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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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132話 投刃鍛錬

132話目投稿します。


商品として扱えないと投げだされた三振りの短刀。扱いに困ると思ってはいたが…?

「フィル。いつまでここに居られるの?」

鍛冶屋ガルドでの出来事から翌日、食事の片付けの合間で何気なく呟いた母の言葉。

『んー…ガルドおじさんの作業次第かなぁ…』

メアリからの強烈な猛攻を受けながら、何とか手にしたいくつかの石片。

まずはそれらを砥石として使うための細工。

更にそれを使っての研ぎ作業。

その結果。

軽く見積もっても、3日程はかかるだろうか?

いやでも、うーん…あの手の周りが見えなくなるような専門家っていうものは下手すると…いや、下手しなくても寝る間を惜し…いや、忘れて没頭してしまうものだ。

予想したところで予想できない結果になるのはまぁ…予想できる。

「あいつぁフィルの石剣、文句言いながらも2日で仕上げたぞ。」

食事後にも関わらず、干し肉を咥えながらの父のオマケ話。

2日…この3本のナイフを仕上げるには相当な時間がかかったという話だったと思うが、あの石剣にどれほどの興奮を帯びた熱が込められていたのだろうか?

父から贈られた、だけではない。あの石剣に込められた想いがある。

カイルと一緒に薄暗い洞窟に置いておくわけにもいかないな。

『ふふ…理由が一つ増えちゃったよ。』

「んー?どした?」

『んーん。何でもなーい。』




自宅裏手の丘。

前にカイルと共に見た時より空が低い。

『やっぱりここの景色は冬がいいな。またしばらくは見れないか…』

何はなくとも、暇があれば通って眺める暇つぶしの場所。

薪の補充という事で、父に付き添ったものの、手伝えることなど特にもなく。

まぁこの場所に来るための不必要な理由だ。


考える事は沢山あるのだけど、この場所に来ると、何故か思考が止まる。

風景を眺めて、ただぼんやりと過ごす。

王都の生活に於いても眺めのいい場所というのはいくつか見つけてはいるものの、この場所同様の空気を感じられるようなところはただの一つもない。

それが所謂「故郷」という所以だろうか?


あの時、私を抱きかかえてくれた姿は今は無い。

思えば何故私はこの場所へと戻ったのか?

それは多分、お気に入りの場所以上に、私が帰りたい場所として強く心に刻まれていたからだ。

そしてカイルもそれが解っていたから、ここで待っていた。

『人の…私の事ばっかだな。』

カイルは自分の事以上に私の事で頭がいっぱいだ。

でも、人の事は言えないかもしれない。

彼が傍に居なくなってから、私の行動の根幹は彼の事しか考えていない。自分以上に。


黒く染まった右腕を撫でて少し笑う。

とは言え、この町での目的が終われば、次の目的地ではオマケ程度にこの腕について調べる事もできるだろう。

『さて…少しはお手伝い、しますか。』

父が発していたであろう木を打つ音も止んでいる。

今頃は手頃な大きさの薪になってるはずだ。

お気に入りの場所を動くにはどうにも重くなる腰を何とか持ち上げ、パンパンと僅かに服についた砂を払う。

『次は2人でのんびりできると…いいな。』




成り行きで渡された3本の小さなナイフ。

普段使いとしては小ぶりすぎるし「ナイフ」というより釘や楔に近いソレをテーブルの上に転がしてつつく。

『こんなのに随分時間取られるんだなぁ?』

「あら、いいナイフね。ガルドさん?」

『うん。欲しい?』

「普段使いとしては、ねぇ?リンゴでも剥く?」

『だよねぇ。』

普段包丁を手に取る事が多い母ですら、このナイフの扱いには困る様子。

「あー…それな。」

斧の手入れを終えた父が脇から口を挟む。

曰く、このナイフ作成に於いて、ガルドからの相談を受けたらしい。

以前、私に手渡した石剣の作成を依頼したのは父で、今のところあの石材を使う品についての少しばかりの知識があったためだ。

「このままだと確かに使いづらいナイフだな。小さいし。重さもない。」

一つとって、母に投げて寄越す。

「アイナ、ちょっと魔力使ってみてくれ。」

受け取った母は「コレに?」とナイフを指さし、父は肯定の頷きで返す。

「あら?…あぁ、成程。」

今まで詳しくは聞いた事はなかったが、冒険者だった父同様に母もまた共に過ごし、魔力の素養が低い父を心身共に助けていたのが魔導師としての母だった。

「思ったより軽いわね。」

言いながら人差し指を振ると、ナイフがその動きに共鳴するように宙に浮いている。

『わわ…母さん、すごいね…』

「あら。多分貴女でもできるわよ、これ。」

言われて目の前のナイフに視線を落とす。

『んー…』

母と同じように指先からナイフに向かって魔力を込める。

ヒュン!

『あれ?』

テーブルからナイフが一本消えた。

「…お、おぉぅ…」

向かいに座っていた父が冷や汗を掻いている。

その背後、壁には根本まで突き刺さったナイフが見える。

「…これは、危ないわねぇ?。フィルにとっては…」

『えっ?』

私の魔力に反応したナイフは、父の頬を掠め、目にも止まらぬ速さで壁に刺さったのだった。




その後、少しばかり母と一緒に件の石ナイフについて試行錯誤が繰り返される。

「思ってた以上に凄いわね、これ。」

普段使いとしてのナイフの評価から一転して、とんでもない武器として私と母の印象は覆された。

特性として、至極軽度な魔力によって操作可能となる投擲武器である事。

ランプなどの日用品に組み込まれている魔石のように、その物体そのものに魔力が保有されているわけではなく、単純に使い手の魔力に反応するという事。

更には母の推測ではあるが、使い手によって効果の差が出るという事。

最初に母が操作した少ない魔力量。

そして同様に私が操作したところで目にした違い。

その後の実験でも、私と母の使用感で明確な違いが見て取れた事から母の推測も間違ってはいないだろう。

『確かに凄いね…これがあれば、私だって…』

戦える。と言いかけて、止めた。

一瞬だが、カイルの顔が脳裏を過った。

確かに、シロとの修行、ガラティアとの組手、楽しそうな表情をしていたが、カイルは決して「戦い」を求めていたわけではない。

『私だって、きっと誰かを護れる…』

少し間を置いて私の口から出た言葉、口にして顧みる両親の顔は、穏やかに笑っていた。


「出発するまでの間、しっかり練習しないとね?」

背後から母の抱擁。

『わわっ…ちょっ、母さん危ないって!』

「ジョン、早速明日、投擲用の的でも造ってね~?」

「よし来た!、任せとけ!」

何食わぬ父の言葉。

あぁ、流石は彼の師だな。

『あははっ、ありがと、父さん!、母さん!』


こうして短い時間ではあるが、私の鍛錬の時間が始まるのだった。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


護られるだけではない。護るための力を求める。


次回もお楽しみに!

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