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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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108話 女傑舞う

108話目投稿します。


出会った謎の女性は屈強な男を前にしても豪快に笑う。

『えーと…どうしよ、どうしよ!』

一触即発の謎の女性と荒くれ者。

事の起こりは私の余所見の為、無責任に逃げるわけにも行かず、平和的に何とか解決…と思ってもその可能性はほぼ無い。

「アッハッハ!、お嬢ちゃん、落ち着きなって。」

ヒラヒラと笑いながら手を振る女性。

「こーいう輩は殴った方が早い!」

男に向き直り、拳を握り構える。

強い。

体術に覚えの無い私でも解る程に、女性の構え…纏っている空気感がそう告げている。

「がぁぁあっ!」

止める間もなく男が女性に拳を振り上げ飛びかかる。

寸での回避、同様のやり取りが繰り返されるが一向に男の拳が女性を捉える事はない。

息が上がり疲労が目に見える男と裏腹に、華麗にその拳を避け続ける動きは乱れる事もなく、まるで武闘ではなく舞踏だ。

何よりそう感じさせるのは、この騒動が始まってからずっと絶やさぬ彼女の表情だ。

嬉しそうに、楽しそうに、厄介事にも関わらず観る者を引き付けて止まないその表情。

『す、凄い…』


「おにぃさん、そろそろ頭は冷えたかな?」

落ち着かせようと投げた言葉も、男には挑発になってしまった様で、

「うるせぇ!」

と叫び、渾身の拳を突き出す。

が、

「仕方ないねぇ?」

と呟き、回避、男の肩に手を添え、地を蹴り、体は中へと舞い上がり、身を捩り、男の背中を膝で抑え込むように地に叩きつけた。

「うげっ!」

とうめき声を上げた男は肩で息を吐き、立ち上がる体力も残ってなさそうだ。

まさに目の前で起こった喧騒。

とりあえず一段落した安堵からか、私の腰が折れ、地に膝を付かせた。


しばしの静寂の後、

「ワアァァァっ!」

「いいぞ!、ねぇちゃん!!」

などと周囲から歓声が上がり、女性は絶やさぬ笑みと共に観客に応えて大きく手を振る。


「嬢ちゃん、大丈夫だったかい?」

ある程度、野次馬に愛想を振りまいた彼女が私に声を掛ける。

『え、えぇ。有難うございます。』

差し出された手に応じる、が…

一瞬、昨日の握手が頭を過る。

「あーっと、済まん済まん。」

握り返されない己の手を慌てて引いた彼女。

「危うくアンタの手、潰しちまうとこだった!アッハッハっ!」

豪快に笑うその姿、喧騒での汎ゆる所作は、似ている。

立ち上がり、裾を払う。

『改めて有難うございました。もしかして、パルティア様に縁のある方ではありませんか?』

少し驚いた表情、直後、僅かに鋭い視線で一瞥。

『私はフィル。フィル=スタットと言います。昨日、王都からの旅でここに着いた者です。』

もし予想が外れていなければ、これで解るはずだ。

「成程、嬢ちゃんがそうだったか。見慣れない姿とは思ってたけど…ふむ。」

短い思慮の後に彼女は名乗る。

「アタシはガラティア。ガラティア=ヴェストロードだ。」

予想は間違って居なかった。

『ヴェストロード…ではパルティア様の?』

「姉だ。」

再び差し出される手。

握り返した私の手は砕ける事無く握手する事が出来た。


「さて、と。」

握手の後、今度は地に突っ伏したままの男に近付く。

「おにぃさん、済まんかったね。どれ。」

翳した手の平が小さく光り、倒れたままの男に放たれる。

『癒やしの光…』

「あぁ、こう見えてアタシは聖職者なもんでね…よしっ」

ポンっと男の肩を叩く。

「いつつ…って痛くねぇや。」

「いい歳して女の子虐めるんじゃないよ?」

立ち上がった男に顔を近づけて説教をする。

「済まねぇ…ちょっとイラついてて当たっちまった。お嬢ちゃんも済まなかったな。頭も冷えたぜ。」

流石に圧倒的で一方的に倒され、尚且つ手当までしてくれた相手に強気に出るわけにも行かず、男は素直に、冷静になったようで、こちらも一安心だ。

『いえ、余所見してた私が悪いんです。ごめんなさい。』

改めて深々と頭を下げる。

互いに謝罪が成されたのを見て、ガラティアが男の肩に腕を回し、

「しんどい事がありゃアタシが酒でも奢ってやるから、腐るんじゃあないよ?」

と、豪快に笑った。

『聖職者とは…』

まぁ、迷い人を導く意味合いでは間違ってはいないのだろうが…

『エル姉みたいだ。』

フフッと2人の様子を見て懐かしい人の姿を思い出し私も笑った。




「嬢ちゃんらは確か何かの調査?とかで来てるんだっけか?」

互いに名乗ったことで通りすがりから知人となったガラティアと2人、騒動のあった広場から私の目的地であった鍛冶屋に向かって歩みを進めていた。

『ええ。パルティア様が西海域の情報を調べて頂けるとの事で、私たちは休息を…といった感じですね。』

成程〜と声をあげ、私の荷物を指差す。

「んで今は武具の手入れで鍛冶屋?」

『ですね。』

再び成程〜と漏らし、私の手から荷物を奪い取り、肩に抱える。

『わわっ、じ、自分で持ちますからっ!』

「気にすんなって。ほら、さっさと行くよ〜」

足早に歩く彼女。

遅れないように私は小走りに駆けた。


程なく辿り着いた鍛冶屋。

「邪魔するよっ!」

バァァァン!と勢いよく扉を開くガラティア。

『あぁー…』

案の定、鍛冶屋の扉は木片と化した。

やはり姉妹。間違い無いわ。

と私は頭を抱えるのだった。



「嬢ちゃんの防具、留め具や革紐がへたってたのを直せばでぇじょうぶだわ。オスタング製はやっぱ上質なもんだ!くぅぅー!悔しいのう!!」

とはこの鍛冶屋の取り纏め役の者の言葉だ。

鍛冶屋でのやり取りは破壊された扉も含め、それなりの時間を要すると思っていたが、意外とすんなり終わる。

ガラティアが鍛冶屋衆と親密であった事、扉の破壊も日常茶飯事という事だが…それもまた良いのか?

と思いながらも、彼女と和気あいあいと話す鍛冶職人らの様子は、姉妹共に領民から慕われているのがよく分かる。


オスタングでもそうだったように、アインのような温和な性格でなくとも、領主とは自然にその地に暮らす者たちの信頼が得られるからこそ成り立つのだと。

また、領主や近しい者たちに惹かれるからこその繁栄なのだと言う事をまざまざと見れた気がする。




「そんな遠くもないだろうが、宿まで送るよ。」

まだ日は高いものの、出歩くにせよ手荷物はひとまず宿に置いておこう、とその後の予定を話し返された言葉だ。

『何から何までお世話になってしまって…有難うございます。』

頭を下げて礼を言う私にガラティアは妙な返事で返す。

「大した事じゃないさ。付き合いも長くなるんだからな。」

『ん?…』

まぁ…いいか。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


奇妙な返答が指す意味は旅にどの様な痕跡となるか?


次回もお楽しみに!

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