12話 旅立ちの朝
12話目 楽しくなって来ました(個人的に)
そして何だかんだと書き続けてもう2万文字とか超えてるのに自分でも驚いてます。
『ふぅ…』
数日前に町を白く染めた雪は程よく溶け、自宅裏にあるこの丘も今はちらほらと季節の移ろいを感じさせる。
とは言ったものの、やはり日の出前のこの時間はまだ流石に寒い。
あの日、領主と話をした日、私が未来を選んだあの日からおよそ3ヶ月の月日が経った。
さすがに直ぐに出立というわけにはいかず、私の準備は勿論、当然といえば当然なのだが、領主の仕事もあるようで、協議の結果、領主の仕事が落ち着き、家族と共に中央に戻る時に同行するという結論になった。
そして一昨日の夜、領主が出立の意向を伝えて来た。
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あの夜、帰宅した私は父と母に家を出る経緯を話し、少しずつ準備を進めていた。
でも…
(改めて家を出るとなると、何だろうこのもやもや…)
話をした後の両親は初めて家を出る私に事細かに世話を焼いてくれた。
母から譲り受けた鞄、曰く火竜の革で作ったと眉唾な話ではあったが、所々焼け焦げた跡があったりと現実味を帯びているからまた謎である。
丈夫だけれど、草臥れていて、そこがまた味があり準備を進めているうちに気に入っている自分が居る。
恐らく最後であろう荷物を詰め込んで、鞄を閉じる。
「フィルー?ちょっといらっしゃい。」
階下から母の呼び声が聞こえ、何事かと思いつつ居間に入ると、そこには父と母が並んで待っていた。
「準備は終わった?」
『うん…』
手招きに応じ近づくと、父が背後から布に包まれたモノを見せる。
「何とか出立に間に合って良かったよ。」と父はそれを私に手渡した。
「俺の故郷ではな、自分の子供が旅に出る時には一振りの武具を渡すっつー風習があってな。」
手渡されたモノ、布を捲ると、
『これ…ナイフ?、ううん、これは…』
「そりゃ、プギオっていうんだ。最近じゃあんまり見ない形なんだがな。」
父の話によれば、領主がここ3ヶ月の間に行っていた開墾の折に発掘された石材を鍛冶屋に持ち込んだらしく、鍛冶屋も鍛冶屋で鉄よりも硬いこの石材に興味津々で、喜んで父の頼みを聞いてくれたそうだ。
「まぁともかくだな、この先お前の助けになるかと思ってな。」
革の鞘から引き抜くと驚くほど手に馴染む感覚で、材質が石だというのにその重さは全くと言っていいほどに感じさせない。
刀身は二の腕より短く、幅が広い。
手近なものを斬るのは勿論、その分厚い刀身から叩き割るような使い方もできそうだ。
『ありがとう、ち…お とう さん、おかあさんも…』
気付けば私の目から雫が零れていた。
母が私を抱きしめ、父が二人纏めて腕の中に収める。
『う、うぅぅぅ…』
一度零れてしまえば、もう止める事など無理だ。
いつ以来だろうか、幼子のようにわんわんと私は泣いた。
結局家族3人で床にへたり込むように泣き腫らし、やっとこさ落ち着いたところで母は一息入れ
「さぁ、晩御飯にしましょう!」と勢いよく立ち上がった。
晩餐は概ね私の幼い頃の話が主で、中には物心つかない頃の話に興味を持つと共に恥ずかしいやらで、先ほどの悲しい空気は幾分和らぎ、温かな時間となった。
(あの晩のような温もり…当分はお預けなんだろうなぁ…)
自室に戻った私は、父から送られた石の短剣を腰に下げるためのベルトを見繕い、
(これでいよいよ準備が全部終わっちゃったなぁ…)
寝床に転がり、天井を見上げ、改めて思い出に耽る。
浮かぶのは父の顔、母の顔、セルヴァンやメアリ、カイル、エル姉や町の皆の顔。
学校で一緒だった同世代の顔、足しげくうちに顔を出す兵舎の人たち…
そして3か月前に私が見た存在。
(あれの正体を暴く…皆の、この町をずっと温かくあってほしいから…)
そう決めた。
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『ほぅ…』
ともう一度、手に吐息を吹きかける。
(見納め。)
この丘の景色は一番のお気に入りだ。
私の好きな家、私の好きな町、私の好きな人たち。
見下ろす町のずっと彼方、山の稜線に光が満ち、やがて太陽が姿を見せる。
光は次第に町に降り注ぎ、遠目から見える街路にはちらほらと朝の営みを見せる町人の姿。
そして、町の入り口には領主の馬車と思しき一行の姿が見える。
『さて、と。』
立ち上がり、パンパンと服の裾を払う。
お気に入りの場所から少し迂回して丘を下る。
一度自宅に戻り、荷物を抱え、家を出る。
外には父と母が立っており、私たちは最後の抱擁をする。
「体には気を付けるのよ?」
「辛い時はいつだって戻ってきていいんだからな?」
『ありがとう、お父さん、お母さん。』
町の入り口に止められている馬車の一行に向かって一歩踏み出す。
『行ってきます!』と大きく手を振って私は駆けだす。
道端の気が早い花々は、朝日を浴びて輝き、冬の終わりを告げていた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
たまに投降後に誤字とか見つけるとすっごい焦ります(汗