101話 自然の力
101話目投稿します。
誰しも知っている力、齎されるその力は便利ではあるが、全てを覆す根源もまた存在する。
「魔法ってのはさ、そもそも自然の摂理に反してるんだよ。」
唐突に語り始めたロニー。
しかし各々が船作業の片手間に食べる朝食の話題としてはかなり興味を惹かれる内容だ。
「どういう事?」
「でもそれぞれの属性って所謂自然の中にあるモノが殆どじゃないですか。」
私たちの中では恐らく一番魔力の扱いに疎いカイルには難しく、日常的に使用して生計を立てていたパーシィからすればその意見は理解しがたい。
「んー…そうだね。例えば〜」
風を例に、とリアンが朝食を運ぶのに使った盆を手に、扇ぐ。
「これ、風を起こしてるよね?」
『まぁ当然というか、暑い日とかは手でもやるよね。』
「これは自然。でも…」
今度は軽く魔力を放出して盆を浮かせる。これも風魔法の一種だ。
「これ、魔力使わずに出来るかい?」
「むしろ俺は使っても出来ない…」
脳筋カイルめ…と言いたいところだけど、これ自体も魔力量の操作という点では私にも難しいかもしれない。
『投げて浮かせる事は出来ても浮かせたままは無理ね。』
「だよね〜。つまりこれは自然の摂理から外れている。という事。」
成程…流石は王都学術研究所に勤めているだけの事はある。
正直ちょっと見直した、というのは口に出さないでおく。
いや、でもこれは、日常的に魔力を扱う鍛錬として使えそうな気がするな。
よしっ、と一人意気込んでいた私は若干訝しげに思われたようだが
『あ、何でもないよ。んで、それがどうしたの?って話だと思うんだけど。』
「あぁ。そうだね。回りくどくなってしまったよ〜。つまりね。」
一転、表情が真面目な雰囲気に変わったのが解る。
「普通の魔導士レベルでは巨大な、もしくは膨大な自然の力に抗うことは難しいって話。もっと解り易く言えば、渦に巻き込まれたら…全滅?って事さー、あははははっ!」
笑えない。
「笑い事じゃないでしょっ!ロニーさぁん!」
半泣きでパーシィが掴みかかるが、
『そうね。笑えないわ…』
「そうとなれば急いでこの海域を脱出しましょう。雷雲の動きも油断出来ない。」
確かに。
『パーシィ。大変だろうけど今日は推力を上げよう。』
「ある程度の距離が取れれば逆に今の季節は渦の海流が利用出来るよ。」
改め口を開いたロニーの手には書庫で見つけたであろう一冊の本。
「この本に拠れば、あの渦は季節で回転方向が変わるらしいんだ。リアンさん、キミもある程度は知ってたりするんじゃないかい?、例えば渦の動きが弱くなるような次期、季節とか。」
「はい。昔、村の知見者から似たような話は聞いた事があります。ただ、今の時期は残念ながら…」
2人の間で話が進んでいるようだが、いずれにせよ渦からある程度離れる必要がある事に違いはない。
『パーシィ、とりあえず舵をお願い。カイルは風向きと雷雲の動きに警戒してね。』
「フィル、あとパーシィも。念の為説明しておくよ。」
ロニーが調べた渦の記録。
大凡は先程リアンと話していた内容で説明はつくものの、細かい点が補足された。
原因は解らないものの、渦は一年を通してその動きが変わるらしく、今の時期は中心から左回転に巻き込む流れのようだ。
つまりは、
『巻き込まれない程度の距離が取れれば、渦が巻き込む海流を受けて進める、と』
「正解!、パーシィも大丈夫かい?」
「ええ。分かります。とすると、面舵方向に向けておけば行けるかな。」
「そうだね。細かい方向は実際に波に乗らないと分からないけど、ある程度なら惰性で行けるはずさ。」
今度は海図を広げる。
「細かい海流まではまだ確認できてないけど、えーと、今は多分この辺り。あと、先日の漁村はここだね。んで渦はこの辺り。」
現在地として指差した位置は渦の北東。
海流が西方向に流れているのであれば、すでにその影響はあるはず。
『確か重い感じがするって言ってたっけ?』
「うん。色々聞いてたら原因は分かったよ。すでに波の影響があるって事だね。」
言いつつ、舵を右に傾ける。
「おーい、パーシィ!、風向きが左方向に変わってるーもーちょい右ー!」
見張り台からカイルが大声を上げる。
風も強くなってきているようだ。
『カイルー、雷雲はどうなってるー?』
「付かず離れずだなー。朝よりは近くなってるぜ、肌がひりつく感じがするー」
成程。そう言えばカイルの力の一旦であるシロは雷を使うんだった。
今どこに居るのだろうか?、結局この世界に戻ってきてからシロに会えてないのだ。
頭に浮かんでしまうと余計に会いたくなってくる。
『今はいいよ。』
小さく呟いて思考を止める。
今考える、やるべきことは他にあるのだから。
『ふぅ…中々に気が休まらないな。』
「早めに抜けたいね。それにしても…」
舵を手に、視線は前方を見つめながらパーシィが呟く。
「季節で動きが変わるって何でなんだろうね?、カイルさんじゃなくても興味が湧くんだけど。」
「あれれ〜?、そこ、気になっちゃう?」
「ひゃっ!?」
突然背後から腰を掴まれた彼女が小さく悲鳴を上げた。
姿を消していたロニー。
恐らくは書庫に戻って新たな発見を探していたのだろう。甲板に戻ったその手には先程とは別の本がいくつか見える。
「若干信憑性にかけるんだけどさぁ〜」
ピシリと差し出されたのは、とある物語の書籍。
「これには「海の魔獣」、こっちは「巨大な穴」、はたまた別の本には「異界」なんてのもあったね。どうだい?興味が湧くだろう〜?」
確かに記録ではなく物語となれば空想の産物が多く含まれるだろう。
信憑性には欠けるものの…
「火のない所に煙は立たないって言うからねぇ〜?」
彼女的には、例え物語であっても、何らかの元となるモノがある。という事だろう。
『原因、ね…』
また厄介事にならなければいいな…と乾いた笑いが漏れた。
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純粋な力は感情などなく、時に暴虐を尽くし、時に多大な豊穣を齎す。
次回もお楽しみに!