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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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105話 西方領主

105話目投稿します。


入港する船。

港町、その日常の光景は、旅人の好奇心を引き立てる。

ブォーー!と汽笛が響き渡る。

入出港の際に鳴らすのが楽しい、とパーシィは言う。

港に行き交う人々の表情も楽しめるとの事だ。


渦の海域と雷雲を掻い潜り数日の航海を経て辿り着いた華やかな港町。

確かに行き交う人たちは様々。

忙しなく荷を運ぶ屈強な男達、並ぶ露天商もまた多種に渡り、片や捕れたての海産物、はたまた海路を渡ってきた舶来品、生活用品も並んでいる。

町の玄関とも言える港は、ここに暮らす人々の生活の基点ともなる市場が主にこの区画を担っているようだ。


細かく目を向けると、露天商だけではなく、芸を振る舞う者、市場の品を使った料理を振る舞う店、そして何よりそれらの中央に位置する広間には恐らく町の催し事、集会などにも使われるであろう舞台。

今まさにその舞台の上には華やかな衣装を纏い、踊り歌う女性の姿。

遠目に見えるその様子がこの港を一層華やかに盛り上げている様に見えた。


初めて訪れるその町に見た私の印象だ。


「すっげえでかいなー!、ノザンリィとは大違いだ、な?」

初めての旅でキュリオシティに着いた時、王都に辿り着いた日と同様に胸の高鳴りを抑えるのは、私やカイル、今回はパーシィにとっても無理がある。

『…確かに…想像以上ね…』


船着き場からこちらに手振りで誘導する港湾職員に促されパーシィが舵を操作する。

傍ら、到着後の打ち合わせを練る。

『えーっと…まずは入港手続きと…あと領主様に挨拶…物資の補充に、情報収集?』

「はい。大凡はそれで問題ないでしょう。」

『んじゃ分担して済ませよう!、皆お願いね!』


カイル、パーシィ、ロニーの3人に手続きと物資の補充を任せ、私はリアンと共に領主邸宅へと向かう段取りを決め、各々下船し町へ。

シロには事前に留守番を任せたものの、人相手にどこまで頼りになるかは不明だ。

「魚は飽きたぞ。」などと不機嫌そうに吐き捨てた毛玉への土産も考えなくては。




ヴェスタリスの領館は町の中心ではなく、港から海沿いに歩いた切り立った崖の上に建てられている。

至る道は石畳で綺麗に整備された遊歩道として町の名所として、住人の憩いの場としても重宝されているようで、海上から、また港方面から見上げる景観とも合っていて、実際に歩いてみれば海から吹き上がる潮風が心地よい。

『風、気持ちいいけど強いね。』

「ふふ、嬉しそうですね、フィルさん。」

『いやぁ…ワクワクしちゃって…へへ…』

自然と溢れる笑みにリアンも同様に穏やかな笑顔を浮かべる。

差し出された手が私の頭を撫でた。

「あっ…その…つい。」

『あ、いえ…大丈夫、です。』

旅仲間の中で、シロを除けばリアンは最年長。

私やカイル、パーシィ、そしてロニーにも無い落ち着いた所作はとても頼りになる。

しかしあくまで従者の立場を外さない彼としては珍しい行動だ。

突然過ぎて顔が赤くなる。

「行きましょう。」

慌てる私に比べリアンはすでにいつも通りの様子。

これもまた年の功とでも言うのだろうか?


「遠路遥々お越し頂き有難うございます。」

領館で応対に出てきた…メイド?はスタットロード家の者と比べるとまるで踊り子のような服装で私たちの驚きを誘った。

「いやはやこれは…」

流石に男性視点からすればやや煽情的すぎる気もするが、海に面するこの町と、古くから「ローレライの住まう土地」などと言われる所以とすれば納得も出来る。

着ろと言われれば断固拒否したいところではあるが…

そう言えば領主会談の時に見た西領主、その御付き共々に同様の美しい容貌だった。

「フフ…こちらへどうぞ。」

リアンの体をつつき口に手を添えて小声で呟く。

『開放的って言うんですか?こーいうの…』

「いや…何と言えばよいのか…返答に困りますね…正直私も予想外過ぎて…」

私と同じ様にリアンも小声で返事を返す。

言うだけあって彼も戸惑いを隠せないようだ。

「大丈夫ですよ、この町の女はその身の使い方も心得ております故。」

ヒソヒソ話は聞き逃されなかったようで、私とリアンは一瞬体を硬直させる事となる。

『あの…スイマセン。』

「…これは私からの助言なのですが…」

と断りを入れて

「私共領館に勤める者は勿論、この地域に住まう女は総じて耳あざとい者が多くおります故、本当に秘密にされる事は声に出さぬ事をオススメします。」

述べた後、差出がましい事を、と頭を下げた。

当然私たちは全力で感謝を返した。


『領主様…パルティア様はお忙しいのですか?』

案内してくれたメイドの口調から今現在領主が不在なのが解る。

「申し訳ございません、本日の予定としてフィル様方がいらっしゃるのはご存知ではあったのですが…」

どうにも言葉に詰まっている印象を受ける。

『もしアレでしたら改めて伺いま…』

バァァァン!、ドォォン!と勢いよく応接室の扉が開い…開けられた。

「パル様、一昨日修理したばかりなのですよ?」

やれやれ、と枠から外れ、扉から木の板と成り果てた物を、ヒョイっと軽々と持ち上げる。

「いやぁ、すまないな!。とキミがフィルか。会談の時とは…うーん…別人?」

唖然としている私を他所に、眼の前に立つ西方領主。

目まぐるしい状況に頭が追いつかない。

「パル様、落ち着いてくださいね?、まずは遅くなった事をお詫びしてくださいな。」

「ダッハッハッ、そうだったそうだった!」

私も、リアンですら目が点になった西方領館応接室は、数分前より風通しが良くなってしまったのだった。


「待たせて済まなかった!、改めて、西方領主、パルティア=ヴァストロードだ。宜しくな!」

差し出された手。

一度、顔を見た後に怖ず怖ずと手を差し出す。

『フィル…フィル=スタットです。』

バシッと握り返された手、が…

『い、い、痛たたたたっ!!』

思い切り握り返され、風通しの良くなった応接室には私の悲鳴が上がった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


予想外に追いつかない思考。

巻き起こる事象は未知への航路を照らし出す。


次回もお楽しみに!

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