表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/72

第60話 衆議院選挙①


 東京都。千代田区。内閣総理大臣官邸。首相執務室。


 みやびフェス東京から5日後。衆議院選挙、投票最終日。午前10時。


「首尾はどうだぁ。霧生」


 一面の窓ガラスを立ったまま見つめ、語りかけるのは、千葉一鉄。


 外は大雨。両手には杖を持ち、黒スーツ姿で、声色はいつもより重苦しい。


「内通者によると、僕が9万票で神宮が5万票なんで、まぁ負けないっしょ」


 一鉄の背後に立ち、返事をするのは霧生卓郎。


 服装は、グレーのカジュアルスーツに袖を通している。


「……投票率はどうなっている」


 最終日に4万票差がついた時点で負けようがなかった。


 ただ、一鉄は微塵も油断していない。更なる情報を催促してくる。


「全体は56%。最低が20代が27%で、最高が70代の75%。とご年配無双ですわ」


 懐から携帯を取り出し、画面に書かれた情報を伝える。


 高齢者は言わずもがなの数値。ここが当然ターゲット層だった。


 一方、ターゲット外の若者は100人中27人しか投票していないという数字。


(例年より低いねぇ。そりゃあ、俺含め政治家は若者に見向きしませんわ)


 投票率が低い層に媚びた政策を掲げても、効果は薄い。


 なにせ選挙は票を多く集めた方が勝つ単純でシンプルなゲーム。


 投票に来ない若者より、政治に関心が高い高齢を狙い打ちするのが無難。


「あいつを侮るな。最後まで何が起こるか、分からんぞ」

 

 そう考えていると一鉄は振り返り、鋭い眼光で言い放つ。


 娘に勝ってほしいのか、負けてほしいのか。どっちなんだか。


「分かってますよ。これから最後の一押しに行ってくるつもりなんで」


 まぁ、どちらにせよ、気を抜くつもりなんてない。


 コート掛けにかかった緑色のレインコートを取り、部屋をあとにした。


 ◇◇◇


 東京都。千代田区。国会議事堂前。


 そこに止まっているのは、一台の黒いミニバン。


 車の上部にはモニターが張られ、そこに映し出されるのは。


『伊勢神宮、伊勢神宮に清き一票をお願いします!』


 金髪サイドテールに、紅白の巫女服を着たVtuber。


 そして、投票を呼びかけるのは、車内にいるジェノだった。


 服装はいつも通り青い制服。助手席に座り、拡音器に声を当てている。


「最終日まで雨、か……。最後までついとらんようじゃの」


 運転席に座っているのは、臥龍岡県知事。


 黒い燕尾服を着ていて、その顔色と声音は暗かった。


 そう感じるのも無理はない。雨のせいで、人が外にいないんだ。


 この5日間。必死に選挙活動を続けてきたけど、手応えなんてまるでなかった。


(せめて、何票入ったか分かればな……)


 辺りを見回しても、通行人しか見当たらない。


 それもほぼ全員が素通りしていく。不安は募るばかりだった。


「……ですね。それでも、やるしかありませんけど」


 ただ不安がってばかりじゃ前に進めない。


 すぐに気を取り直して、もう一度、辺りを見渡す。


 すると、こちらに足を向ける、緑のレインコートを着た人が見えた。


(良かった……。今日一人目だ)


 たった一人とはいえ、されど一人。


 一票の力は大きい。拡声器に声をあてようとする。


「……ん?」


 適当な位置で足を止めるかと思ってた。


 だけど、男はこちらに迫り、助手席の窓を数度叩いてくる。


「ちょい乗ってもいい?」


 窓越しに響いてきたのは、聞き覚えのある声。


 そして、フード越しに覗いてくるのは、見覚えのある顔。


「……どうぞ」


 脅すような形でアザミの監禁場所を割り出してもらった人。


 霧生卓郎。同じ選挙区に出馬する、今や手強いライバルでもあった。


「……っしょっと」


 ガタンと扉が開き、霧生は三列シートの真ん中に座り込む。


 すでにレインコートを脱いでおり、扉を閉じると視線はこちらに向いていた。


「これはまた大物が来たもんじゃ。冷やかしか?」


 バックミラー越しに、県知事は相手の正体に気付く。

 

 いつものようなふざける様子はなく、冷たくあしらっている。


「せいかーい。心を折りに来たよん。今、何票集まってるか、聞きたいっしょ?」


 否定するかと思いきや、霧生は冷やかしに来たことを肯定する。


 ただ、相手が切り出してきたのは、今、一番知りたかった情報。


「……ぜひ、教えてください」


 どんなに差があろうとも、聞いておきたかった。


「やっぱ知りたいか。教えてやってもいいけどさ、一つ条件をつけてもいい?」


 ただ、簡単には教えてくれそうにない。


 こちらの反応を見て、取引に切り替えていた。


 前回、煮え湯を飲まされた腹いせ、なのかもしれない。


「……条件次第です」


 それでも、相手のペースに呑まれるわけにはいかない。

 

 まずは、条件の確認。乗るかどうかは、聞いてから決める。


「率直に言うよ。そちらの姫殿下がどうして逃げたか、教えてくんない?」


 そうして、切り出されたのは、最悪の条件。


 敵陣営に絶対に見抜かれてはいけない情報だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ