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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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96話 余暇

96話目投稿します。


まだ穏やかな水の上を走る船。

船上で、船内での出来事は、この先に訪れる旅の一頁になる。

『それ、楽しいの?』

「楽しいかどうかは置いといて、ある意味修行にもなってる。」

船尾甲板から糸を垂らすカイル。

出港しての甲板で習慣の鍛錬を終えた彼は、船内の把握も兼ねて色々と見て回ったらしく、訪れた倉庫で釣り道具を見つけた所が切掛になったらしい。

「無心になるのは勿論だし、集中すれば獲物の気配も判るかもな。」

『ふーん…気が向いたら私もやってみようかな。』

船尾からの景色は、遠くに王城の上の方が見える他は特に代わり映えしない運河。


水夫仕事を兼ねているリアンから伝えられた最初の目的地は運河を出て海に差し掛かる港町。

魔導船初の実働という点から一旦入港して各部の点検と操舵士の疲労感を確認するのが目的だ。

というわけで、今の私に取り急ぎの要件などは特に無い。

要するに暇だ。


カイルは早くも暇を潰せるモノを見つけたようだし、パーシィは操舵士故、初動としても踏まえれば離れる事はできないだろう。

ロニーは割り当てられた自室より書庫を寝蔵にする勢いで読書に夢中。

一番忙しそうなのは水夫、世話係、さらに叔父からの指示を聞いているところから今回の旅の案内役と大変そうだ。

『さて、と…リアンさんのとこに行ってくるね。』

流石に忙しそうにしてる人がいるのに一人だけ…というわけでもないが、のんびりするのも気が引ける。

陽の高さを見る限りは恐らく厨房で昼食の準備でもしているはずだ。


『リアンさーん、私、手が空いてるので何かお手伝いしますよー。』

予想通り厨房で見つけたリアンは、こちらも予想通り昼食の準備を行っていた。

「あぁ、フィル様、有難うございます。ではお言葉に甘えて、鍋の様子を見て頂いても宜しいですか?」

釜の前に近づき、彼から杓を受け取る。

「少し外します。パーシィさんの様子を見ておきたいので…」

『分かりました。器とかも用意しておきますね。』

軽い会釈を残し、リアンは厨房を後にした。

鍋の様子を見つつ、戸棚から適度な器を取り出し食卓へ。

正直なところ、上手とは言えない料理の腕。

この旅の間でリアンから少し教わってみるのも楽しいかもしれないな、と混ぜる鍋から一口味見する。

『おいし。』




昼食は軽め。

各々が適度な時間を見繕って食堂に立ち寄る。

私は私で準備を手伝うついでに手早く済ませ、リアンが用意した一食分を持ち甲板へ向かう。


『パーシィ、お昼持ってきたよー。』

「あー!、アリガトー、すっごいお腹空いてたんだよ〜。」

舵から手を離すと、僅かに速度が落ちるのに気付く。

『これって手を離すと止まるの?』

腰を下ろし、甲板に敷布を広げ、パーシィの昼食準備をしつつ、舵を見やる。

「ん〜、止まりはしないよ。この船にだって帆はあるから普通の船と同じに風を受けて進む事だって出来る。」

最初の目的地までは確認も兼ねて基本的には魔力を推力にして進む予定らしい。

問題なさそうであれば、それ以降は天候も左右するが自然航海を織り交ぜていく。

そうなると主に舵取りを行うのは方向の調整と風力以外の推力が必要な時だけ、という事だ。

「きっとこの結果がまた開発の参考になって、王都の魔導技術が進歩するんだよ。そう考えるとさ、私って凄い事のお手伝いしてるって事だよね?」

『改めて言葉にすると凄いよね…』

「そのうち空も飛べたりして?、なんてね。」

あははっと2人で笑うものの、住人としては当たり前過ぎて忘れそうになるが、そもそも王城などの施設は中に浮いているわけで、ソレにも魔導技術が関わっているのは間違い無いはず。

そう考えると意外に空を飛ぶ魔導器を見ることも困難ではないのかもしれない。

『もし出来たらまた試作機に乗る?』

「確かに魅力的だよね〜あ、これ美味しい。」

微かに塩気を感じる風は、海に近づいている事の報せ。

流石に旅の間ずっと快晴というわけには行かないだろうが、今はただ心地よい陽の光の下で笑い合える事が楽しく思う。




「片付けまで手間かけてゴメンね?」

『何でもないよこんなの。後でまた様子見に来るね。』

昼食を終えたパーシィは引き続き舵を手に船の操作に戻り、私は彼女の昼食の片付けがてら厨房へと戻る。


『あら…ロニーさんですか?』

厨房の食卓には一人分の器が残っている。

「ええ。書庫に籠もったままのようですね。」

多分これは少し困っているのでは?、と考え、持ち帰ってきた器をササッと洗う。

『リアンさん、私が持っていきますから、これに。』

言葉に出さなくても喜んでくれたのは分かる。

「有難うございます。助かりますよ。」

いえいえ、と返す言葉に付け加え、

『ロニーさんの性格はまぁあんなですけど、私に出来る事があれば何でも言ってくださいね?。リアンさんも旅の仲間なんだから。』

予想外だったようで、面食らった表情の後に微笑んだ。

「有難う。」

彼の返事から少しだけ柔らかさを感じる事ができた。




書庫は最早出港前の整頓された空間と打って変わって、散らかってしまった。

原因となる人物は本の山に埋もれている。

にしても、叔父にせよ、ロニーにせよ、何故ここまで持ち込んだのか…

足元に転がっている一冊を手に取り、背表紙を確認すると…

『あ、これ叔父様の書斎の本だ。』

私に気付いた本の虫が目を輝かせて口を開く。

「そうなんだよ〜、まさかアイン様の蔵書がここで読めるとは思わなくてさぁ!」

『あー…成程。』

普段、研究所での仕事っぷりを見る限りはそれ程目立つ事はないが、彼女の未知への探究心はとてつもなく大きい。

恐らくそれを知っているからこそ、自分の書斎にある必要と考えた蔵書を大量に用意したのだろう。

更には、ロニーが居たからこそ、今回の旅にアインが同行しなかった、とも言える。

夢中になって読み耽るその内容は、完全ではないものの、聞けば応えられる程度には彼女の知識に植え付けられているはずだ。

それ程までに、叔父の彼女に対する評価は高い。

『でも、食事はちゃんと取らないと駄目だよ?』

「って、もうそんな時間だったか…リアンさんに謝らないとなぁ。」

手に持った彼女用の昼食を見せる。

『今回は持ってきたけど、次からは自分でね?でないとごはん抜きになっちゃうよー?』

「ハイスミマセン…キヲツケマス…」

流石に飯抜きは避けたい様子の彼女は、渡された昼食を受け取り、美味しそうに食べ始めた。


『…この本…。』

先程手に取った一冊の本はどことなく、造りが粗い。

「あぁ、それね」

私の手に収まる本を見た彼女が軽く応える。


「それは多分、アイン様の旅の記録だよ。」


決して綺麗ではなく、恐らくは他人の目に入る事も想定されていない、ただ単に旅の記録を綴った。

彼が旅を終えた瞬間に完成した蔵書。

この書庫の中にあるどんな本よりも、この一冊は私の興味を捉えた。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


運河を抜け、眼の前に広がる大海。

辿り着いた小さな漁村での一夜は互いを知る一時となる。


次回もお楽しみに!

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