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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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135話 偉い従者

135話目投稿します。


予想外に有名人。名声も噂も気にしない本人からすればそうそう耳に入るものではないのか?

キュリオシティを出発して馬車に揺られて数日。

流石にタダで相乗りさせてくれているのに何もしないなんて事は自分としては心苦しく、とは言っても出来る事は野営の手伝い、食事の準備、馬の世話…あれ?あと何があるんだ?

普通に手伝っている事が馬車で行く旅のほぼ全てと気付いて笑う。

馬車の主である行商のおじさんは事ある毎に「すまないねぇ」と少々年寄りめいた礼を言う。

こういった旅もまた楽しい、楽しいのだが…乗合の同行と、旅の仲間というのはまた違った感覚で、何というか…。

『静か、だけど…寂しい?』

そんな感じ。

今回は一人旅というわけでもなし、そうであったとしても初めてというわけでもなし、何というか、結局のところ手を焼かされたとしても私は賑やかな旅の方が好きみたいだ。




王都から真東に設けられた関所。

本来は行き交う人を管理するためであるはずの施設ははっきり言って現状でこの国に必要かどうかさえ怪しい。

『そもそもここ以外が遮られているわけでもないしなぁ…』

確かに、そこそこ幅のある河と、そこに掛けられた橋。

むしろこの橋を監視、管理していると言われた方がまだしっくり来るわけだが、まぁ…。

『平和な証ってところかな。』

形式上の通行手続きを取っている行商のおじさんを眺めながらのんきに考えを巡らせる。

あまりに長閑過ぎる風景と温かい風は眠気を誘う。

貴族社会としては「はしたない」などと言われてしまう大欠伸も人目憚られる事もなし。

同時に大きく伸びをして戻した視線の先、衛兵と行商がこちらを見て、その一方が手招きをしている。

『あ、そうか。』

形式上とはいえ、一応は私も関を通過する上での手続きが必要という事だろう。

馬車から降り、小走りに駆ける。


『えっと、フィル=スタット。王都でスタットロード家のお世話になっています。こちらの領に党首が出向いているはずなので、そこに合流する予定ですね。』

名を聞いた衛兵が改めて私の顔をじっくりと観察してくる。

「貴女様が…成程…」

様?…とは?

と疑問を浮かべる私に対して、書類の記述を終えた衛兵が畏まって敬礼。

『えっ?』

何事か、と仰け反る。

「先だって、東領の厄災に御助力頂いた…貴女様は我ら東の民にとってはまさに聖女様とまで言われております故、まさかここでお会いできるとは…何という幸運か…」

何故か拳をぐっと握っている。

『えー…っと…そんなに大したものでは…』

「こりゃ驚いた。嬢ちゃん、そんな有名人だったのかい?」

『いやいやいや、私はそんな大層なものじゃないよぉ…』

困った。

ただの通りすがりでこんな扱いともなると、オスタングに入るのも少々悩ましい。




「わしはこのままオスタングに向かうが、嬢ちゃんはどうするね?」

関の衛兵の振る舞いに困惑していた私を慮ってのおじさんの言葉。

ありがたくはある。確かにあの扱いでオスタングに入ってしまえば間違いなくあれ以上の手厚い歓迎があるのは目に見えている。

尚且つ今あの町にはそういった事に目がない叔父がいるのだ。

この馬車が町に入った途端に凱旋の宴が始まっても可笑しくない。

『いえ…このまま一緒に行きます…』

いずれにせよ目的地はオスタング。

強いてあげればエルフの集落に向かう事も頭を過るが、叔父と入れ違いになるわけにもいかない。

妙な歓迎に困り項垂れる私の肩をポンポンと叩く慰めと共に「ま、まぁ無理しなさんな」と声をかけてくれるおじさん。




『ん?…』

オスタングに向けて問題なく馬車は進み、もうそろそろ見え始めてくる頃、地を這うような感覚を捉える。

手綱を引き、馬車を停める。

「んー?嬢ちゃん、どうしたね?」

後ろの荷台で荷物整理をしていたおじさんが顔を覗かせる。

『ちょっと何か…』

馬車から降り、馬を撫でる。ついでに水と食事もつけておく。

『さて…』

改めて、地にしゃがみ手を当てる。

奥の方で揺れる…転がるような。

少しの間をあけ、決して大きくはないが、確かに地面が揺れ始め、耳にも聞こえてくる音。


「ぃぃぃぃるぅうううう!!」

と近付く音の正体は。

馬車の少し前方、地にボコっと穴が開いた直後、ボンッ!と飛び出す球体。

球は地に落ち、しゅっ!とその体を起こし、こちらに駆け寄ってくる。

「ふぃる!!」

抱きついてくる亜人は、私の名を呼び、無遠慮に頬を摺り寄せてくる。

『ノーム!』

「ふぃる! ゲンキカ? オレ ゲンキダ! シンパイ タクサン!」

突如として賑やかになった空気、彼の片言会話も久しぶりすぎて笑う。

『ごめんね、心配かけて。元気そうで良かった。』


ノームの大きな声に釣られるように顔を出したおじさん。

「おや、コボルトかい。こりゃまた珍しいモンみたなぁ…」

こちらの様子を見て驚きの声はあげるものの、混乱を招くほどでもなく。

「同行者が増えたみたいだな。嬢ちゃん、そろそろ出発しておくれ。」

『あ、はい。ほら、ノームも一緒に行こう?』

「バシャ! ノル! タノシイ!」

興奮を落ち着かせ、一緒に乗り込み手綱を手に取る。

火竜討伐後、オスタングで暮らしていたはずのノームが現れたという事は、町はそう遠くない証拠だ。

あれから別れたままとなっていたノーム。

色んな出来事にいっぱいで気にかける余裕もなかったが、こうしてその姿を見ると安心する。

つもる話もほどほどに、馬車は進む。

少し背の高い丘を越え、一面に広がる岩肌の先、いよいよ見えてくる山。

刳り貫かれた岩肌の下、その町の入口が視界に入る。


初めて訪れた時は、エルフの集落から交易役のロディルと共に南側から辿り着いた。

こうして正面から見ると、改めてこの東の町が造られた歴史を感じる。

以前、町の手前に作られていた避難民キャンプは姿を無くし、引き換えに入口にほど近い場所にいくつかの建物が新造されている。

恐らくは戻る場所を無くした避難民がそのまま拡張された町として居住しているのではないだろうか?

その辺りの復興についても話を聞けると良いのだけれど。

「オレ イッパイ テツダッタ! ホメロ!」

横に座るノームがその居住区を指さして急かす。

『そっか。ありがとうね。ノーム。』

図らずも復興に助力してくれていたノーム。

一応は主従関係でもある彼が、携わってくれていたのなら、少し嬉しい。

手を伸ばし、撫でる毛並みはふかふかして気持ちいい。

彼もまた、気持ちよさそうに私の手に身を任せる。

少し誇らしげにも見えるその頭を撫でながらもう一度呟く。


『ありがと、ね。』

感想、要望、質問なんでも感謝します!


不安は的中せず。しかし有名である事は事実。


次回もお楽しみに!

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