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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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操舵士の日記

久方ぶりの閑話

かけがえの無い友。

私の生涯に於いてもこれ以上は無いかもしれない2人、そして愛くるしくも長い年月を生きてきたという小さな仲間。

彼らが私の前から姿を消して数日。


あの日、友人から頼まれた願いを聞き届けた私たち。

ガラティア=ヴェストロード様、ロニルダ=オストルさん、リアンさんの4人は急ぎ船の進路を反転させてヴェスタリスの港に戻りました。

港まで数日かかる予定だった航路を言葉通り「寝る間を惜しんで」船を走らせた私は、港に着いて早々に町の診療所に担ぎ込まれたという事だったそうです。


後日、ガラティア様から聞いた話だと、あんなに早い船に乗ったのは初めてのだった。という事だそうです。

褒めたはずのガラティア様、褒められたはずの私、2人共に安易に喜ぶ顔では無かったのが印象的だったのを覚えています。


診療所で目を覚ましたのは2日後。

その間、港町は津波を警戒する為の措置が執られ気怠い体で歩く町並みは出港前の活気とは違う様子で多くの人々が忙しそうに走り回っていたのです。


更に2日後、王都からスタットロード家御一行が早馬の馬車にてヴェスタリスに到着しました。

ついて早々に私の元に駆けつけてくれたアイン様は優しく頭を撫で「頑張ってくれたね」と労いの言葉と、この日記?を書くといい、と言いました。

更にはレオネシア様はアイン様同様に優しく、そして力一杯抱きしめてくれたのです。

「辛かったでしょう」と掛けられた言葉に恥ずかしながら大声で泣いてしまい、御二方には多大な御迷惑を掛けてしまいました。


場と時間を移し、領主様のお館に呼ばれた私、リアンさん、ロニーさん。そしてガラティア様。

船旅の経緯を皆様にお伝えする運びとなったのです。


数日経っても心が落ち着かない私たちに比べ、アイン様、レオネシア様は随分と心穏やかにあるように見受けられましたが、折を見て伺ったところ「命の危機までには至ってない」と確信めいたお返事。

私が肌見放さず身につけている…そう、フィルから送られた宝石を示したのです。

「輝きは失われていない」と。


フィルやカイルさん。あと愛らしいシロちゃん。

3人が無事であるのであれば、私に出来る事は帰ってくるのを待つ事。

そして如何なる時でも駆け付ける為の準備です!


幸いにもスタットロード様御一行から遅れてヴェスタリスに到着した技術院の方々。

当然ながらノプス所長も同行していました。

体調も回復したとなれば、皆さんに合流して魔導船の修繕、改修作業に加わります。


事細かな船旅から、新たに改修項目として、舵の動きに共鳴してマストの操作も行えるとなれば、一層、船に割く人員を減らせる。

操作するこちらの負担は増えるでしょうが、そこは訓練を頑張れば大丈夫なのです!


船体前面に付与された刻印に劣化がある、と上がった報告にシロちゃんが話してくれた「域」の事をお伝えしました。

担当した方の話によれば単なる衝撃などでこの様な劣化には至らぬ、と。

少し気になったといえば、その方が「消費」ではなく「消去」だと呟いていた事でしょうか?。

難しい話は解りませんが、ロニーさんが喜びそうな話かも?と思いました。


ノプス所長から、使い勝手、要望はないか?と問われ、少し悩みましたが、速力より力強さが必要かもしれないと返事をしました。

実際に操作する上で、ある程度の惰性で前進が可能なところ、船の力を改修する事で舵取りに余力が生まれると思ったのです。

所長は真摯に私の話を聞き入れてもらえる様子。

こういった所が所長たる所以なのでしょうか?

相変わらず私を身近に置きたがる性格は変わらないようで困ってしまいます。


ともあれ、技術院の皆さんはやはり逞しいです。

ヴェスタリスの港で見た屈強な方たちとはまた違う力強さを感じます。

何事にも真面目に取り組む姿勢は私ももっと見習いたい所ですね!


船の改修の目処が立った後、私を呼び出したのはロニーさんでした。

どうやら港に戻ってからの数日の間、域で経験した事を踏まえた知識の研鑽に浸っているようで、船に設けられた書庫のみならず、西方領館の書庫にも足を伸ばしているようで、何事かと顔を出してみれば「片付け手伝って〜」との事。

暇を持て余して余計な考えに陥るよりは、何かやっていふ方が気は晴れるという物。

それにこのままだと、館の司書さんの目が怖いのです。


報告の時以来、しばらくその姿を見れなかったガラティア様。

後日聞いた話では、近隣の森に籠もっていたらしく、何をしていたのか…本人は「憂晴らし」と言っていましたが。

もしかするとここ数日間何処からともなく響いていた轟音は彼女の憂晴らしに拠るものだったのでしょうか?

港に運び込まれていた木材の量に作業員の皆さんが苦笑していた事から考えると、この町の人たちの苦労も少しは解る気がします。

カイルさんが戻って来た際にフィルが言ってた2人の組手、私も興味が湧いてきました。




3人と別れてから明日でもう10日になります。

未だに3人はあの海域に居続けているのでしょうか?

早く…また会いたい。

気持ちが日に日に積り、重なります。


今日の出来事を記し終え、筆を置いた。

「ふぅ…」

宿の窓から覗く夜空。

星がまたたく分には、あの域と呼ばれた海域と同じ暗闇でも全然明るいし印象も違う。

眠りにつくために結わえてあった髪を解こうと上げた手に、フィルから貰った宝石が触れる。

「どうか…無事に…」

手の中に包み込み、星空に向かって祈る。

次章も楽しみに!

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