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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第57話 エンジェルロード①


 東京都。千代田区。皇居外苑。壱番ステージ内。


 天気は大雨。大勢の観客が木陰に集まり、雨宿りをしている。


 その手には、缶コーヒーを始めとした、冷えた体が温まる飲料水を持っていた。


「いやぁ、運営神対応すぎな」


「ほんとそれ。でも、雨はだるくね?」


 木のそばに立ち、会話するのは黒髪と金髪の青年。


 赤い椿が彩られた黒色のレインコートをそれぞれ着ている。


 金髪の青年は、缶コーヒーをちびちび飲みながら、愚痴をこぼしていた。


「……だなぁ。フェスは十分堪能したし、帰るか?」


「今なら電車も空いてるし、ありあり。さっさと帰るべ」


 二人の考えは、帰る方向に傾こうとしている。


 悪天候という仕方のない事象。誰も悪くないトラブル。


「もう帰っても、いいんじゃない?」


「電車、今なら空いてるっぽいし、いいかも」


 その考えが二人の女子高生に伝播し、帰り支度を開始。


 桃瀬桃子モデルの派手なピンク色のレインコートを羽織っていった。


「仕方ない、帰ろうか」


「……さすがにもう待てないよね」


 それが、二人の若い夫婦にも伝わり、白いフードを被る。


 服装は赤い鳥居が描かれた、伊勢神宮モデルの白いレインコート。


 止まらない悪い流れ。熱量の高いファンでさえも、再開を諦めかけている。


『――皆さん、聞こえますか!!!』


 そんな流れを断ち切ったのは、滑舌のいい、はっきりとした声。


 各地に配置されたスピーカーから、熱が冷めつつあった観客に届き始める。


「おい、これって……」


「いやいや、なんか、声違くね?」


 真っ先に反応するのは、黒髪と金髪の青年二人。


「あー、帰るのやっぱなしで」


「だね。さっさとステージ戻ろ」


 次に女子高生二人は、アナウンスを聞くまでもなく駆け出し。


「この声色で、実は中止とかだったりして……」


「馬鹿。私たちをくっつけたあの子が、そんなことするわけないでしょ」


 若々しい夫婦は痴話喧嘩を繰り広げながらも、足はステージに向いている。


『間もなくフェスを再開します! 残すは最後の曲『エンジェルロード』。伝説のVtuber。鬼龍院みやびさんが生前残した歌詞を、わたしたちが必死で完成させた『至高の楽曲』です。大雨の中でも聞きたいって方だけお付き合いください!』


 そこに、最後の一押し。正式な再開アナウンスが流れ込む。


 明るい声色に引っ張られるように、会場周りの悪い空気は一転。


 大雨の中であろうとも、帰ろうとする観客は誰一人としていなかった。


 ◇◇◇


 二週間前。大阪白十字病院。地下一階。特別室。


 ベッドから身を起こすのは、白い入院服を着たナナコ。


 横の床頭台でメモを取るのは、白いナース服姿のアザミだった。


「題名は、名付けて『エンジェルロード』です!」


 歌詞を決める前。ナナコは開口一番に題名を決めていた。


 アザミは言われた通り、黒いボールペンでメモに題名を記入する。


「ちょ、直訳すると……て、天使の道、ですか……」


 正直、あんまりピンとこなかった。


 想像はできるけど、映像がぼんやりとする感覚。


 もしかしたら、ファンタジー要素が強すぎるせいかもしれない。


小豆島しょうどしまという香川県北東にある離島をご存じですか?」


 ナナコはそのまま話を続ける。


 離島と天使の道。繋がってるように思えない。


「く、詳しくは知りませんけど、な、なんとなく聞いたことがあります」


 意図が分からないまま、アザミは合いの手を入れる。


 小豆島には天使が存在していて、その住処に繋がる道がある。


 なんて言われたらどうしよう。驚く準備でもしておいた方がいいのかな。


「小豆島には、潮が引くと海面から砂地が現れ、海岸と離れ小島を繋ぐ道ができます。その風景が天使の羽のように見えることからエンジェルロード。天使の散歩道と呼ばれ、大切な人と手を繋いで歩くと願いが叶うという言い伝えもあります」


 そんな無駄な気を揉むアザミに対し、ナナコは地に足ついた説明をしていった。


(……なるほど。そういうことなら想像できるかも)


 アザミは目を閉じて、想像を膨らませていく。


 瞼の裏には、離れ小島に一筋の道ができる風景が見える。


 そして、手を繋いでその道を歩く、自分とナナコの姿が浮かんだ。


「イメージ、できましたか?」


 そう物思いにふけっていると、現実に引き戻される。


 目の前には、本物のナナコ。想像の時より少しだけ顔色が悪い。


「は、はい。はっきり、見えました」


 ただ、なんとなく感覚は掴めた。


 きっと、今のイメージを元に歌詞を膨らませていくんだ。


「じゃあ、早速ですが、思ったことを紙に書いてみてください」


「わ、わたしが、ですか? きゅ、急にそんなこと言われても……」


 彼女の言ってることは分かる。だけど、できる気がしない。


 感覚で分かった気になれても、実際にやれるかどうかは別の話。


 せめて、見本が欲しい。それがあれば、なんとかやれそうな気がした。


「仕方ありませんね。今からお手本を見せるので、よーく見ててくださいね!」


 それが、『エンジェルロード』の始まり。制作秘話だった。

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