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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
124/412

118話 彼方の少女

118話目投稿します。


闇の収束が開いた扉。

再び出逢うその時は近い。

『久しぶりね。』

「貴女にとってはそうなのね。」

仄暗い空に浮かぶような感覚。

そして見下ろす視界には幾重の柱と星々。


域が鎮座していた海域はどうなったのか?

そこに留まっていた闇と幾千幾万の情念は私の内へと無事に納まったのだろうか?

この身と、カイルとシロは無事だろうか?


この空間は命の輝きが見れるとしても、その姿まで見えるわけじゃない。

まして、私は自分の輝きを見る事が出来ないのだ。

「無事よ。」

未だ名も知らない少女が見透かしたように告げる。

「貴女と一緒にある星2つ、そして貴女も。」

『良かった…』

「貴女が宿した過去の遺産…いえ、遺恨かしら?。彼の地を蝕んでいた一つの異界は貴女の内へとその地を移した。そして、この世界に在ったもう一つの門が閉じられた。」

何だろう?少女の言葉には以前とは違う…違和感を感じる。

「そうね。貴女が私に触れる度、近づく度に私にも変化があるみたい。今はまだ…」

言いながら指を差す。

示された場所に目を向けると、

『前と違う…』

そう、彼女の雰囲気とは別に、この空間にも感じていた違和感。

以前はただ暗い地平に星々が輝いていただけだったはずが、今では薄っすらと世界の輪郭のような物が見える。

そして指さされたその場所は…

『アヴェストの渦…』


「もうすぐだよ…」


その言葉を最後に私の視界はまたも明滅を繰り返す。

渦と、海と、海底に揺蕩う神殿の景色を瞼の裏に焼き付けながら…。




「フィル!、フィル!!目ぇ開けろよ!」

浮遊感が抜け、体の重さを感じる。

見なくても解る。

泣きそうな声。

手を伸ばそうとして少し困ってしまう。体が動かない。

いや、動かしているつもりなんだけど、手に触れる感触が無い。

それでも彼は私の指先が僅かに動いたのに気づいてくれた。

「…あ、あぁ…ホントにオマエはっ!…」

『………』

泣き虫、と呟こうとしたが案の定口は動かない。

ノザンリィで影に吹き飛ばされた時、ベリズのブレスからカイルを庇った時、今はそれより酷い。

「泣かせるのはいつもオマエだろ?」

表情から読み取ったのか、そこまでわかり易い性格ではない、と思っては居たが、相手がカイルだからだろうか?

焦点の合わない視界の隅に何とか見えるのは…海だろうか?

「来た時みたいにシロが作った魔力の球だ。とりあえず海面に向かってる。」

「思ったよりも消耗しておる。海面に出てもヌシらを連れての飛行となると、どこまで行けるか…」

声だけじゃない。

この魔力球から感じる力は今にも尽きそうな程にか細い。

『……っ。』

軋む体を動かし、手を上げようとするが、やはり動かない。

視線をカイルに投げかけ、持ち上げてもらう。

前…海面の方向を見ているシロの背中に手を添え、すぅっと呼吸を一つ。

「フィル…おヌシは…」

今、この体で出せるのは僅かな魔力だけだ。

この魔力球が維持できない程になれば、波に揉まれる事になるだろう。

もしそうなれば、この体の痛みで正気を保てる自信なんて無い。


背中を向けたシロの肩口…この場合は進行方向か、白い靄のようなものが現れ、いよいよ幻覚かとも思ったが違う。

「もうすぐじゃ!」

とシロが叫んだ直後、急に動く速度が上がった。

背後からバンッという音が内部に響き揺れる。

球の後ろ、黒い影が張り付き迫っているのか、その勢いに押され一層の加速。

「な、なんだ!?」

突然の衝撃と背後の影を見てカイルが叫ぶ。

後ろに引かれる勢いの中、痛みに少し慣れた手を動かし、カイルの腕にしがみついた。


ナニカに押されるように海面から飛び出した私たちは、そのまま中を舞うように、いや、大砲の球のように海の上を飛び、その勢いも相まって魔力の球が消えた。

投げ出された私たちを何者かが掴み、そして着地した。

球が消えた時点で私の体を包み込むように抱え込んでいたカイルは、その腕を一層強めるが今はそれすらこの身には堪える。

直後訪れた着地の衝撃は言葉にすることも出来ない程の痛みを与えたものの、それでも意識が途切れなかったのは喜びのせいか、安堵のせいか。


視界の揺れが収まる頃、その隅に飛び込んできたのは、女性としてはやや屈強すぎる腕。

大の男を容易く薙ぎ、勢いよく扉を開けば木屑に変えてしまう、そんな腕の持ち主。

耳に聞こえる足音、

一つ、二つ、三つ…と数えている内、私はまたも深い眠りへと落ちるのであった。




今度は仄暗い空間に訪れる事もなく、ただ意識が揺蕩っている。そんな感覚。

朧気に広がる景色は…何処かの草原だろうか?


少し小高い丘を駆ける少女と、その後ろに付いて走る白い影は馬か…いや、あれは…。


少女の服装は旅の装束。

まるで駆け出しの冒険者。

付き添い走る白い影。

雄々しくも荘厳で駆けるその身は何者にも縛られない風のよう。


丘を越え、遠い地平線を目指し、ただ只管、ただ真っ直ぐに駆けるその姿は、何処かで出逢ったことがある誰かの姿か?

不意に、二人の様子を眺めていた私に向かって、少女が振り向き大きく手を振る。


その表情も見えない程に遠いはずなのに、声が聞こえた。


「ありがとー!フィルー!」


頬から溢れた雫が一つ、二つ、拭っても絶えない涙の理由は何なのか?

悲しみではないその雫はもはやそのままに、私は少女に手を振り返すのだった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


遺跡を廻る少女との邂逅は相成らず、示した海は扉を開く鍵だという。

ならば扉を潜った先に待つ物は何か?


次回もお楽しみに!

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