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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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117話 闇祓い

117話目投稿します。


願い事を叶えるために課せられる決断。

選ぶ道は己で作る。

教会の外、私とカイルは腰を下ろして悩んでいる。


リリーの口から紡がれた彼女の願い。

今の私たちの心境からすれば酷と言わざるを得ない。

「他に方法…無いって事、だよな?」

『うん。』

思えば今日まで私たちが経験した旅路で大きな戦い…命の駆け引きと言えるものはベリズと戦った時だ。

私自身は異世界で盗賊に襲われた事があり、気の昂りがあったものの、命を奪う様なつもりは無かった。

下手すればそうなっていた可能性はあったのかもしれないが…今更ながらそのか細い幸運に感謝しなくてはいけない。

『命の…重さ…』

「わかんねぇよ…」

その…最期の糸を断ち切った事はある。

ベリズだ。

短い時間でも言葉を交わし、互いの命を秤にかける間もなく己を託して消えた竜。

今でも私の中に在るその力は…そうだ。

『…よし。』

「お、おい!」

立ち上がり、教会の中に戻ろうとする私の肩をカイルが掴む。

『カイル…アンタの気持ちは解るし私も同じ気持ちはある。でもね、リリーさんはそれを踏まえた上で私たちに頼んだんだよ。』

掴まれた肩が少し痛い。

『…命はね…想いは、継がれるの。』

手の力が緩む。

本人の納得は無くとも、私の意思は汲んでくれたようで助かる。


腰に携えた鞘から石剣を引抜く。

「フィルさん…ありがとう。」

『お礼なんて…でも、一つ聞かせてください。』

「何かしら?」


『やり残した事、ありますか?』

真面目な顔から一転、虚を突かれたような表情の後、懐かしい物を思い出すような穏やかな表情に変わる。

「…たくさん。でも一番は…そうね、ラウルともっと色んな所に行きたかった、かな?」

ラウル…彼女が名付けたシロの昔の名前だ。

彼女にとって、聖女として人々を救い導く重責より、何者にも、何事にも囚われず、世界を旅する事こそ本当の気持ち。

『解りました。』

ベリズの時は、魔力の源であった角を切り落とした。

出来るなら…もし出来るなら…。

リリーは、自分は既に死んでいると言った。

なら、今の彼女は私たちとは違う存在。

且つこの闇、影…闇魔法の一端であるなら、ベリズの命を断ち切った時よりも容易なのではないか?

「フィル!、待つんじゃ!!」

シロの静止は当然。

航海の最中、彼と話をした内容は覚えている。

けど、もし私に、私の中に、他者と違う何かがあるなら!

手を伸ばし、リリーの体に触れる。

現実感のないその体は肉体と呼ぶにはあまりに脆く儚く不安定さを感じる。

今必要なのはもっと深い所。

竜の角のように、その魔力の源と言えるその位置だ。

指先を通して感じる彼女の存在、肉体(余計なモノ)が無い分その状態もわかり易い。

「フィルさん!それはダメ!!」

触れた手の感触から、私が何をしているのか読み取ったリリーもシロ同様に叫ぶ。

だが…

『これが…私の!』


石剣を白いローブを纏う「人の形」をした魔力の核に突き立てた。


『意志だからっ!!』


核を突いた刃の切っ先からリリーの背に竜巻の様な闇の渦が放たれ、礼拝堂の奥の壁に当たり、収まらない衝撃が壁に亀裂を生み、砕く。

「小僧!」

シロがカイルを呼びつける。

「フィルの体を支えるんじゃ!決して離すな!」

放たれていた渦が動きを止めたと思ったのも束の間、まるでアヴェストの渦のように周囲の闇を呑み込みながら、リリーの背に、その背を通した石剣、それを持つ私に収束していく。

『…っぐ』


ゴゴゴゴゴ…と激しい音が聞こえるが、気にかけている余裕なんて無い。


目の前のリリーの姿が崩れていく。

「フィルさん…ごめんなさい…ごめんなさい…」

その姿が完全に消える直前、まさに彼女の最期の言葉。

「…ありがとう」

それだけでいい。

私はそれだけあればいい。


「本当にオマエ、馬鹿だよ!」

シロに言われた通り、私の背後に立ったカイル。

私の体に回された腕に力が込められ、僅かに触れる肌に彼の温もりを感じる。

『…ぅぐ…カイ、ル…腕、支えて!』

言われた通り、その体全部で私を包み込むように腕をしっかりと掴む。


大丈夫、大丈夫だ。

怨嗟?怨念?後悔?恨み?

耳元をそう言った声が、膨大な数の声が聞こえる気がする。

違うよ。今見つめるのは、今感じるべきはそんな声じゃない。

ただの大きい魔力の塊。

一つの国を呑み込む程に大きい魔力の塊だ。

そして、魔力というのであれば、この身に宿す事だって出来るはずだ。

必要なのは私の意志、想い。

幾千、幾万の情念に潰されない強い想い。

聖女でなくても、誰だってそうだ。


目がチカチカする。

閉じかけた視界に映っている渦はまだまだ尽きる様子はない。

体の感覚が薄れ、意識が飛ぶような感覚に襲われる。

体はもういい。

カイルに任せる。

目を閉じて、流れ込む魔力の濁流に意識を集中させる。




不意に開けた視界は一転して、色彩溢れる風景を映し出す。

『これ…誰かの…』

見覚えのある小動物の姿を捉え、この風景が人の記憶だと、その主も分かった。

『そう…そうだよね…』

冒険心、ワクワクするのは誰だって同じで…

それでも辛い事、悲しい事、思い通りにいかない事なんて沢山ある。

共に歩んでくれる人がいるなら…

やがて風景が変わり、何度も何度も繰り返される。

いずれも、国が滅ぶような絶望的な景色はない。

『誰だって…そうだよね…』

誰しも悲しい事を望む人は居ない。

其々に夢や希望を見て、求めて、願って生きている…生きていたんだ。

人の数だけ想いは異なり、故に争いも起こる。

それでも…

『リリーさん…貴女の願い…届いてるよ…』

絶望的な風景が無いのは、リリーが祈り続けていた結果だ。

違うとしても、そう想いたい、願いたい。


『想いの力は…必ず…』


体から意識は途切れ、

意識の彼方で見た光景は揺らぎ、

何も感じない浮遊感に沈んでいく。


不思議な感覚だ。


『懐かしいような…気がする…』


「アナタには驚かされてばかり…」


懐かしさを感じた理由は、言葉通り、久しぶりの感覚だからか?

随分と時間がかかってしまった気がする。



感想、要望、質問なんでも感謝します!


世界を渡り、大海を渡り、訪れた深淵の底で辿り着く道。

未来は常に追い求める物。


次回もお楽しみに!

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