13話 其々の理由
13話目 ある意味心機一転な展開なので少し時間が掛かってしまいました。
日記書くような感覚でのんびり執筆してるといつの間にか時間が無くなっていくんですよね…うーむ(汗
ノザンリィから中央都市に向かう街道はノーザン山脈を経由する形で造られており、整備されていても冬季の行軍はあまり推奨されない。
勿論この時季もその期間に当たる意味合いではまだ早いタイミングと言える。
数台に及ぶ馬車の一つに揺られる私は何度目かの溜息をついた。
『なんでアンタたちが居るの…』
一人はほぼ毎日のように目に入る顔、もう一人は似合わない修道服を纏い、退屈そうに欠伸をしている。
「あたしゃ領主サマに頼まれたのと、里帰りとついでに仕事。」
とエル姉。改めて思い出したのだがエル姉は王都の平民街の出身で数年前に男勝りなところを親に窘められ半ば強引に教会に放り込まれたらしい。
軍部でいうところの初期訓練同様に教会にも似た慣習があるようで北方領に巡礼していたという事だ。
北での巡礼の期間も終わるという事で領主夫人に付き添うという形で同行したらしい。
『んで、アンタは?』
「そりゃーフィルよ、今更言うなよ。俺の夢くらい言わなくても知ってるだろ。」
とやれやれと肩を窄めてカイルは返事する。やれやれというのはこっちの台詞なのだが…
小さい頃から私の父と母に憧れてたカイルの「オレの夢は冒険者なんだ!!」という口癖、最近はあまり聞かなくなってた気もするが「ちょうどいいから」と曖昧な理由をつけて領主であるアインに頼み込んだという事だ。
領主や夫人からすれば息子の命の恩人の些細なお願いを断れるでもなく、まぁそもそも断る理由などないという事で許可したらしい。
『でも、おじさんは大丈夫だったの?』
カイルの父は、私の父に負けず劣らずの豪傑漢で事あるごとに親子喧嘩をしていて近所からはいつもの事と日常風景に扱われていたほどだ。
「勿論ぶん殴られた。」
と、左頬に指を当てる。
「まぁ、殴り返したけどな!」
と、右拳を突き出す。
(…あの風景を見れなくなるのも町の人からすれば寂しくなるのかな?)
「あと、まぁ…頼まれ事もあるしな。」
「んでフィル、お前は何で家を出る事にしたんだ?」
カイルとのやり取りを楽しそうに眺めていたエル姉が今度は私に聞き返す。
『あー…うん、そう、だねぇ…何て言えばいいんだろ?』
改めて理由をつけるとすると、確かに説明が難しい…
私は少し考えてから馬車の外を伺う。
荷台から落ちないように、手を伸ばして道すがらの木の枝を千切り、幌の中に戻る。
『まぁ、今更隠すような事でもないんだけど、エル姉にはちゃんと話した事もなかったっけ?』
取ってきた木の枝を確かめるように軽く「しなり」を確認してエル姉に手渡す。
『エル姉、これゆっくり曲げてみて?』
疑問顔のまま、エル姉は受け取った木の枝を言われた通りにゆっくりと曲げていく。
『ストップ。』
枝を指さして付け足す。
『それ以上曲げたら折れる。』
それを聞いたエル姉は怪訝そうな顔をして枝を見る。
次は…
『3秒後に馬車が少し跳ねる。』
・ ・ ガタッ
「え?!」
手の平を上に向けて、エル姉の1歩右に構える。
少しの驚きで体制を少し崩したエル姉が積まれている荷物に少し当たり…
籠から落ちたリンゴが構えていた私の手に収まった。
「オレは昔から知ってるけど、確かにフィルのそれって説明しにくいよな。」
エル姉は、手に持った枝と、私の手に収まったリンゴを交互に見ながら、驚いたような感心したような表情をしている。
「…予知ってわけでもないんだよな?」
『そんなのあったら教会とかが放っておかないんじゃない?』
私が出来る事は確かに見る人に依れば予知に見えるかも知れないし、事実幼い頃にそれを両親も気にして方方を調べたり聞いたりという事もあった。
実際には手にしたモノ、今みたいに木の枝だったり、武器や農工具などの強度が分かる。
足から感じる感覚で周囲の環境や状態が分かる。
肌に感じる空気、湿気から明日の天気や落雷などが分かる。
「ほぇ~」と感心の声を上げるエル姉の後目に、
『というわけ、で。』
馬車を操る御者に声をかける。
『御者さん、天気が変わります。備えたほうがいい。』
私たちの会話が聞こえていたのか、御者さんはすんなりと聞き入れてくれ、前の馬車に合図を送った。
「フィル。どうかしたかい?」
後ろの馬車(私たちが乗る荷馬車より豪華な)から叔父が顔を出した。
『少し雲行きが悪くなります。もう少し進んだら少し開けたところに出ると思うので、そこで備えましょう。よろしいですか?』
「キミを誘った甲斐があった。」と叔父は笑顔で「任せるよ」と了承してくれた。
急ぎ御者の横に座り、領主の言葉と、行先の指示を出して休息地へと誘導する。
(思ったより崩れるかも。)
『エル姉、カイル。もうすぐ休めるところに着くから今のうち野営の準備しておいて!』
二人とも親指で返えし、荷馬車の中の荷物から野営の準備を進めてくれる。
「案外、こういうのも悪くないかもな。」
必要なものを確認しながらエル姉が口を開いた。
「ま、こういうのが冒険ってぇもんでしょ!」
とカイルが続ける。
『あんまり時間ないんだから無駄口叩かない!』
「へーい」と二人は同じ返事をした。
やれやれ、と意識を雲間に向ける。
肌に感じる空気は少しの寒気を含み、けれど…
(山の天気は変わりやすいっていうけど、何だろう…変な感じがする。)
分厚い雲の向こうが光ったような気がした。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
さて、次回はどんな話になりますか、お楽しみに!