろ何か一言ほしかったくらいだ。

まぁ、ひとまずの感謝と共に案内役の双子の後に続く。

『叔父が迷惑かけちゃってごめんね?』

二人の背中にお礼を述べるが、返ってきたのは笑いだ。

「先日もそうでしたよ?」

「そうそう、アイン様、ほんと体力ないよなー。」

聞いたところ、私と合流する前に叔父がここを訪れた時も、森の手前からの徒歩で今回同様に倒れかけていたらしい。

『あぁ…そりゃ笑われても仕方ないねぇ…』

これは本格的に最低限の体力をつける必要があるな…。




『お久しぶりです。ルア様。』

()()無事に到着となったエルフの集落。

前回より雰囲気というか漂う空気が軽く感じるのは二度目の訪れによる警戒心の薄さのおかげだろうか?、こちらも変に気を張る必要がないのは助かる。

「元気な顔が見れてなによりだ。話を聞いた時は村の大勢が気落ちしておったのだぞ?」

『ははは…すみません。』

自分が思っていた以上にこの村の住民に気に入られている事実に驚いたものだが、長の言葉なのだから虚言というわけでもないだろう。

「で、ヌシは相変わらず貧弱だな?」

「ははは…すみません。」

私と同じ言葉を返すのは叔父。

見た目以上に彼の体力は少なかったようで、今、その身の周りから感じられる魔力は癒しの力の残響。

恐らくは村の癒し手から治療を施されたのだろう。

現状はそれなりの体力が戻ってきているようだ。


「さて…フィル。早速だが、見せなさい。」

『…はい。』

右の袖を捲り上げ、指先まで厳重に巻いた包帯を解く。

二の腕から先、黒く染まり、更には蠢くようにも見える私の右腕。

ルアを始めとするこの場に居る他の者も息を飲み込むのが良く分かった。

人族よりも魔力、魔法に精通しているエルフ族でも恐怖を感じる程の代物が今、私の右腕に宿っているのだ。


「これは…聞くと見るとでは…印象が違うものだな…」

私の目の前まで歩み寄ったルア。

ゆっくりと右手を右手に、二の腕に左手を添え、先の方へ指先でなぞる。

「痛くはないか?」

優しい言葉だ。

『痛みはありません…見た目はまぁ…驚かれてしまうので…』

服もできるだけ袖の長い物、尚且つ包帯で人目に触れないように隠している。

「だろうな…」

大きく溜息をついて、そっと触れていた手を離し、元の場所へと戻る。

「アインよ。ヌシも一連に関わっていただろうに…」

「えぇ、流石にこれを見た時には後悔が無かったとは言いきれませんでしたね。」

殺気を感じさせる程に鋭い視線で叔父を睨むエルフの長。

だがそれも一瞬で、再びの溜息。同様に叔父も溜息を付く。

「「まぁ、フィルだしな」」

『えぇ…?…どういう事ですか。』

何も声を揃えて言う事もなかろうに…。

つまりは、それなりに私を知っている2人からすれば、事前に釘を押しても結果は変わらない事くらい解っている。

まぁ、的を得ている。間違いではない。


「ルア殿。何か治療方法など思い当たる節はあるだろうか?」

「…私が感じたところで言えば単純な魔法の類いというよりは呪詛に近い印象もある。」

亡国の数千、数万の魂が封じ込められているような物と考えれば、ルアの感じた印象は強ち間違ってもいないと思うが、解呪したところでどうなるのか?

よしんば解呪方法があったとしても、そんな膨大な量がそう簡単にいくとは思えない。

『私は…このままでも構いません。お気遣いは感謝しますが…』

自分の右手を見て、顔の前に掲げ、手の甲を唇で触れる。

『今、ここには沢山の想いがある。浮かばれなかった物、願い…色々あると思います。私が背負えたこの想い。きっと出来る事があると思うんですよ。』

決して強がりではない。この気持ちと、微笑みに嘘はない。

『まぁ…少し残念なところは、この右手を見た人たちの全てがお二人の様に触れてくれるわけではない、というところだけですかね?』

この腕で気になるところと言えばその程度だ。


「…バカ者め…」

苦虫を嚙み潰すような表情と共にルアが呟いた。



感想、要望、質問なんでも感謝します!


背負ったモノは他者には重く、どれほど魅せても強がりは消えず。


次回もお楽しみに!

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