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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第六章 虚空に佇む
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127話 それぞれの行く末

127話目投稿します。


共に歩んだ仲間が、今それぞれに感じ、考えて進む道の先。

近い未来に再び交わる事を願って…

叔父の執務室で泣き崩れ、糸が切れたように眠りに落ちたあの日からまた数日の時が経った。

体力の回復、身体の衰えを以前同様に戻すにはまだ時間が足りない。

「護ってやる」といつも私の傍にいてくれたカイルは居ない。

彼を再び私の横へと取り戻すために、焦る心はあれども急いてはいけない。

しっかりと準備をして、足を踏み出すんだ。


無理のない程度で日々を過ごす間、他の仲間たちの近況も耳に入ってくる。


船の操舵、最終的には船の操作の全てを一人で担っていたパーシィ。

彼女も私と共に王都へ帰還していたようで、船旅を始める前の借宿を拠として技術院へ通っているそうだ。

人伝に教えてもらった彼女の言葉。

「2人が戻ってきた時、新しい旅の役に立てるように。」

カイルと共に居ない私もまた、彼女の中ではあの旅から帰還していないのだ。

ならば、カイルが無事に戻ってこれるよう、私も頑張らなければ。


パーシィ以上に忙しく駆け回っているのがロニーだった。

ここしばらくは西方の元アヴェストの渦。今はカイルの体が保護されている海底洞窟。

そして王都の研究所を頻繁に往復し、彼を元に戻すべく東奔西走しているらしい。

近しい者がいうには、少々気負い過ぎの感もあるという。

直接の上司である叔父から聞いた話では、自分の些細な行動が招いた結果だ、と。

幸い、持ち前の楽観的な性格も相まって、数日走り回った後は泥のように眠っているらしく、ある程度は好きにさせるべき、と叔父も判断したようだ。

「彼女には私もそれなりに目をかけているつもりだ。安心してほしい。」

そう言われてしまっては、私が口を挟むべきではない。

少なくとも今は。


船上では、船の主だった操作はパーシィが全て担っていたが、船に乗っている人の世話を行っていたのはリアンだ。

彼はスタットロード家からの命を受けての乗組員ではあったが、少なくとも無事に帰還させる事が出来なかったのは彼にとって何か思うところがあったようだ。

重要な任を終えたというのに、未だ本宅に戻る事はなく、やはりパーシィ同様に彼の中でもあの旅はまだ終わってはいないらしい。

以前と同様に、借宿でパーシィの世話役、そして今では王都に戻った際のロニーの世話にもその手腕を振るっているようだ。


西方からの協力者として乗船したガラティア。

船が不要となった元海底洞窟。

土木作業員に紛れ、ロニーも参加している調査団の拠点建造に全力を以て当たり、建造後には調査団の警護、遺跡の保護、なによりカイルの体にほぼ付きっ切りだという事だ。

曰く「こいつが戻ってこなきゃ拳の疼きが止まらねぇ。」だそうだ。

彼女らしいといえば彼女らしいが、その気持ちはありがたいし、彼女が見守ってくれる以上に安全な物もない気がする。

強いて言えば、その剛腕がカイルの石像に向かない事を祈る限りではあるが…。


今の状況で私以上にカイルに近い存在であるシロ。

私たち同様に今回カイルの身に起きた事について、永きを生きてきたその身でも始めてみる事だという。

しかし、カイルはまだ存命だ、という事はシロの言葉が唯一の答えというのもまた事実。

だが本人は叔父を通して私に言葉を伝えて以降、その姿を見せていない。

人の身とは異なる彼は、私たちと行動を違えては居ても、何だかんだと面倒見のいい性格。

己の考えのもと、今現在の主を元に戻すべく駆け回っているのだろう。


『ふぅ…』

仲間たちの現状、それぞれの考え、想い。

今は別々に過ごしていても、その先の道はしっかりと集う、そう思える。

呆けていた私と違い、皆は今の現状にまったく悲観していない。

改めて自分の馬鹿さ加減と情けなさが身に染みる。

「疲れたかい?無理してはいけないよ?」

執務机の向こうから叔父が優しく声をかけてくれた。

ここ数日間、叔父が集めてきた様々な文献、その中からカイルを救う手掛かりを探る事。

体を癒すと同時に出来る事としては申し分ない。

「そろそろ昼食の時間だね。用意させるから休憩してくるといい。」

促され、執務室を後にして、休憩がてら屋敷前の庭に足を伸ばした。


「やぁっ!」


「せいっ!」


耳に聞こえてきた声、これは従姉弟のオーレンの声だ。

掛け声の方へ足を伸ばす。

そこは、以前から彼とカイルが修行の場として使っていた一画。

私とカイルがこの屋敷に来る前は、ただの芝生の広場だったこの場所は、今やオーレンとカイルの稽古場として整備され、簡易な休憩所なども設けられた一画だ。


「とりゃっ!」


「はぁっ!」


幼くもカイルを尊敬し、師と仰ぎ、彼の言いつけ通りに、彼と同様の鍛錬を積むオーレン。

恐らくはカイルが居ない間も毎日のようにこうして過ごしていたのだろう。

どことなくその体つきも一回り大きくなっているような気がする。

『オーレン。頑張ってるんだね?』

私に気付いたオーレンが、額の汗を袖で拭い、素振りを止めた。

「フィルさん!、お体は平気なのですか?」

『ごめんね?オーレンにも心配かけちゃったね。』

構えていた剣を下し、少し淀む表情は…。

「ボクも聞きました。おししょ…いえ、カイルさんの事。」

『うん…』

自分の言葉で私の顔を曇らせたと、慌てるように手をぶんぶんと振るオーレン。

「あっ、えっと!、大丈夫です!きっと!」

必死にこちらを気遣う様子のオーレン。

幼いながらに真っすぐ育っているのが良く分かる。

ここにもまたカイルの影響がいい形で出ているのが解る。

「えっと…えっと…あぅぅ…」

年齢もあって、かける言葉が出てこない未熟さもまた可愛いところではある。

『ふふ…ありがとうね。』

歩み寄り、その頭を撫でると、申し訳なさそうではあるものの、笑顔を返してくれた。


『大丈夫。貴方のお師匠様は何があっても連れて帰るから…』

笑顔の中の目が僅かに潤む。

考えてみれば当然だ。

身分、立場はあれど、あくまでまだ幼子。

聞かされた言葉は、尊敬して止まない人の身に起こった不幸ともなれば、自分に思いもよらぬ空気に押しつぶされそうにも、不安にもなるという物だ。

しゃがみ、両手を広げ、その小さな体を抱きしめる。


『必ず…取り戻すから…』


渦へ向かって出航したあの日と近い曇天模様の空。

一つ、一つ、ポツリ、ポツリと降り始めた雨が肌に触れる。

まるでこの腕の中で肩を震わせる幼子が必死に堪える涙の代わりのように…。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


寒さの中の温もりを感じ始める頃、己の旅の一歩を踏み出す。


次回もお楽しみに!

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