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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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111話 暇潰し

111話目投稿します。


一見穏やかな船上、猫が興味を惹かれるような顔で見つめる視線。

その出元を知れば落ち着いてはいられない。

天候に恵まれている。

世間では「晴れ男」だの「雨女」だのという例えがあるが、私をソレに当てはめれば恐らくは後者側になると思う。

なら、何故今回の船旅で幸運にも快晴が多い理由は、まずカイルだ。

幼少の頃から彼と共に外出した時に雨だった記憶は少ない。

後は、性格が作用するとは思えないが、パーシィであれ、ガラティアであれその活発さは間違いなく前者のソレのように思う。

とはいえ、船や海の知識が豊富なリアンやガラティアが居れば悪天候すら物ともしないのだろうが。


しっかりと物資を積み込んだ船は順調に波を掻き分け、まだ港からさほど離れていない船の周囲には数羽のカモメが船旅特有の音を耳に届けてくれる。


甲板では毎日の恒例であるカイルの修行風景が見れるが、今日はそこにガラティアの姿も付け加えられている。

至って普通の鍛錬模様に不思議そうな顔で眺めているわけだが、彼女の考えは分からなくはない。

普通の人が普通の鍛錬をしたところでガラティアの腕力に及ぶ事など有り得ないのだ。

しかし…

『うーん…止めとくべき、かな?』

ガラティアの表情を見る限り、昨日の腕相撲に飽き足らず今にも組み手を言い出しそうだ。

弁えはあるとしても、船が藻屑になりかねない。


『ガラティア様、何か嬉しそうですね?』

ウェッへッ、と奇妙な笑い声を上げながら「分る?」との返事。

10人居れば10人共に頷くであろう答え。

『船上ではやめてくださいね?』

「流石に泳いて帰るつもりはないさ…いやぁでもウズくねぇ?」

一応は弁えてる様で助かる。

私の苦笑顔は消えそうにはないが。


『ガラティア様はこの先の西方海域に行かれた事はあるんですか?』

「ガラでいいって。あるにはあるけど精々小さな漁の手伝いした程度だなー。」

『私が知る限りでは遠洋の海底は何も無いと聞いてるんです。』

「ふむ…確かに漁師の連中もアガリが見込めないって言ってた海域があったな。そこか?」

『恐らくは…』


この船が向かう先に何があるのか?はたまた何も無いのか?

目的地までの予定は早くとも3日程かかるはずだが、まだ見ぬその海域は史実から切り離され、永き時を世に触れぬままとなっている不毛の地。

何が起こっても大丈夫なように出来る事をしておかなくてはいけない。




『とは言ったものの…手が空くなぁ…』

日中はカイルの鍛錬模様を眺めつつ、日が落ちれば自室で読書をして眠りにつく。

操舵の負担を減らすための帆の上げ下げはカイルに指示する形だし、今ではそこにガラティアも加わるから実際の出番はない。

生活面に於いてはリアンが優秀過ぎて王都の借宿で過ごした日々との違いは足を付けた床が揺れるか揺れないか程度でしかない。

書庫でロニーの手伝いをと考えても単に読書するだけに近く、挙げ句下手に集中し過ぎるため、リアンから叱られる事にもなりかねない。


「前、ロニーさんが見せてくれたの練習すれば?」

暇と言う名の己の役立たずっぷりに項垂れる私に、別にいいじゃない、と気楽にパーシィが言うものの、思いついたように発した事。

『魔力の修行…そうね、悪くない。』

すっかり忘れていたが、ヴェスタリスに着く前、話の説明ついでにロニーが見せてくれた風魔法で物を浮かせるというモノだ。

早速、と手元に置かれたカップ。

これを浮かせるように魔力を発して…風の属性を付与して…

『「あっ…」』

手元にあったカップは、スポーン!といった感じに空へと吹き飛び、手の届かぬ船外へと落下した。

「あ、あははははっ……」

『……リアンさんに叱られる…』

せめて船内でやろう、と心に決めた。




心に決めた事を改めてリアンから念を押され落ち込むものの、暇つぶしに出来る事が分かったのでとりあえずの満足感を得る。

「怒られた?」

というパーシィに頷くと笑われた。

『船内でやんなさいって。』

「そろそろ停めようかと思うんだけどどうかな?」

空模様は問題ない。

遠く陸地はまだ見えるものの、周囲に別段変化もない。

陽も落ちるまでそれ程の時間もなさそうだ。

『じゃあ…よっと、通達。投錨します。投錨します。』

伝声管に報告を入れると、程なく返答が戻る。

「リアンです。今日は甲板での夕餉にします。ロニーさん?遅れず上がってくださいね。」

厨房から届いた内容から察するに、ガラティアとの親交を深める事も理由の一つだろう。

皆で夜空を見ながら頂く食事は私も気に入っている。

「おっ、いいねぇ。上から見る限り特になんもないぜ。月も出始めてるってとこだ。」

甲板からだと二重に聞こえるのはカイルの声。

航海中の大半のカイルの持ち場であり、本人曰く瞑想するのに丁度いい、との事だ。


流れ、夕食の準備となるが、ガラティアの姿が見当たらない。

日中船首辺りに居たのは覚えているが…。

突如、ざばぁぁん!と音を立てて船体側面から水飛沫が上がり、手摺に降り立つ人影。

『わわっ!?』

「今日は終わりかー。」

驚く私を他所に声を上げるのはガラティア本人。

いつの間に用意していたのか、腰には網状の袋を下げ、中には数匹の魚。

どうやら素潜りで魚を捕まえていたようで…。

『えぇー!?』

さっきまで船は動いていたはずなのだが…。

『泳いでたの?』

「王都の船は中々はえぇなぁ!」

最早この人を、人と見て良いのかさえ怪しい。

新たな仲間は素潜りも得意なようで、数日後の調査の協力として同行した理由はこれでもか、と言わんばかりに証明された事となる。


スタっとマストから降りてきたカイルが呟く。

「もう少し海中にも気を配るわ…。」

『そうね…。』

啞然とする私たちを置き去りに、網を肩に抱え直してガラティアは船内に向かうのだった。

「これも焼いてもらおうぜ〜?」

屈強な女傑は、あまりにも豪快で、あまりにも人並外れだった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


海の恵みを競う2人。

その性格は人の懐にいとも簡単に触れる。


次回もお楽しみに!

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