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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第54話 みやびフェス東京⑧

 

 江戸城本丸跡地下。


 広い洞窟内には、鎧と鬼がいた。

 

「あれだけ威勢のいいことを言って、もうお終い?」


 白黒の翼を羽ばたかせる音と共に、見下すような声が響く。


 そう言い放ったのは、空中に留まる、純白の鎧を纏うユリアだった。


「……くっ、なんで、センスが」

 

 一方、地上にいる鬼の桃子は、白い羽根が体中に刺さっている。


 体表面を覆っていたセンスは消え、そのまま押し切られる形となっていた。


「も、もうやめてください……っ!」


 これ以上は、もう見ていられない。


(ライブがあるから戦うなって言われたけど、我慢できない……っ!)


 アザミは桃子の前に回り込み、鎧の前に立ち塞がる。


 温存しないといけない体力を、全て使ってもいいという覚悟を秘めて。

 

「選挙のお出馬を辞退する。そう仰るなら、見逃しましょう」


 すると、ユリアはこの展開を読んでいたのか、一切の淀みなく言い放つ。


 そこでようやく相手の目論見が分かった。きっと政治界からの刺客なんだ。

 

(辞退すれば、桃子さんは助かる。だけど、ナナコさんの夢が……)


 彼女ならどっちを選んだのだろうか。


 この場にいたらどんな決断をしたんだろうか。


 今はもういない、憧れの先輩であり、友人に思いを馳せる。


(……違う。彼女ならきっと助ける。助けた上で、夢も叶えて見せるはず)


 でも、深く考えるまでもなかった。


 彼女なら両方やる。なんとかしてしまうはず。

 

 だったら、考えるまでもない。やるべきことは一つなんだ。


「じ、辞退はしませ――」


 この状況を切り抜ける方法なんて思いついてない。


 だけど、頭に浮かんだ答えを、勢いのまま口に出そうとした。


「――雷鳴よ轟け」


 そこに、追い打ちをかけるようにユリアは不穏な台詞をこぼす。


(攻撃っ!?)


 瞬時に腰の刀を握り、横に構える。


 それはセンスの伴わない、ただの物理防御。


 反射的にセンスを纏えればよかったけど、至難の業。


 一心との戦いでは、来るのが分かったからできたけど、今回は無理。

 

(……あれ、痛く、ない?)


 当然、修行不足の痛い仕打ちが来ると思った。

 

 だけど、痛みはない。ただ、相手は言葉を発しただけ。


「……あぁぁあぁっぁあああぁっぁぁああああああっ!!!!!!!」


 そう思っていると、後ろから聞こえるのは、悲鳴。


 すぐさま振り返ると、桃子は雷に打たれたように苦しんでいた。


「も、桃子さんっ!!」


 反射的に桃子の方へ駆け寄ろうとする。


「駄、目! あー、しに、触れるな!!!」


 だけど、桃子に強い言葉で拒絶され、我に返る。


 どういう仕組みか分からないけど、この羽根。何かある。


 彼女がそこまで言うなら、うかつに触るわけにはいかなくなった。


「白の羽根は、『既知』の現象を自由にお再現することが可能なの」


 すると、ユリアは懇切丁寧に種明かしをしてくれる。


(『既知』って、あらゆる現象、全て……っ!?)


 背筋がぞっとする。言ってしまえば、なんでもありな能力。


「つまり、いつでも殺せるということ。その意味はお分かり?」


 戸惑っている間に、ユリアは淡々と話を進めてくる。


 脅しだった。あくまで目的は、出馬を辞退させること。


 そのためにわざと能力を明かして、心を折りにきたんだ。


(無視したら、桃子さんは……)


 ちらりと後ろに目配せする。


 そこには、雷鳴の余波で痺れる桃子の姿。


「あざ、み……。あーし、は、見捨てて」


 視線の意味に気付いた桃子は、強がるようにそう言った。


(どっちもなんて無理……。どっちか諦めないと……)


 桃子か、ナナコの夢か。


 一人の鬼の命か、大勢の鬼の命か。


 簡単には選べない。どちらもかけがえのないもの。


「わ、わたしは……」


 でも、早く選ばないと両方失うかもしれない。


 そんな思いだけが先行し、口走る。答えはまだ決まってない。


「お聞かせになって。あなたはどちらを選ぶのか」


 もう逃げられない。次の一言で決めないといけない。


 それなのに、考えがまとまらない。時間だけが過ぎていく。


(決めないと……。早く、早く……)


 いつ、彼女が痺れを切らすか分からない。


 言葉を発するだけで、桃子はきっと、死んでしまう。

 

 能力の根源は羽根。体中に刺さっていて、取り除くのは難しい。


(選挙を諦めれば、桃子さんを確実に助けられる。いや、でも……)


 かといって、桃子を助ければ、ナナコの夢が消える。


 大勢の鬼たちがこの先も路頭に迷うし、最悪、暴徒化する。


「お時間稼ぎのつもり? 早くお決めになって。……でないと」


 次にユリアが起こす行動は分かる。


 どうせ、後ろの彼女をいたぶるつもりなんだ。


「わ、わたしは……っ!!」


 その行為を遮るように言葉を重ねる。


 決める。決めないと。どちらか両方は救えない。


「……っ」


 視線を落とし、考える。すると、右手の薬指には、銀色の指輪。


 ジェノからもらった、あらゆる魔や呪いを払う邪遺物イヴィルが目に入る。


(……もし、仮に、刀のコントロールが可能なのだとしたら)


 そんな時に浮かんでくるのは、第三の選択肢。


 アザミが持つ刀は呪われている。抜けば、刀に支配される。


 見境なく襲い続ける、化け物に成り果てる。だけど、それを支配できたら。


「……」


 ごくりと息を呑み、緊張が走る。


 まだやめられる。今なら安全策を取れる。


 思いついただけで、そんなリスクを背負わなくていい。


 出馬を諦めれば丸く収まる。少なくとも桃子は殺されずに済む。


 選挙はまた出ればいい。今回は駄目だったとしても、きっと次の機会がある。

 

「――あ、あなたを倒しますっ!!!」


 それなのに、気付けば刀を抜いていた。


 赤黒い刀身をあらわにし、強く言い放っていた。


 だって、友人を助けたかった。鬼龍院みやびになりたかった。


 ――だから、戦うんだ!!!


「あらあら。あなたは、もう少しお利巧な人だと思ったのだけれどね……」


 聞こえてくるのはユリアの冷たい声。


 次に相手が取る行動は、決まっている。


「北辰流――【風船葛フウセンカヅラ】」

 

 でも、やるせるわけがない。


 アザミは刀を上段、横一文字に構え。


 背後にいる桃子に向け、円を描くように優しく振るう。


「――焼け死ね」


 それとほぼ同時に、ユリアは明確な殺意を乗せ、言い放った。


「……えっ」


 桃子は言葉を失っている。斬られると思ったんだろう。

 

 でも、刃は桃子に届いていない。狙いは全身に刺さる白い羽根。


 それらを根こそぎ絡み取り、引き抜く。絶妙な力加減と、太刀風を用いた技。


(お願い……間に合って)


 まず、第一段階として、桃子が助かること。


 それが絶対条件。じゃないと、牙をむいた意味がない。


「……たす、かった?」


 軽い尻もちをつき、体を見回すのは、桃子。


 燃えてもないし、死んでもいない。第一段階はクリア。


(やったっ! それなら、次の問題は……)


 第二段階は、刀に支配されないこと。


 すぐさま、刀を握る腕を見つめ、覚悟する。


「――ッッ」


 すると、案の定、腕の血管が浮き上がり、体を支配しようとしてくる。


(ここさえ耐えてくれれば、後は……あと、は……)


 そんな中、ふと見つめるのは右手薬指にある銀色の指輪。


 この指輪には、刀の暴走を一度だけ止めてもらったことがあった。


「お見事と言っておきましょうか。ただ、お苦しそうね。ご気分でも優れない?」


 でも、その思惑を分かった上で茶化してくるように、ユリアは言う。


 まるで、刀のことを知っているような反応。だとしたら、裏にいるのは。


「……くっ」


 そう考えを巡らせると、不意に立ちくらみに襲われる。


 乗っ取られる前兆だ。目の前が暗転し、失神してしまいそうになる。


(だ、め……。このままじゃ……)


 いつもより進行が遅い気がした。だけど、足りない。


 指輪の効力はあるけど、あと一つ、何かが欠けているような感覚。


(なに、か……。画期的な、なに、か……)


 この状況を分かっているのは自分だけ。

 

 自分がなんとかしないといけない。助けは期待できない。


 恐らく、取れる行動は一回きり。それ以上持たないのが、肌感覚で分かる。


「ふふっ。おバターになった黒服も、そんなお顔、してましたわね」


 嘲笑う声が聞こえる。それ自体はどうでもいい。問題はその後。


(や、っぱり……この、人が……キクさんを……っ!!!!)


 お腹の奥底から溢れてるくる黒い感情。その衝動に呑まれ、気絶しそうになる。


「……ッ!!!」


 本能のまま、右手の甲を噛んだ。痛みなんてない。


 そのまま歯をきしらせ、豪快に食いちぎり、正気を保つ。


(……硬、い。じゃま、だな)


 そこで、歯に硬い異物が当たったことに気付く。

 

 意識はほとんどない。その異物を歯で掴み、引き寄せ。


「……っ」


 ごくりと異物を飲み込んだ。


 それは、銀色の装飾品――破邪の指輪。


 魔と呪いを払う効果があるもの。それを体内に入れ込んだ。


「お無駄なことを。何をやっても、あなたはもう……」


 ユリアは呆れたように言葉を投げかけてくる。


(熱、い……体が、溶け、るっ)


 でも、そんなのどうだっていい。

 

 肌が溶け、皮膚が焼け、肉がただれる。


 そんな感覚が体を支配して、脳が焼き切れそうだった。


(もう……限界。もう、もたない……)


 そろそろ、意識が途切れる。目の前が真っ暗になる。


 目を覚ました頃には、血と肉と臓物ばかりの地獄が広がってる。


(いやだ……いやだ、いやだ、いやだ、いやだっ!!)


 体が拒絶する。心が拒絶する。本能が拒絶する。


 刀に宿る呪いを魂が拒絶する。頭が拒絶する。意思が拒絶する。


(せめて、せめ、て、桃子さんだけは……)


 薄れゆく意識の中で、思うのは桃子のこと。

 

 自分の手で仲間を殺したくない。そう切に願った。


「……ッッ」


 それを機に、どくん、と心臓が脈打つのが聞こえる。


 どくん、どくん、どくんと、人ならざる心音が鳴り響くのが聞こえる。


(……ちが、う。いつものとは、何か、違う)


 感じるのは、異常な熱さ。溶岩を全身に浴びされたような気分。


 それなのに、不思議と心地いい。不快と快楽が共存したような状態。


 今ならなんでもできる。そんな万能感が体を支配し、ふと息を吐きたくなる。


「………………ふぅぅ」


 口からは白くなった息が漏れ、アザミの瞳は赤に染まる。


 ここまでは乗っ取られた時と変わりない。一つだけ違ったのは。


「白、髪……? 一体、あなたの中で何が……」


 怯え、戸惑っているユリアの様子を、目と耳で感じられること。


 だったら、次の言葉は決まってる。迷うことなく、言い放ってやる。


「聞こえていませんか? わたしはあなたを倒す。そう言ったんです」


 黒髪が白髪に変化し、自信に満ち溢れたアザミは勝利宣言する。


(キクさん、仇はわたしが必ず取って見せますから……)

 

 これで、次は第三段階。ユリアを刀で裁く。そのための戦いが始まった。

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