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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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109話 独り歩きの噂話

109話目投稿します。


偶然の出会いは西方の町の空気そのものを纏ったような快活さを漂わせ、また何処か謎めいて。

宿に到着後、休憩がてらお茶を楽しみ、ガラティアは宿を後にする。

去り際に「愉しそうな匂いがする。」と言い残したのは何だったのだろうか?


『にしても…あの力は明らかに血から来るものだよなぁ…ロニーさんなら何か知ってるかな?』

見た目は普通の人、まぁ姉妹其々に体を鍛えている事に違いはないだろうが、普通に常人のソレとは比べ物にならない。

領主である理由としては、ソレのみでは無いのは先程の鍛冶屋でのやりとりでも分かるが、理由の一つで有る事も間違いはないだろう。

『ひとまず皆と合流しようかな。』

一人で考えても仕方ない、と一旦の思考を残し私も宿を後にした。




『確かこの辺りだったはず…』

宿から大して離れてはいないはずだが、今日は昨日より一層住民で溢れる町並み。

また余所見して厄介事にならぬ様、感覚共々合間を縫って歩くが、流石にこの中で皆の位置を探るのも難しいものだ。

『まいったな…』

諦めて船か宿に戻るか?と考えていた矢先、それらしい歓声が耳に届く。

声を頼りに足を進めるものの、進むに連れて掻き分けるのが困難になっていく。

いっそ呼んだ方が早いか?

『カイルー!、パーシィー!、ロニーさーん!』

ままよ、と声を上げると、運良く声は届いた様子。

僅かではあるが、少し先の人混みの中から伸びる手が見える。

「フィル!こっちー!」

返答に上がった声の主はパーシィだ。


密集する人混みを何とか掻き分け、壁となっていた円の最前列へと辿り着く。

開けた周囲からパーシィとロニーの姿を見つけた私は2人の傍へと駆け寄る。

『やっと着いた〜。』

「大変だよフィル〜!」

早々に私の手を握りしめて少し涙声混じりで何かを訴えるパーシィ。

「あれはカイル君でも無理じゃないかな…」

焦るパーシィと対象に冷静なロニーの様子。

原因はこの広場で今まさに行われている賭け事の対象。

向けた目線の先に映る姿。

一方はカイル。

袖を捲り上げた腕はそれなりに屈強ではあるが、小刻みに震えている。

恐怖などではなく、持てる力を込めて対抗しているからで、その相手は…

『ガラティア…さん…だよねアレ…。』

人外からの特訓を受けているとはいえ、根本的な力は人のソレを凌駕する事はない。

対して、ガラティアやパルティアの腕力は見るからに人外と言っても過言ではない。

「知り合いなのかい?フィル。」

脇で慌てふためくパーシィは置き去りに、あくまで冷静なロニー。

賭けてるか、そうでないか、の違いだろう。

『もし知ってたらでいいんだけど…』

ロニーの耳元に小声で伝える。

「あー…成程。うん。」

目に見える結果をパーシィに伝えるのは少々酷というものだ。

「あれがガラティア…西の影とまで言われる人か。」


西の影。

知る人ぞ知るという事らしいが、西方領主には一般の人の目に映る容貌からは思いもよらぬ噂話、または逸話とされる話があるらしい。

西方に関連する伝記などで記される書物にあるセイレーンやマーメイド、またはマーマン。

それらの印象は所謂「海の魔物」もしくは「魔獣」とされる存在だ。

片や船を惑わす妖精。

片や半人半漁の亜人。

西方領主はその血を継いだ混血種。

美貌という意味で、例え話に使われるにしても、この地に住まない者の印象はその程度だ。


その血が与える強靭さは実際に目にしてみない事には信じられる事でも無いが、少なくとも私は両人の片鱗を目にしている。

どちらもそれなりに頑丈そうな扉を木片と化したというのは偶然の一致だとは思うが。


ともかく、領主ともあれば、国の要人として影武者を立てる。

表には出るはず無い情報ではないはずだが、ロニーが知っているのもあくまで噂話程度の事だろう。

その対象こそ「西の影」こと「ガラティア」というわけだ。

とはいえ、ガラティアにせよ領主にせよ、隠す必要があるとは思えない。

『まぁ、大体は力押しでどうにかしそうだけど…』

むしろ、噂話が独り歩きしているような気もする。




「ンググググっ!」

眼前で繰り広げられている戦い。

とは言っても腕相撲。されど腕相撲。

少し離れたこの位置からでもカイルが全力を出しているのは分かる。

だが今回は相手が悪すぎる。

しかし、相対するガラティアも決して手を抜いている様子はなく、その表情もまた余裕とまではいかないようで、とんでもない腕力を知る側としては、カイルは十分に奮戦しているのが見て取れる。

「っふんぬぅぅ!、まだ、若いだろう、に!やるじゃない、かっ!」

ガラティアにそうまで言わせる辺りはカイルの凄さという所だろうか?


「応援しないのかい?」

ロニーに言われるが、どちらを応援するか悩む。

「フィルもカイル応援してぇ!」

縋り付くように言うパーシィは、すでに泣いてる。

まぁ…仕方ないか。

『カイル!しっかりしなさい!』

と喝を一言。

「あら?、フィル嬢ちゃんじゃないか。」

私の声が聞こえたようで、ガラティアの気が逸れる。

「ふんぬぁ!!」

逆に喝を受けたカイルが緩んだ一瞬に力を込め、


どどん!


とガラティアの甲が台座に落ちる。


「ありゃ?…しまった。」

と負けたガラティアが素っ頓狂に声を上げハハッと笑う。

「…っぷぅぅぅっ!よっしゃぁあっ!」

大きな深呼吸と共に叫ぶカイル。

台座から身を上げた両者は力強く握手を交わし、静まった群衆の称賛が上がり、場が盛り上がった。

『カイル…手、大丈夫かな…』

案の定「あひゃっ!?」などと妙な悲鳴を上げるカイルであった。




「や、やったぁぁああっ!」

カイルの勝利で財布が潤ったであろうパーシィが私に抱き着いて燥ぐ。

『勝っちゃった…まぁ純粋なとこはどうかな?』

何はともあれパーシィが破産しなかった事をとりあえず喜ぶべきか。


まさに賭けとしては大穴だったのだろう。

財布がはち切れそうな程に膨らみ、満面の笑顔と、奮戦したカイルを称えるパーシィ。

賭ければ良かった、と後悔のロニー。

たかが腕相撲、されど腕相撲。全力を出し疲労感一杯のカイル。

笑い合う私たちに、ガラティアが歩み寄ってきた。

「いやぁ、いい匂いがすると思ってみれば、フィル嬢ちゃんの仲間だったとはねぇ?」

『ガラティアさん…』


「ガラでいいよ〜?。仲間は4人で全部かい?。明日から宜しくな!!」

隣だっていた私とカイルの肩に手を回し、捲し立てるように話すガラティア。

『いえ、船にあと1人と1匹…って、えっ?』

驚きの返事に対するガラティアの顔は不思議そうな表情で、

「あれ?まだ聞いてなかったのか?」


「海域調査、アタシも同行すんだけど?」


4人の驚きの声が重なり、一瞬だけ周囲の目を引くが、未だ熱戦冷めやらぬ盛り上がりの空気に溶けて消えたのだった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


一方は偶然でも、もう一方は必然であった。

再度の訪問で伝えられた領主の言葉は?


次回もお楽しみに!

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