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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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130話 楽観的

130話目投稿します。


深刻な話というものは、受け取る側もそうではない。

久しぶりの母の手料理はとても温かく、頬っぺたが落ちるほどに美味しい。

ラルゴが持参したその日の収穫物、狩量の少ない真冬と違い、幾分温かくなったこの季節はそれほど困らないらしいが、かといって大量に狩ってしまうのも良くない、と猟師ならではの蘊蓄を楽しそうに語る。

そういえば、この話はまだ私やカイルが小さい頃、何度も聞いた事がある。

今と同じように…いや、同じじゃないな。

カイルが居ない。

『おいし。おじさんも中々やるねぇ?、母さんの料理も相変わらず、だね。』

おじさんの言うところの「貴重な恵み」に感謝しつつ、母の手によって極上に仕上げられた料理に舌鼓。


楽しく、豪華な夕食も終わり、一通りの片付けを母と一緒に終わらせる。

合間、食卓で酒を酌み交わす父とラルゴおじさん。

やっぱりこの光景は幼い頃からよく見ていた。

そうして呑みつぶれたラルゴおじさんと父を食卓に放置して、私とカイルは同じベッドで仲良く眠りについた。

その翌日は母に叩き起こされる二人の父親の様子を見て笑っていたのも思い出す。


食後のお茶の準備が終わり、夕食の時同様に、一同が食卓に腰を下す。

ふとテーブルに置かれた父とおじさんのカップ。

お酒が注がれているのは解るが、全然減っていない。

私の視線に気付いたのか、ラルゴおじさんが照れくさそうに言う。

「いやぁそのなんだ。昼間、神妙な顔だったんでな…」

私の口が重いのと同様に、目の前の大人たちも私の話に緊張しているのだ。

『ごめん。おじさん。気を遣わせちゃった…』


『じゃぁ…話すね。』

3人それぞれと視線を交わし、小さく頷き私は重たい口を開く。

旅の始まり、ほんの些細な探求心と冒険心を持った2人の子供の話。


故郷を旅だった少年と少女。

思いもよらぬ様々な出会い。

物語の中にしかないと思っていたような事も沢山あった。

共に歩いて、時に離れて、互いを求めて、そして…


『カイルは…今、石化状態にあります…』


一瞬、場の空気が止まる。

「石化?」

「石になってるって事かしら?」

「なんでまたそんな事に?」

三者三様の返事が返ってくるが…おや?

「なーんだ、てっきり真面目な顔してるから死んじまったのかと思っちまったぜ。」

「あの子なら石でも動き回りそうなものだけどねぇ?」

「まぁ石化なんぞ大したもんでもなかろう。」

3人の大人は、妙に楽観的で笑いすら上がる始末。


『えっ?』

私が考えていた反応と、あまりにも違い過ぎる。

『えっ?えっと、今、カイルは動けずにいるどころか、生きてるかどうかも曖昧なんだよ?』

もう一度、繰り返す。

「なぁジョン。アレがちっさいとき、山奥に叩き込んだ時どうだったっけか?」

「あー、あったなぁソレ。どうだっけ?」

「三日後に泣きながら帰ってきたわね。確か。」

そして今一度湧き上がる笑い。

この親たちは…何だろう、何故笑っていられるのか…良く分からない。


言葉が出なくなってしまった私。

騒ぎ立てた親たちも、こちらの様子を心配したようで、母が空気を切り替えるように手の平をパンっと合わせた。

「いい、フィル。貴女の心配は解らないでもない。」

けれど、と付け加えられた母の言葉。

大事なのはこの後。私が取るべき行動。

「石化ってぇのはいくつかの種類があるんだ。」

母から話の番を渡された父が語るのは、己の経験、若かりし頃の冒険者の経験。

一つ目は、そういった魔獣がまき散らす吐息。これもまた伝説級の話ではあるものの、父と母が体験した事がある中で言えば、コカトリスと言われる魔獣。

父が付け加えた見た目としては、大きな鶏。

それを聞いた途端に信憑性を疑いたくもなるが、母も頷いている辺り嘘でもないのだろう。

二つ目は、体内の魔力が完全に消失してしまった場合。

治す方法としては単純ではあるものの、そもそもそんな状況に陥る可能性があるのは、特定の種族だけの話らしい。

つまりこの二つ目はカイルには当てはまらない。

逆にその「単純な治療法」でカイルの石化は回復しないという事でもある。

三つ目、聞き終わった後で、一番カイルの状況に近いと感じた理由。

魂そのものが何らかの理由で体から分離されてしまった場合がソレに当たる。


あの意識の空間で、謎の少女は私に「私が留めておく」と言った。

あの場所で見たカイルの姿が「魂」と呼べるものかははっきりとしないが、それに近い事に間違いはないと思う。


「残念ながら、三つ目に関しては、まぁ…いわゆる「他」みたいな扱いになっちまうが…」

逆に理由が多岐に渡るという意味で、治療の方法も明確な手段が選べない。


とはいえ、親たちの口ぶりからすると、石化そのものはそれほど深刻なものではない雰囲気すら感じる。


「いま、アレの体はしっかりと保護されてるんだろう?」

『え、えぇ。それはかなり厳重に。』

とある女傑の拳が向かない事を祈る必要はあるかもしれないが。

「ならフィル嬢ちゃんは、アレを治すって報告しにわざわざ帰郷したんだろう?」

頷く。

「じゃぁワシは何も心配せんさ。いやまぁ…そうだな。アレが嬢ちゃんと一緒に帰ってきた時は、しっかりとぶん殴ってやらんとな。」

グッと親指を立てるラルゴおじさん。

『ぷっ…あはは、何それ。』

ついつい私も笑ってしまった。

親たちが言うように、深刻でないのなら、少しは気が楽にもなりそうなものだが…。


しかし、そうなると叔父が必死にその情報を集めていたのか…。

少なくとも、叔父は私の両親と共に冒険者として旅をしたことがあったはずだが。

「あぁ、それは多分、さっきの話の三つ目に当たると考えたからじゃないかしら?」

と悩み顔で漏らした私の言葉に返したのは母だ。


少なくとも叔父は、魔獣によるものでもなく、魔力の枯渇によるものでもない、と早い段階で予想していた。

『む…どうせなら教えてほしかったんだけど…』

「あらあら?、あの子は相変わらず言葉足らずねぇ?」

おほほ、と普段の様子とは違う顔色の母。怖い。




ともあれ、私の報告が終わった食卓は、引き続き父とラルゴおじさんの酒宴の場に代わり、私はそうそうに母と共に寝室へと向かう流れとなる。

『で、母さん。何で私のベッドに潜っているのか?』

「いいじゃない、たまには一緒に、ね?」

『まぁいいけど…』


といいつつ、ベッドの中で母に包まれる温もりは懐かしく、また親たちのお陰で軽くなった心は、睡魔を誘うには申し分ない。


「頑張りなさい。大切な人を護るのなら…」


『うん、頑、張る、ね…』

意識が途切れる間際聞こえた母の言葉に、頷き、私は眠りについた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


あまりに楽観的な親たちは少女の心に根付いた錘を退ける事となる。

だが依然として向かうべき、新たな目標は見えず。


次回もお楽しみに!

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