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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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138話 貧弱者の昔語り

138話目投稿します。


ひょんな事から語られる昔ばなし。

噂でも伝説でも文献でもない、見識者の語り。

「?…どうしたんです?」

一晩明けた翌日、私の部屋に訪れたマリーは起きて早々に項垂れている私に疑問を持つ。

『いやぁ…何というか、世間知らずはともかく一般知識も割りと疎い事が判明してしまって…その、それなりに落ち込んでマス。』

「あぁ…」と呟きつつ昨日の話し合いの様子を思い出し納得した様子。

叔父の領地にあまり滞在しない仕事っぷりからすれば旅に出る以前はそれほど頻繁に交流があったわけでもなく、両親にしても一応は親族である北領主との関係性や、そういった所謂「世間一般常識」的な話をわざわざ取り上げる事もなく…。

「そもそもフィルさん、貴女は自分を平民出といいますが、厳密に言えばそうではありませんよ?」

言われずとも、母と叔父が姉弟、叔父が貴族出の叔母と結ばれた事が、叔父が領主である事の理由の一つでもある。

とはいえ、母も叔父も元は平民出で、今更ながら叔父と叔母が結ばれたという事実は、下世話な世間話では「玉の輿」と言われてた事くらいは知っている。

後付けではあるが確かにマリーの言う通り、世間的に見れば私は「平民出」と言えない部類に含まれるのかもしれないが、少なくとも両親にその意識はないし、育てられた私も同様だ。

ノザンリィで両親や私に対する住民の反応や対応はそんな面倒臭そうな出自などではなく日々の暮らしで得た信頼から来るものだ。

故郷で過ごした人生の中でもそれくらいは改めて確認しなくても解る。

『面倒事とは縁がない暮らしがいいです…』

「案外、気に留めなければ気にならないものですよ。そういうのって。」

その言葉と、朝食の準備ができている事を告げ、マリーは部屋を出ていった。


『…難しく考えるのも良くないって事、かな?…朝ごはん食べよう!』

気持ちを切り替え、私もマリーの後を追って部屋を出…。

いや、流石に寝間着のままはいかん。

『む…』

残念ながら、オスタングに到着するまで私が着用していた衣服はいつの間にか部屋から姿を消し、代わりに置かれていたのは昨日無理やり着替えさせられた装束だけが残されていた。

『お、おぉぅ…』

項垂れる理由がもう一つできてしまったわけだ。




「その装用を纏っているところを見た製作者が喜んでいたぞ。」

朝食時の話題として上がった私の見た目の話でグリオスから聞かされた言葉。

件の製作者はどこぞの物陰からか昨日の私を観察していたようで…内容から察すればさぞ満足していた事だろう。

『はぁ…いつかお会いできるとよいですね。』

一発殴ってやる、とは流石に口にはできないが、もうこうなっては開き直ってこの装用も使い古してやろうという気分にもなる。

「まぁそれはいずれ、という事だが…おぬしらは今後どうするのだ?」

食後のお茶も美味しい。

「ひとまずはフィルをルアに会わせる必要があるからね、トンボ返りにはなるがもう一度集落へ行く予定だ。」

叔父が言うには、この後の道は一先ず南方。

山沿いに行けばそれほど時間もかからないはずだ。

同行者の必要性を問われはしたが、叔父の返事は不要。

ここで首を縦に振りでもすれば、大げさに東軍兵士が同行することになるのは目に見えている。

流石にあのエルフの集落に軍隊が大量に押しかけるのも考えもの。

交易はすれども、それほど積極的に他種との交わりを持つ種でもない。エルフ族というものは昔からそういうものだ。




「あまり、歳は取りたくない、ものだね。」

息も切れ切れに、それでもまぁ必死に足を進める叔父。そろそろ休憩を取った方が良さそうだ。

『叔父様、あそこの木まで頑張ってください。休憩にしましょう。』

叔父の場合、歳というよりは日頃の運動不足の方が大きいだろう。

共に過ごした旅の中で彼が自らの足で行動しているところを見たのは…うーん…火竜討伐の時の殿部隊に同行していたところを遠目に見ただけだ。

それも山の中腹までは馬車乗りだったから、山道を歩いていたのもそれほどの距離では無かった。

「すまないな。世話をかける。」

肩の上下で応え、指で叔父の道を示し、私は少し逸れた先に見える小川へ足を進める。

恐らく短期間で終わるであろう今回の旅から戻ったら、オーレンと一緒にせいぜい日々の運動不足の解消に励んでもらいたいところだ。

こっそり彼に告げ口をしておく事にしよう。

普段叔母と共に妙な嫌がらせをされている身分としては少しくらいの抵抗も叱りを受ける事もないだろう。

『ふふ、うふふっ…』


『改めて思い出すと、叔父様が徒歩の旅してるところは初めて見ますね。』

同様に叔父も少し今までの旅を思い返し、小さく笑う。

「もう随分前から共に歩んで来ていたと思ってはいたが、意外と言えば意外かもしれないね。」

尚且つ、特に連れも護衛もいない二人旅ともなれば珍しさにも拍車がかかるというものだ。

『いっそグリオス様からのお話を受ければ良かったでしょうに。』

今度は叔父が肩を竦める。

「頼まなかった理由は解っているだろう?。けれどもせめて馬の2頭くらいは借りれば良かったかもしれないね。」

小川の水で湿らせた手巾を叔父に手渡す。

何故か叔父は、虚を衝かれたような表情。

『…どうぞ?』

「あ、あぁすまない。ありがとう。」

額の汗を拭って、手巾を見つめる叔父が少々遠い目で語る。

「一瞬、姉上…姉さんの姿が見えた気がしたよ。」

『昔、父も一緒に旅したんでしたっけ?』

「聞きたいかい?」

『休憩の御供程度に。』


「そういえば、あの集落に初めて行った時もそうだったな。」

不思議といえば不思議、叔父が語った昔々の集落への道のり。

やはり叔父はその時も歩き疲れて、休憩を余儀なくされたという。

『運動不足以前にそもそも体力が無いのでは?』

「ははは、それは間違いないね。」

元から姉、私の母に比べれば体力に自信があったわけでもない叔父。

若くして冒険者として故郷を出た姉。

旅先で出会った同世代の冒険者と共に、しばしば故郷に戻った姉が語る冒険譚は弟にとってとても眩しい物語で、その好奇心を刺激する事に遠慮もなく、いつしかその憧れは願いに代わり、姉に付き添う事になるのもそれほど時間がかかる事もなかった。

そこそこの名声を得ていた2人の冒険者とオマケの弟。

本人にとってその世間的な認識を覆すのには苦労したらしいが、自他ともにソレが大きく変動した理由がエルフの集落での出来事だった。

「ルアから昔ばなしを少し聞いただろう?」

確か、集落に蔓延していた疫病の治療。

「大した事をした覚えはないんだけれどね。何とこの話が王都まで行き渡ったのだから今となっては私もそれなりの強運だったと言えるだろうね。」

原因、方法、理由はともかくとして、世間一般の認識として3人の冒険者の名前が有名になり、王都の、しかもかなり身分が高いところへの伝手が出来たらしい。

「私は…いや私たちはそこでレオネシアと出会ったのさ。」

『私が聞いたところだと、叔母様も一緒に冒険してた、とか?』

「まぁ…それは私の口からは言わないでおくよ。」

「後が怖い」と笑う叔父の様子に、私も『確かに』と笑う。

機会があれば叔母の口からも冒険の話を聞いてみたいところだ。

「ともあれ、先ほどのキミの行動は、まさに初めて集落に訪れた時と同様だった、という事さ…懐かしすぎて少し驚いたよ。」


『へぇ…』

叔父の姉…つまり母。

姿が重なる程に似ている…似てきたのだろうか?


「前から思っていたんだ。キミとカイル君はまるで…」


感想、要望、質問なんでも感謝します!


聞かれる事がなかったから言わなかった。

なんて事はよくある話で、両親も叔父も叔母も、掛け替えのない時代を生きてきたのだ。


次回もお楽しみに!

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