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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第58話 エンジェルロード②


 江戸城本丸跡地下。

 

 緑のステージからやや離れた場所。


 そこにはワイヤレスイヤホンマイクをつけたアザミ。


 その周囲には、みやびフェススタッフとライバーである鬼たちがいた。


「援護してください。みやびフェス東京はわたしが必ず成功させますから」


 マイクはミュート中。


 アザミは決意の言葉を口にする。


 目的地は、モーションキャプチャー用の緑のステージ。


「人と鬼の戦争、ってわけね。覚悟はできてんの?」


 しかし、その行く手を遮るのは、霧生と警官たち。


 こちらは十数人で、あちらは数十人。仲間を呼んでも人数は不利。


「今、お止まりになるなら、危害は加えないけれど、いかが?」


 背後には、得体のしれない強さを誇るユリア。


 彼女が本気で止めにくるなら、死傷者が恐らく出る。


 逃げた方が利口。諦めるのが吉。やらなければ誰も傷つかない。


 ――だとしても。


「道を開けてください。フェスの邪魔なので」


 逃げない。諦めない。やるしかない。


 誰かに指示するだけの人間にはなりたくない。


 恐怖で人を支配しようとする人間には負けたくない。


 言い出した本人が誰よりも責任を負い、身を削って成功させる。


 それが理想の人物。それが理想のアイドル。それが理想のVtuberなんだ。


(ナナコさんから……鬼龍院みやびから学んだことを全てぶつけてやる)


 アザミは、刀を片手で握り、刃先を地面に向け、意思を込める。


 体から青色のセンスが溢れ出し、視線に迷いはなく、前だけを見ていた。


「はぁ、先方は戦争がお望みか。動いたら撃っていいよん」


「あらあら、もう少しお利口さんだと思っていたのだけれどね」


 敵対する勢力は臨戦態勢に入り、こちらの出方を待つ状態。


 警官たちは回転式拳銃を向け、ユリアは白い羽根を両手に挟む。


 一歩でも踏み込めば始まる戦争。発言を撤回すれば、まだ間に合う。


「――」


 全部承知の上で、アザミは踏み込んだ。


 鬼と人の歴史を変えるための大きな一歩を。


「あちゃー」


「お馬鹿ね」


 直後、呆れたような声と共に、銃弾と羽根が飛び交った。


 前方と後方。その二点からの同時攻撃。普通なら避けきれない。


 だからこそ、周りにいる鬼たちは、身を呈してかばおうとしてくれている。


 ――でも、心配はいらない。


超原子拳アトミックインパクトォォォ!!」


 活発な声と轟音と共に、地面はえぐれ、見事なクレーターが出来上がる。


 穴ができ、重力に引かれたアザミたちは、直線上の銃弾を物理的に回避する。


「全弾当てるよぉ。――鬼爪操弾」


 次に聞こえたのは粘っこくて、頭に残る高い声。


 飛び交うのは、鋭利な爪。その一発一発が白い羽根を穿つ。


「……ちょっ、地面ないんだけどぉぉぉっ!?」


 そこに、前線にいた霧生の叫び声が響き渡り、


「おいおいおい。嘘でしょ」


「く、訓練通り、五点着地をすれば――」


 隣の警官二人も巻き込まれ、拳で砕かれた地面の底へ落ちていく。


「今のは味方です。安心して上がってください」


 同じく落下中のアザミは、なんの動揺もなく指示を飛ばす。


 指示を受けた、鬼たちの顔は引き締まり、壁を蹴り、跳び上がる。


「大人しくそこで見ていてください。わたしが世界を変えます」


 落ち行く霧生を見つめながら、アザミは告げる。


 その下にできた穴は深い。高さ5メートルほどはある。


(相手はただの警官と政治家。壁は上ってこられない)


 そう思考しながら、意思を込めた足で壁を蹴り、跳んだ。


 その先には、無傷の鬼たちに、純白の鎧、大量の警官たち。


 ――そして。


「応援、させてもらうでぇ」


 青いセーラー服に、両手の黒い指ぬきグローブを整える人物。


 茶色の後ろ髪が外にはねた、活発そうな女性。滅葬志士棟梁――毛利広島。


「今度はあーしが守る番だよ、薊」


 穴だらけのピンクのワンピースに、鎖が断たれた手錠。


 飛ばした爪と傷は、鬼の特性で完治しつつある同僚――桃瀬桃子がいた。


「後ろの鎧を頼みます。羽根には当たらないでください」


 感謝も謝罪もしない。全ては事が上手くいってから。


 最低限の言葉で指示を送り、アザミは振り返らずに前進する。


「……う、動くな!」


 そこに、若々しい男性警官が銃口を向けてくる。


 その手は激しく震えていて、照準がまるで定まってない。


 恐らく、今まで人に向けて拳銃を撃ったことないがないのだろう。


「邪魔しなければ、手出しはしません」


 足を止めるに値しない相手。止まるわけがなかった。


 銃口にあえて向かっていくような形で、足を進めていく。


「……あ、あぁ」


 その様子に気圧されてしまっているのか、顔は青ざめている。


 それもそうだ。刀を持った相手が近づいてきたら怖いに決まってる。


 こうなれば、戦うどころの話じゃない。戦意喪失と見なしてもいいだろう。


「あぁぁぁぁああああああああああっっ!!!!」


 しかし、警官は半ば狂乱状態。


 そのせいか、引き金を引いてしまっていた。


 銃声が鳴り響き、38口径の銃口から、一発の銃弾が放たれる。


『いいか、38口径の弾は秒速80メートルで迫る。見切れるなどと思い上がるな』


 瞬間、頭を駆け巡ったのは、父の言葉。


 瞬き程度の時間でも、8メートルほど進む速さ。


 普通は見切れるはずがない。普通は対応できるはずがない。


 でも、今は普通の状況じゃない。今だけなら、なんでもできる気がした。


「――」


 刀で斬る。なんて無駄な動作はしない。


 弾道を読んで避ける。なんて無難な動作もしない。


 銃弾が目で追えてしまった時点で、もっとも効率的な動作は、一つ。


「……は?」


 こぼれ落ちたのは、驚く声と銃弾。


「拳銃ごときで、今のわたしは止められませんよ」


 見切った弾を刀の腹で受ける。それが、今の最適解だった。


 すると、そんな異様な一連の出来事を目の当たりにしたせいなのか。


「「「……」」」


 ボトボトと、拳銃を落とす警官たち。


 道は勝手に開き、視線の先には緑色のステージが見える。


「ご協力感謝します」


 一歩。また一歩と足を進めると、見えてくる。


 緑のステージで待ち受けるのは、見知った顔の二人。


「あぁ、心より感謝します。鬼に加担した罪人を、ここで葬れることを!!!」


 婦警服を着た、長い紫髪を後ろで編んだ女性。その手には刀。


 初めて出会った時と同じ台詞で立ち塞がるのは、滅葬志士棟梁――臥龍岡アミ。


「……アザミさん。俺はこの戦いに手出しはしません」


 もう一人は、青い制服を着た、左頬に刃物傷がある褐色肌の少年。


 その表情はどことなく暗く、申し訳なさそうにしている仲間――ジェノ。


(ジェノさんが止めないのは、きっと理由がある)


 真剣勝負。それは間違いない。


 だけど、あの時とは互いに状況が異なる。


 立ち位置も敵対していた相手も、何もかもが変わった。


(恐らくこれは、彼女が抱える矛盾と踏ん切りをつけるための戦い)


 鬼である桃子をアミが助けてくれたのは、分かってる。


 鬼か人。その狭間で揺れているなら、背中を押してあげるまで。


「受けて立ちます。鬼龍院みやびが思い描いた夢を、邪魔しようというのなら!」


 始まるのは、京都から続く因縁。初めての出会いの続き。


 鬼を肯定する人間と、鬼を否定する人間。互いの信念をかけた戦いだった。

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