136話 祝勝会
136話目投稿します。
久しぶりの再会から、従者の案内で辿り着いた領館。
麗しい女参謀に案内され訪れた部屋にて…
関所と同様の手続きを行った町の入口。
先の衛兵とほぼ同様の反応に少し笑い。少しだけ顔が引きつる。
ここまでの道を共にした行商のおじさんは別れの挨拶もそこそこにさっそくこの町での行商仕事に向かってしまった。
衛兵からの言伝で、ひとまずは領主の館に呼ばれている。
鉱山都市オスタングは、王都の町並みに比べれば行き交う人の数はそれほどの違いはないものの、生活の人波というよりは仕事の人波とでも言えばいいのか?
作業員染みた姿が多く走り回っている印象だ。
ノームを連れて歩いているせいか、少し…目を引いている気がする。
「ふぃる ドウシタ?」
クイクイと袖を引っ張るノーム。不思議そうな顔でこちらを伺っている。
『んー。何でもないよ。』
笑って返し、大通りを並んで歩く。
道行く作業員が声を掛けてくる。
最初は私の名を知っている人たちの妙な歓迎かと、自意識過剰に思っていたのだが…。
「よぅ、ノーム。今日の仕事は終わったんかい?」
「イマ イソガシイ アトカラ!」
「お、モフモフじゃねぇか。またウチのとこも手伝ってくれよ?」
「マカセトケ オレ チカラモチ!」
「あら、ノームちゃん、今日はお友達と一緒なのね?」
「ふぃる オレ ナカマ!」
予想は良い方向に裏切られ、私と別れてからのノームの暮らしが垣間見えてくる住民とのやり取り。
あぁ…こういうのって親の気持ちってモノに近いのかな?
と胸に温かい何かが宿っている事に気付いた。
『ノーム。案内ありがとうね?』
領館の門の前、短い間のエスコートを終えたノームは、全身で喜びを表しつつも町に戻っていった。
思った以上に町に馴染んでいて安心する。
歩きながら聞いていた話では、片言ながらも物怖じしない性格、私との会話同様に色んな事に興味を示し、嬉しそうに目を輝かせる様子はそのままに、住民たちの人気者として色んな仕事のお手伝いをしているようだ。
また機会でもあれば、ここと別の場所、町、風景、色々と見せてあげたい気もするが、本人が楽しんで生活しているのであれば、無理に誘う必要もあるまい。
大通りを駆けていく人より少し小さな毛むくじゃらな背中を見送って、領館の門を開ける。
残念な事に、ここより先は私の自意識過剰もあながち間違っていない光景となったのだが、館内の案内途中に馴染みの顔が見えた事で落ち着きを取り戻す。
「フィルさん!、お元気でしたか?」
私の姿を見つけた途端、手に持っていた書類を投げ捨て、私に駆け寄ってきた女性。
東領執政官、東軍副指令兼参謀、マリアン=オストル。
まぁ馴染みの呼び方としてはマリーさんであるその人だ。
『マリーさん!、えっと…元気です!マリーさんもお元気そうで何よりです!』
年上でありながら気さくで、仕事としては領主であるグリオスにも物怖じせず、むしろ叱りつけるまで日常的。
軍隊に女性が居ないというわけではないが、その頂上に立つ姿は麗しくも美しい。
尊敬、憧れの気持ちを持たない人の方が珍しい。
『そんな人だ。』
「え?…」
口に出ていた。
『何でもない。』
「そう。じゃあ行きましょうか。」
一先ずは到着の挨拶を領主に、という事だろう。
マリーと共に歩いているためか、先ほどまでの衛兵の反応と違って、廊下を譲るように身を引いて敬礼する姿が並ぶ。
とはいえ、敬礼後にチラチラとこちらの様子を伺うところはまぁ…少し視線が痛い気がしなくもない。
「フィルさん、こっちよ。」
辿り着いた扉の前、開かれた扉の先、マリーの後に続く。
『ふぅ…』
促された椅子に腰かける。
流石に好奇の視線、しかも大量に晒されるのは中々にして疲れる。
にしても、緊張を緩めて吐いた息と共に戻した視線。案内された部屋を見回す、が…。
『ん??』
どう見てもマリーと共に入った部屋は、応接室といった装用には見えない。
むしろこれは…。
『あのぅ…マリー…さん?』
「さぁ、着替えましょうか!」
指をパチんと鳴らし、どこから現れたのか、領館に勤めるメイド衆に肩を掴まれる。
『えっ??、ちょ…』
この流れ…何度か経験がある。
マリーと、現れたメイド衆の目には見覚えがある。
王都でさんざんお世話になっているお宅の、御夫人とメイド衆と同じ目だ。
『あ、あ、あ…』
画して、案内された部屋に絶叫が木霊する。
『そういえば…火竜討伐の前もこんなでしたっけ…』
すっかり小綺麗で匠の技が光る装備品。
尚且つ、恐らくは異性が盛り上がりそうな装束に包まれた私は、改めてマリーの案内で連れてこられた領館敷地からほど近い軍施設、その中の集会場のような場所、更にはマリーやグリオスなどが立つであろう高台の上に立たされているわけだが…。
『絶対喋らないからね!』
横に立つマリーに小声で強め言う。
何事かと言われるとまぁ驚きはしたのだが、結局のところ祝勝会のような話。
オスト山脈に於ける火竜討伐。
無事に成功したものの、東軍からすれば火竜を鎮めた功労者はカイルであったものの、一番の功労者と称されたのが私だったそうだ。
まぁ…討伐に出る前の決起集会でもこんな感じだったので、そこはまぁ政治的?にも解らなくはないが、結局火竜討伐後、火山を沈静化させた功績も含め、私は祝勝の場に居られなかった。
故に、私が再びこの地を訪れた際には、改めて祝う予定がひしひしと立てられていたらしい。
「手を振ってくれればいい」とだけ言われ、お召替えも成すがまま、この場に立たされている、というわけだ。
「諸君!、急遽集まってもらったのは他でもない!。火竜討伐の一番の功労者、我らにとって女神とも言えるフィル=スタット嬢が再びこの地に訪れた!」
音頭を取るのはもちろん、東領主グリオス=オストロード様だが…何というか凄い楽しそうな顔をしている。
いや、これは嬉しそうな顔と言った方がいいのか。
高台から見下ろす兵士の顔もまた…嬉しそうだ。
こんな顔されて、歓迎されて、感謝されて…だったら、無碍に断れないし、不機嫌そうな顔もできないじゃないか…。
『むぅ…』
「おや、お嬢さん。元気そうで何よりですね?」
言われたまま、眼下に向けて手を振る私の背後から突如として掛けられた声。
『ひっ?!』
ビクッと跳ねるように驚いた私の背後に立っていたのは…。
「いやぁ、遅れてすまない。グリオス殿、マリー女史。」
「おう、やっと戻られたか、アイン殿。」
「間に合われましたか。良かったですね。」
『…む、むぅ…』
この叔父は、いつの間に気配を消す訓練をしたのか…。
「無事に到着できたようで良かったよ。フィル。」
悪気なさそうに笑う叔父の笑顔は、グリオスや兵士たちの笑顔とはまた違う印象だが、確かにお互い無事に合流できたことに安堵しておく。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
無事に合流した叔父と共に、この先の道を見る。
次回もお楽しみに!